31.不良少女たち(3)

 田代の申し出た条件とは、新たに作る屋敷を森田組に提供するとともに自分もそこに住まい、森田組が集めた女を田代の享楽のために提供することである。
 この後、いくつかの偶然が重なり、田代は自らが理想の女性とする静子夫人を手に入れることになったのである。
 嗜虐趣味を持ち森田を支援するための財力を有する田代と、秘密写真や映画といったいかがわしい事業の才能を持つ森田、そして生きるために自分たちをモデルにしたポルノ写真を売り歩いていた葉桜団の少女たちの出会いが、今回の静子夫人誘拐に端を欲する一連の美女失踪事件のきっかけになったとも言えるだろう。

 義子とマリが2本目のビールを半ば以上空けたところで店の中に女が入って来た。
「あれ?」
 入り口の当たりできょろきょろと当たりを見回している女を見て、義子が声を上げる。
「久美ちゃんやないか」
 その声に気づいた久美子は一瞬緊張した表情になるが、すぐに微笑を浮かべ、義子とマリの方へ近づく。
「義子さん、だったっけ。久し振りね」
「久し振りって程でもないけど。あれからどうしてたんや」
「別に、いつも通りふらふらしていたわ」
「そうか」
 義子は久美子を、自分たちと同じボックス席に座るよう促す。
「マリは初対面やったね。この前悦子や直江たちを助けてくれた久美子はんや」
「ああ、あんたが」
 マリは頷くと、久美子に微笑みかける。
「マリです、よろしく」
「はじめまして、久美子です」
 マスターが新しいビールとグラスを持ってくる。
「あ、私……」
 ためらう久美子にグラスを持たせると、義子がビールを注ぐ。
「遠慮せんでええ。この店はあたいら、つけがきくんや」
「そうそう、溜まったら身体で払ったらいいし、ね、マスター?」
「マリちゃんはだいぶ溜まってますよ。最低4回は抱かせてもらわないとね」
 マリとマスターのきわどい会話にどぎまぎしている久美子を、義子が楽しげに見る。
「久美ちゃんはあれだけ腕っ節が強いのに純情なところがあるんやな。きっと育ちがええんと違うか」
「そ、そんなことないわよ、からかわないで」
「そう言えばマリも歌舞伎町で久美子みたいな強くて綺麗なお姉さんに助けられたことがあったな」
 義子の言葉に久美子の肩がピクッと震える。
「そう言えばそんなこともあったわね」
「あのお姉さんにもたっぷりお礼をして上げたけど、今頃どうしているかな」
「さあ、綺麗な女の人だったからきっと素敵な旦那さんと結ばれているんじゃないかしら」
 義子とマリはそんなことを言いながら笑い合う。
(ひょっとして私の正体に気づいているのでは?)
 久美子は二人の意味ありげな会話に緊張する。
 二人は明らかに久美子の兄、山崎探偵の助手で恋人であった京子のことを話している。そうやって久美子にカマをかけているのだろうか。
(ここは平静を保たなければ)
 久美子と葉桜団の出会いが、京子のそれと似てしまったのは実際、全くの偶然である。ここで動揺すれば義子たちの不審を招き、折角つかんだ手掛かりへの糸が断ち切られてしまう。久美子は必死で落ち着こうとする。
「マリはレズっ気があるから、あの時のお姉様に惚れてたんやないか」
「うちの姉さんと一緒にしないでよ」
 マリとそんな軽口を交わしながらしばらく久美子の表情を観察するように眺めていた義子が話題を変える。
「ところで久美ちゃんはこのあたりはよく来るの?」
「いえ、そうでもないわ」
 久美子は一瞬考えると首を振る。実際、歌舞伎町に足を踏み入れたのは兄の仕事を手伝い始めてからのことである。よく来ると言って突っ込まれたらすぐにボロが出かねない。
「ふうん、そんならこの前といい、今日といい、えらい偶然やね」
「実はあなたたちに会えればいいな、って思っていたのよ。前に、ここが溜まり場だって聞いたから、覗いてみたの」
「あたいたちを探していた? それはどうしてなの」
 義子が訝しげな表情で久美子に尋ねる。マリはじっと黙って久美子の顔を見つめている。
「ほら、この前銀子さんが言っていたじゃない。暇を持て余して刺激を求めているお金持ちの奥様なんかをある屋敷で男に紹介する仕事」
「ああ、あれか」
 義子は微笑を浮かべ、マリの方をちらりと見る。
「あの話を聞いた時は、そんなことを望む女の人なんかいるのかしらって疑問に思ったけれど、試しに色々とあたってみたの。そうしたら、二人ほどそういったことに興味があるってご婦人が現れたのよ」
「へえ」
 じっと話を聞いていたマリが思わず身を乗り出す。
「どんな女なの? オカチメンコじゃ相手は現れないわよ」
「その点はたぶん問題ないわ。二人とも品の良い美人よ。一人は着物が似合う和風美人、もう一人はプロポーション抜群の洋風美女よ」
「それが本当の話やとすごいけど」
「そう言われると思って写真をもって来たの」
 久美子はカバンの中から二枚の写真を取り出す。
 一枚は村瀬小夜子と文夫の母、美紀を撮ったもの。もう一枚は千原美沙江の母、絹代を写したものである。品の良いスーツを身につけた美紀の華やかな美貌と、清楚な和服姿の絹代の淑やかな美しさに、義子とマリは思わず息を呑む。
「これは……すごい美人や」
「大丈夫かしら?」
「大丈夫どころか、これだったら希望者が殺到するわ」
「いったいどこのご婦人なの?」
 マリが興奮した面持ちで久美子に尋ねる。
「こっちの洋風美女が、ある名門レストランの社長夫人。こっちの和風美女が有名な小説家の奥様」
「名前はなんていうの」
「本名は勘弁してほしいそうよ。洋風美女の方が夏子さん、和風美女の方が冬子さんってことでどうかしら」
「夏子と冬子か。まあ、本名を知らない方が後腐れがなくてええわ。齢はいくつ?」
「夏子さんが39歳、冬子さんが36歳よ」
「意外といってるんやね」
 義子が頷く。

30.不良少女たち(2)

 森田組の発展は組長の森田幹造と、不動産業を営む実業家の田代一平の出会いに端を発する。
 田代の屋敷は東京の郊外、といっても名ばかりは東京都だが10分ほど車を走らせればすぐに隣県に着くほどの辺鄙な場所にある。鉄道の便も悪く廻りには住宅は殆ど存在しない。昭和30年代の後半を迎えた現在でも全くの田舎といって良い。
 田代はこの場所に鉄筋3階建て、地下室付きのまるで城のような屋敷を拵えた。
周囲は鬱蒼とした林に囲まれており、少し離れた場所から眺めると、そこに屋敷があるなどとは思えないほどである。
 場所が場所なので土地は思いきり安く買い叩いた。また田代の本職が土建屋でもあり、屋敷の建造費も最少限でおさめることが出来た。
 もちろんこの場所では本業の事務所とするわけにはいかず、田代は週に3日ほどは東京の事務所に寝泊まりして仕事を片づけ、そして週の後半になると屋敷に帰って書類仕事の整理をするといった日々が続いている。
 田代は現在は妻もいない孤独の身である。その彼が何故、こんな田舎に大きな屋敷を構えたのかと、仕事仲間の中には訝しげに思うものも多かった。
 実は田代はこの屋敷を家族でも会社関係者でもない人間に提供していた。それが森田幹造を組長とする暴力団、森田組である。
 田代は商売柄その筋の人間との付き合いも多い。しかし田代がその中でも組員がチンピラと呼ばれる準構成員を入れても10人程度という暴力団としては最弱小の森田組のスポンサーになっているのには理由がある。
 森田組は一応土木業を看板に掲げ、かつては暴力団としてもそれなりの勢いがあった。田代との付き合いも昔、田代が若い頃に工事代金の支払いに行き詰まったとき、下請業者として付き合いのあった森田が岩崎組という関西の広域暴力団に口を利き、援助を取り付けたことに発する。
 その後、森田の組は徐々に落ち目になったが、田代はその時の森田の好意を恩義に感じ、ずっと援助していた。
ある日森田は田代を、下請けとして受注した工事のお礼という名目で小料理屋に誘った。大して旨くない料理が一巡した後、料理屋の個室で森田はポケットに入れていた封筒を取りだした。
「ところで田代の旦那」
 森田はこういういかにも田舎やくざといった、時代がかった話し方をする。
「最近はこっちの方が儲かるんで、もうちょっと大々的にやろうかと思っているところですが――」
 森田が取りだしたのはいわゆる秘密写真と呼ばれるもので、男女のそのものずばりの交接図だった。
「ふん」
 田代もそんな写真は以前にも何度も見たことがあり、見たところぱっとしない森田組の事業(シノギ)が、今や秘密写真やポルノフィルムの制作が主なところであると聞いてもさほど驚かなかったが、その卑猥な写真には新鮮な印象を抱いた。
「こういう写真のモデルは普通は、一線を引いたストリッパーやら温泉芸者なんかのふやけた身体をした玄人崩れの女が多いんですが、うちの写真は違うでしょう、どうです?」
 森田の言う通り、確かにどの写真のモデルも若く、初々しささえ感じられた。モデルの女たちは決して美人ではない。いや、どちらかというと不美人の部類が多いが、素人っぽさを感じさせるそれらは他の同種の写真では見られないものだった。
「このモデル達は誰だ? どうやって集めたんだ?」
 田代は渡された写真を一枚一枚丁寧に見ながら森田に尋ねた。
「川田という新宿を根城にしている愚連隊崩れのスケコマシと、うちの井上がひょんなことで知り合いになりましてね」
 井上は吉沢と並ぶ森田組の幹部の一人で、主に森田組の秘密写真やポルノフィルム制作事業を担当している。機械に強く、実際の撮影にあたってはカメラマン兼監督の役割を勤め、さらに準構成員であるチンピラを指揮して繁華街や温泉街の酔客に売りさばいていた。
「この川田が葉桜団の女たちと付き合いがありまして」
「葉桜団?」
「やはり新宿を根城にしているズベ公達です。ほとんどは戦争で片親か両親を亡くした、いわゆる戦災孤児ってやつですわ。こいつらが寄り集まって生きていくうちに次第に悪さもするようになって、今はやっていることは男の私達も顔負けでさあ」
戦争が終わって約15年、葉桜団の女たちは大部分が10代後半から20歳前だそうだから終戦時にはほんの幼児である。年頃から見て彼女たちの世代の父親の大部分は徴兵され、その多くは帰ってこなかったろう。そしてあの東京大空襲――。
「このスベ公達が田舎出の女を言葉巧みにだまくらかして、うちに送り込んでくる、ってわけでさあ――」
「するとやはりこの卑猥な写真のモデル達は素人か。不良少女の集団にしちゃあなかなか大胆なことをするもんだ」
「なに、適当に稼いだらモデルの女たちには小遣いを持たせて返してやります。サツにたれこむようなことがあれば、田舎の親や親戚に写真を送るぞと脅しつけてやれば、恥ずかしいのと恐ろしいので後で面倒なことになることはありませんや」
「成る程な。それにしても自分たちのことを葉桜団と名乗るとはユーモアを解する連中だ」
田代は感心したように頷く。
「これとこの写真は、その葉桜団のズベ公たちがモデルでさあ」
森田は何枚かの写真を指さす。それは二人ずつの若い女が素っ裸で絡み合っているもので、同性愛を思わせる妖しい雰囲気が目を引いた。
「適当な女が見つからなければ自分たちがモデルに早変わりってわけか。なかなか度胸のある連中だ」
 田代は手に持ったビールのグラスをあおる。
「で、大々的にやるってのは、どうするんだ?」
「そこなんで」
 森田はすかさず田代の空になったグラスにビールを注ぐ。
「写真やポルノフィルムを撮影するにも、今の事務所は機材の置場所にも困るし、撮影場所も連れこみ旅館ばっかりじゃあ変化がありません。第一、モデルの女を監禁……いや、泊めておく場所にも不自由してます」
「ふん――」
 田代は再びビールをあおる。
「スポンサーの力を、ってことだな」
「へへ、まあ、そういうことで」
 田代はやや卑屈な笑みを浮かべる森田の顔を眺める。
(随分、年齢を食ったもんだ)
 森田との付き合いももう何年になるだろう。やくざものとしては二流以下のこの男とは妙にウマが合う。田代がいつか酒に酔って自分の変質的な嗜好を話したときも、森田は、へえ、社長もそうですかい、実はあっしもその気があるんで、と興味津々の様子で話に乗ってきた。
 そのころから田代は森田に対して、人には言えない趣味を話すことが出来る貴重な存在になっている。もっとも田代の見たところ森田自身には、プロデューサーとしての才能はあるが、嗜虐趣味の方はそれほどでもない。もちろん人並み以上の女好きであることは否定出来ないが。
「わかった、親分のその新しい事業、応援してやろうじゃないか」
「本当ですかい? そりゃあ有り難い」
「ただし、条件といっては何だが……」
 田代は誰にも聞こえる心配のない座敷で声を潜めた。

29.不良少女たち(1)

 今夜も義子とマリが鞄一杯に詰めて来た静子や京子、小夜子、そして桂子たちの美しくも淫らな姿を映した写真の束は歌舞伎町の裏通りのポルノ業者たちに、文字どおり羽根が生えるような勢いで捌けていった。
「もっとないんかいな。あるだけ置いていってくれ」
 葉桜団が最近専ら溜まり場にしているスナック『どん底』の向い側にあるポルノショップの中年の店主が、煙草のヤニで黄色くなった歯を剥き出しにして義子に懇願する。
「おっちゃん、悪いな。後は見本で置いてある分だけや」
「それでもかまへんで」
「そんなことしたら、うちら商売が出来んようになるやないか」
 義子は苦笑する。
「また近々持ってくるわ」
「なるべく早めに頼むで」
 店主の声を背中に聞きながら義子とマリは店を出る。
「まったく、商売とはいえうら若き乙女の入る店やないで」
 義子は「大人のおもちゃ」と書かれた毒々しい店の看板を振り返る。
「何がうら若き乙女よ」
「若い女ということは事実やないか」
「うら若き乙女っていうのは、美津子や美沙江みたいな娘のことをいうのよ。もっとも、美津子は乙女とは言えなくなったけどね」
「マリ、往来で名前を出すのはよくない。壁に耳あり、襖に目ありや」
「障子でしょう?」
「どっちでもええ。『どん底』へ入るで」
 義子とマリは地下のスナックへ向かう。
 店内にまだ客はおらず、顎髭を生やしたマスターが一人、グラスを磨いている。義子とマリはボックス席の一つに陣取る。
「とりあえずビール」
 マスターはうなずき、ビールの大瓶とグラスを二つ、二人の前に並べる。二人は互いのグラスに琥珀色のビールを注ぐとグラスをカチンと触れさせる。
「とりあえず今日も商売繁盛に乾杯や」
 義子はそう言うとグラスのビールを一気に飲み干す。
「だいぶ寒くなってきたけど、やっぱり口開けはビールやね。よう働いたから喉も渇いたし」
 義子は手酌でお代わりを注ぐ。
「しかし、どん底ってのはすごい名前だね。マスター、どうしてこんな名前にしたの?」
「何の仕事をしても失敗続きで、それこそ人生のどん底だった時に始めた店だからですよ」
 カウンターの内側のマスターが微笑しながら答える。
「ふーん、そうなんだ」
「このマスター、川田さんの友達やって、知ってた?」
「えっ? そうなの」
 マリが目を丸くする。
「若いころは川田さんと一緒にこのあたりでスケコマシをやってたみたいやで」
「へえ、人は見かけによらないものね」
「見かけによらない、ってのはひどいですね。川田さんほどじゃありませんが、髭がなかったころはこれでもそれなりにもてたものですよ」
 マスターは苦笑する。
「髭があってもなかなか男前や」
 2杯目のビールを飲み干した義子がからかう。
「一時店が苦しくなった時、助けてもらったし、川田さんには足を向けて寝られませんよ」
「だからここでは気を使わんで話が出来るんや」
 義子はニヤリと笑う。
「なるほど、そうなんだ」
「銀子姐さんはそんな話はしてくれんの?」
「昔のことは妹の私にもあまり話したがらないんだよ」
 そう言うとマリはグラスに残ったビールを飲み干す。
「そうそう、さっきの話だけど、そろそろポルノショップまわりの営業は森田組の若いのにやらせたら駄目なの?」
「うーん」
 義子は首をひねる。
「マリは昔の話はあまり聞かされてへんといったけど、葉桜団に銀子姐さんと朱美姐さん、それに私の3人しかいなかったころは、自分がモデルになった写真を売って歩いていたんや」
「本当?」
 マリは驚いて義子の顔を見る。
「もちろん今みたいには売れんかったから、色々と工夫をしたんや。きわどい姿で店の売り子の手伝いをしたり、時々得意客を集めてショーを見せてあげたり」
「ショーって、どんな?」
「別に難しいものはやってへん。銀子姐さんと朱美姐さんのストリップやら、レズショーなんかや。あたいはもっぱら司会役やったけど、時々は脱いだで。3人でからんだこともあったなあ。あれはなかなかうけた」
 義子は何かを思い出したようにクスクス笑い出す。
「その時の経験が今、小夜子や美津子の調教に生きてる、ってわけや」
「あの姉さんがねえ」
「そんなあたいたちの写真の制作を川田さんを通して森田組につないでくれたのがここのマスターや」
「そうなんだ……」
 銀子とマリの姉妹は空襲で両親を失っている。姉妹二人はガード下で極貧の少女時代を過ごしたが、ある時から銀子は定期的に金を稼ぐようになったのだ。
 マリは姉がどうやって金を得ているのか訝しく思っていたが、尋ねても言葉を濁すため深く追求することはなかった。
 銀子の稼ぎの裏にはそんな事情があったのかと、マリは永年の疑問が氷解する思いだった。
「あたいたちは森田組からモデル料以外に、売上ごとに歩合をもらう取り決めをした。そのやり方をした方は売り子のあたいたちもやる気が出るし、店の方もモデル本人が営業に来たというので、面白がって買ってくれるところもある」
「今はもちろんあたいたちはモデルはやらないけれど、森田組から売上の歩合はもらっている。もちろん自分たちがモデルになることはないから、歩合の率は下がった。だけど逆にそのころとは売上が全然違うから。あたいたちの手取りはむしろ増えている」
「あたいたちはこの仕事は出来たらやめたくないんだ。それはもちろんお金のことが一番大きな理由なんは確かやけどね」
 要するに銀子や朱美、そして義子は自分たちが困窮している時に始めた秘密写真販売の仕事に愛着のようなものがあり、手放したくないのだろう、とマリは納得する。
 確かに今日の売上にも見られる通り、森田組製作の秘密写真は同業者の商品とはモデルの質も違えば、機材などにかけている金も桁が違う。静子夫人や小夜子、京子などの抜群の素材を得たせいもあるが、組長の森田幹造がこの手の商売の才能があったことが大きい。
 その森田のスポンサーになっているのが田代である。田代はどうして森田に金を出しているのだろうか。何がそのきっかけになったのだろうか。
「それはあたいも知らんわ。興味もないし」
 マリの疑問に義子が首を振るが、すぐに声を潜める。
「ただ、田代社長は相当、筋金入りの変態ってことだけは確かやね」
「森田親分と趣味があった、てこと?」
「森田親分はこういった商売が上手やね。見ていて感心するわ」
 義子はビール瓶が空になったことに気づくと、マスターに追加を頼む。

28.激しい調教(9)

「千原流の家元もああなっちゃあ、おしまいやね」
「これからは花電車の家元として生きていくしかないんとちゃうか」
 大塚順子とともに元のご主人である千原美沙江に対する調教をたっぷりと見物した直江と友子の二人の不良少女は、キャッキャッと笑いあいながら階段を降りている。
 葉子と和枝はいまだ可憐ささえ残している美沙江が、涙を流しながら尺八の稽古に励む様子がすっかり気に入ったのか、いまだ鬼源の調教を見学しているのだ。
「大塚先生、次はどこへ行くの」
「決まってるでしょ。家元の次は千原流華道後援会長さまのところよ」
「わあ、そりゃあ楽しみや。珠江夫人にはしばらく会っていないさかいな。どないな風になってるやろ」
 三人の悪女は階段を降りると、一階のチンピラ部屋の前にある倉庫へとやってくる。
 扉を開くと薄暗い倉庫の中では、天井から吊るされた裸電球に照らされた三人の男女が、奇妙な姿勢で絡み合っていた。
 素っ裸の上半身を折り曲げ、むっちりとした太腿を大きく開き、成熟した双臀をこちらへ突き出しているのはなんと、医学博士夫人であり千原流華道の後援会長、折原珠江その人であった。
 もう二人の男はシスターボーイの春太郎と夏次郎で、二人がかりで珠江夫人の豊かな尻にとりついている。
 春太郎と夏次郎が双臀の上で蠢くたびに、珠江夫人は「オオッ、オオッ」と獣のようなうめき声を上げているが、その中にはどことなく甘えるような艶っぽい響きがあるようだ。
「どう、奥様。お尻の穴にまでキッスされるご感想は?」
「ご主人にもこんなことをしてもらったことはないでしょ?」
 春太郎と夏次郎は交互に珠江夫人の菊の蕾にしゃぶりつき、柔らかな肛門に舌を差し入れるようにして愛撫を続けている。
「ああっ! も、もうっ、堪忍してっ」
 珠江夫人はたまりかねたように二人の変質人間にかかえられた双臀を左右に振った。
 珠江夫人は既に一時間以上も、春太郎と夏次郎言うところの「Aコース」の責めを受けていたのだ。
「あらあら、お行儀が悪い奥様ね。大きなお尻を振ったりなんかして」
「Aコースはまだ半分も終わっていないわよ。以前、私達、京子のお尻の穴ばかりを3時間ぶっ続けで責めてやったことがあるのよ」
 春太郎と夏次郎はゲラゲラ笑い合うと夫人の豊かな尻を交互にひっぱたく。
「あの時は面白かったわ。あのお転婆娘が最後は、許してっ、許してって大粒の涙を流してたわ」
「でも、そういいながら、お尻の穴を生き物みたいにピクピクさせて悦んでいたじゃない? あれ以来京子ったら、すっかり病み付きになったみたいで、前を責めてもすぐに後ろを一緒に責めるようおねだりするようになったもの」
 二人のシスターボーイのおぞましい言葉を聞いて、珠江夫人は羞恥と屈辱、さらに恐ろしさのあまり号泣する。
「楽しそうなことしてるじゃない」
 大塚順子にいきなり声をかけられて、春太郎と夏次郎は驚いて振り向く。
「まあ、びっくりした。大塚先生じゃない」
「いつの間に入って来たの? ちっとも気がつかなかったわ」
 春太郎と夏次郎以上に狼狽したのが珠江夫人である。家元の美沙江と自分を地獄に陥れた張本人ともいえる大塚順子に、羞恥の極限ともいうべき姿を見られる屈辱に、珠江夫人は身も世もないといった風情で悶え抜くのだった。
「いま、珠江夫人のお尻の穴を特訓しているのよ。見物していらっしゃらない」
「それも良いけれど、折角だから少しあそばせて欲しいわ」
 順子は身体を折らんばかりに恥じらっている珠江夫人の、逞しいばかりに実った双臀を面白そうに見つめる。
「そうね。それじゃあ、私たちの調教の成果をお見せしましょう。これなんかどうかしら」
 春太郎は順子に、奇妙な数珠のようなものを渡す。それは大きさの違ういくつかの玉を一本の紐で通したものである。
「アナルビーズっていう玩具だけど、段々玉が大きくなっているのが特徴よ」
 なるほど、と大塚順子はすぐにその奇妙な責め具の用途を理解し、珠江夫人の背後に回る。
「大塚先生にこんな風に調教をお願いするのよ、奥様」
 夏次郎におぞましい言葉を耳元で囁かれ、夫人は嫌々と首を振る。
「家元のお嬢様を同じような責めに合わせてもいいというの?」
「ああ……そ、それだけは……」
「それなら早く大塚先生におねだりしなさい」
 珠江夫人は切羽詰まったような表情で、震える唇を開く。
「お、大塚先生――た、珠江のお尻の穴にいたずらなさって下さい――」
 そう言うと珠江は耐えられなくなったのか、わっと声を上げて泣き出す。
「何も泣くことはないじゃない」
 春太郎は甘ったるい声を上げながら滑らかな夫人の背中を撫でる。
「それにしてもあの勝ち気な珠江夫人も随分と気弱になったものね」
「若いチンピラたちに三日三晩も犯されてセックスの悦びを骨の髄まで知ったからかしら」
「ああ……い、言わないで……それは言わないでください」
 春太郎と夏次郎の残酷なからかいに、珠江夫人は嫌々と首を振る。順子はそんな珠江夫人に近づくと、いきなり頬をぴしゃりと平手打ちする。
「何を甘えた態度を取っているの」
 驚いた表情を向ける珠江に順子が言い放つ。
「奥様はチンピラたちに身体を汚されたの。もう二度とご主人の前に出ることは出来ない女になったのでしょう?」
「ハイ……」
 順子に決めつけられた珠江はがくりとうなだれる。
「それに奥様は森田組の永遠の奴隷になることを誓ったのよ。こうなったら度胸を決めて堂々と調教受けるのよ」
「わかりました……」
 珠江夫人はすすり上げながらうなずくと、さっと顔を上げる。
「メソメソしてごめんなさい。大塚先生、調教をお受けしますわ。珠江の――珠江のお尻を苛めてください」
「良く言えたわ」
 順子は満足げに笑うとアナルビーズを取り上げ、一番小さな玉を夫人の菊蕾にそっと押し当てる。
「あ、ああ……」
 さすがに激しい羞恥を感じた珠江は、小さく悲鳴のような声を上げるが、その菊蕾はまるで生き物のように口を開き、柔らかな収縮を見せながらビーズの玉を呑み込んでいく。
「まあ、驚いたわ。あっさり呑み込んだじゃない」
 順子がわざとらしく驚いたような声を上げると、友子と直江が迎合するような笑い声を上げる。
「案外隅に置けないわね、奥様って。いつの間にこんな芸を身につけたの?」
「ぞ、存じませんわ……」
 珠江は頬をうす赤く染めて俯く。順子はそんな珠江に頼もしささえ感じながら次のビーズ玉をそっと菊穴に押し当てる。
「さあ、こうしてビーズを口のところに当てて上げるから、お尻の穴を収縮させて呑み込みなさい」
「そ、そんなこと……無理ですわ」
「無理かどうか、一度やってみるのよ」
「ああ……」
 切羽詰まった珠江は順子に命じられた行為を開始する。
「ほらほら、膨らんだ、膨らんだ」
「まったく器用なもんや、この奥さん」
 隠微な菊の花弁を膨らませ、懸命にビーズ玉を呑み込もうとする珠江夫人に友子と直江は、しきりにからかいの声を浴びせかけるのだった。

27.激しい調教(8)

「いくら美人でもお尻から出るものが臭いのは同じや」
「なにをつまらんことに感心してんねん」
 美沙江に対する激しい浣腸責めが終わり、直江と友子はお互いにキャッキャッと肩を叩いて笑いあいながら、堅く緊縛された全裸の美沙江の縄尻を取り、廊下を引き立てていく。
 その後を大塚順子が美沙江の裸の後ろ姿を眺めながら歩いて行く。
(美人は後ろ姿まで美人ね)
 剥き卵のような美沙江の白い尻を眺めながら順子はため息をつく。いまだ少女のような清純さを感じさせる美沙江のそれは、いましがた受けた浣腸責めのせいかどことなく妖しい色気を発散しているように見える。
 義子とマリは、お仕置きを免れた桂子と美津子を檻に送り届け、その後は新宿の歌舞伎町まで森田組写真部の新しい秘密写真を売りさばきに行くことになっている。捨太郎と静子、春太郎・夏次郎と京子などの激しい本番プレイを写し出したそれは、身体の線の崩れたモデルを使った同種の写真に比べ三倍から四倍の値段がするのにかかわらず、文字どおり飛ぶような売れ行きを見せた。
 特に静子と小夜子のレズビアンプレイのスチールは、そのような美女同士の同性愛ものがこれまでなかったことと、互いが本気で相手を求め合う迫力が写真から感じられたことから、一種のベストセラーになっていた。
 この他、静子と京子、静子と桂子といった組み合わせの写真も人気がある。森田組が製作する秘密写真やビデオは、最近は海外からも引き合いがあるほどである。
(いずれ美沙江や珠江の卑猥な写真も日本中、いえ、世界中にばらまかれることになるわ)
 そうなれば、千原流の歴史も伝統もあったものではない。その時、順子の孤月流をきわものと蔑んできた千原流の後援者たちがどんな顔をするだろう。そんなことを想像すると順子は気分が浮き立つのをとめようがないほどだ。
 美沙江は精も根も尽き果てたように腰をふらつかせながら、千原家の元の使用人である直江と友子に背中を小突かれ、よろよろと廊下歩んでいくのだった。
「しゃんとしなさいよ。お嬢さん」
「若いのに、2、3回浣腸されたくらいで腰を抜かすなんてだらしがないわよ」
 直江と友子は交互に、美沙江の形の良い尻をぴしゃりと平手打ちする。美沙江はそんな屈辱的な扱いに対しても抵抗する気力も奪われている。
 美沙江は2階の廊下の端にある、小部屋に連れ込まれた。そこには褌一丁の鬼源が胡座を組んで、岩崎の妾の葉子、和枝とコップ酒を飲んでいた。
 三人は薄汚い赤い敷物を取り囲むように坐っており、そこには胡瓜やバナナが篭に入れて置かれていた。他に小さな座布団や、蝋燭立てのような奇妙な器具も並んでいる。
 その無気味な部屋の様子に、またこの悪鬼達が自分を邪悪な責めにかけるのではないかと、美沙江はブルッと裸身を慄わせる。
「あら、美沙江お嬢様のご入来よ」
 葉子と和枝は顔を上げて手を叩く。
「あなた達、岩崎親分を放ったらかしにしたままでいいの?」
「いいのよ、あの人はまた若い女が出来たみたいで、神戸にいる時はそっちに夢中なのよ」
 葉子が酔いが回ってすっかり赤くなった顔を順子に向ける。
「それに来週またこっちに出てくるみたいだし、それまでこの屋敷で綺麗な奴隷たちが嬲られるのを見ている方がいいわ」
 和枝も葉子に同意するように笑うと、コップ酒をぐっと空ける。友子と直江が慌てて和枝と葉子に酌をする。
「それにしても鬼源先生の直々のお出ましとは恐縮だわ」
 順子の言葉に鬼源は、ヤニで黄色くなった出っ歯を剥き出しにして笑う。
「折角浣腸されたそうだから、ケツの方に磨きをかけたかったんだが――」
 鬼源が手に持ったコップ酒を飲み干し、若干呂律の怪しくなった口調で話し出す。
「春太郎と夏次郎が今朝から珠江夫人の調教にかかりっきりになっていてな。それで今日はお嬢さんの方は徹底的に口の使い方を鍛えることにしたんだ」
 そう言うと鬼源は美沙江をギロリと見据える。美沙江は蛇に睨まれた蛙のように思わず裸身をすくめる。
「良かったわね、お嬢さん。今日はみっちり尺八のお稽古よ、鬼源先生が直々にご指導してくれるんですって」
 順子が面白そうに声をかける。
 尺八などと言われても美沙江は何のことか分からない。怯えて立ちすくむ美沙江を、順子は楽しげに眺める。
「尺八なんかは序の口だ。お嬢さんは近々水揚げをすませて、正式に森田組の女奴隷としてデビューすることになる。それからは女の道具を使って卵産みや卵割り、バナナ切りといった芸を演じてもらうことになる」
 美沙江は衝撃を受け、恐怖に裸身をブルブルと震えさせ始める。そんな鬼源の言葉を聞いた葉子や和枝たちはいっせいに笑いこける。
「お花の家元が花電車の家元としてデビューするってわけね」
「これからは千原流花電車家元とでも名乗ったら」
 女たちの嘲笑が響く中、美沙江は耐えきれず嗚咽を始めるのだった。
 千原流華道の跡継ぎとして花鋏よりも重いものを持ったことがないほど、おんば日傘で育てられた繊細な美女。その美沙江が今や一般社会から完全に抹殺され、いずれこの地獄屋敷で他の奴隷たち同様処女を散らされ、さらに女の最も恥ずかしい部分を鍛えて、珍妙な芸を演じることを人生の最大の目的としなければならないことに順子は何とも言えぬ痛快さを感じるのだった。
「さ、鬼源先生にご挨拶するんや。お嬢さん」
 直江に背中を押され、美沙江は鬼源達の前にひかれた赤い敷物の上に正座する。
「――お、鬼源先生」
 美沙江は気弱な瞳で鬼源を見上げる。
「み、美沙江は一生懸命お稽古に励みます。よろしくご指導下さい――」
「やり直しっ」
 したたかに酔って顔を赤くした鬼源が声を荒げる。
「声が小さいっ。それと、挨拶するときは自分の元の身分を名乗るんだ」
 美沙江は哀しげな眼をちらと鬼源の方に向けたが、諦めたように再び、屈辱的な挨拶をする。
「元、千原流華道家元、千原美沙江はいままでの地位も身分も捨て、森田組のスターとなるべく、一生懸命お稽古に励みます。どうぞよろしくご指導下さい――」
「まだ声が小さいが、今日のところはこれくらいでいいだろう」
 美沙江が声を震わせながら挨拶を終えると、鬼源は素っ裸の美沙江を小部屋の中央に正座させる。白磁のような美沙江の肌を改めて目にした女たちからため息のような声が洩れる。
「それにしても綺麗ね」
 確かに美沙江の裸身は天井近くの小窓から差し込む淡い日の光に照らされ、神秘的なまでの美しさを見せている。
「生娘ならではの美しさね。処女を散らすのが惜しくなっちゃうわ」
「そういう訳には行きませんよ」
 順子の言葉に鬼源は苦笑すると籠の中から胡瓜を一本取り出し、美沙江の顔に突き付ける。
「それじゃあ始めるぞ。まずは胡瓜を使って唇の使い方の練習だ」
 美沙江はそっと目を閉じ、花びらのような唇を小さく開けると、鬼源の突き出す胡瓜にそっと口吻を施すのだった。