「いくら美人でもお尻から出るものが臭いのは同じや」
「なにをつまらんことに感心してんねん」
 美沙江に対する激しい浣腸責めが終わり、直江と友子はお互いにキャッキャッと肩を叩いて笑いあいながら、堅く緊縛された全裸の美沙江の縄尻を取り、廊下を引き立てていく。
 その後を大塚順子が美沙江の裸の後ろ姿を眺めながら歩いて行く。
(美人は後ろ姿まで美人ね)
 剥き卵のような美沙江の白い尻を眺めながら順子はため息をつく。いまだ少女のような清純さを感じさせる美沙江のそれは、いましがた受けた浣腸責めのせいかどことなく妖しい色気を発散しているように見える。
 義子とマリは、お仕置きを免れた桂子と美津子を檻に送り届け、その後は新宿の歌舞伎町まで森田組写真部の新しい秘密写真を売りさばきに行くことになっている。捨太郎と静子、春太郎・夏次郎と京子などの激しい本番プレイを写し出したそれは、身体の線の崩れたモデルを使った同種の写真に比べ三倍から四倍の値段がするのにかかわらず、文字どおり飛ぶような売れ行きを見せた。
 特に静子と小夜子のレズビアンプレイのスチールは、そのような美女同士の同性愛ものがこれまでなかったことと、互いが本気で相手を求め合う迫力が写真から感じられたことから、一種のベストセラーになっていた。
 この他、静子と京子、静子と桂子といった組み合わせの写真も人気がある。森田組が製作する秘密写真やビデオは、最近は海外からも引き合いがあるほどである。
(いずれ美沙江や珠江の卑猥な写真も日本中、いえ、世界中にばらまかれることになるわ)
 そうなれば、千原流の歴史も伝統もあったものではない。その時、順子の孤月流をきわものと蔑んできた千原流の後援者たちがどんな顔をするだろう。そんなことを想像すると順子は気分が浮き立つのをとめようがないほどだ。
 美沙江は精も根も尽き果てたように腰をふらつかせながら、千原家の元の使用人である直江と友子に背中を小突かれ、よろよろと廊下歩んでいくのだった。
「しゃんとしなさいよ。お嬢さん」
「若いのに、2、3回浣腸されたくらいで腰を抜かすなんてだらしがないわよ」
 直江と友子は交互に、美沙江の形の良い尻をぴしゃりと平手打ちする。美沙江はそんな屈辱的な扱いに対しても抵抗する気力も奪われている。
 美沙江は2階の廊下の端にある、小部屋に連れ込まれた。そこには褌一丁の鬼源が胡座を組んで、岩崎の妾の葉子、和枝とコップ酒を飲んでいた。
 三人は薄汚い赤い敷物を取り囲むように坐っており、そこには胡瓜やバナナが篭に入れて置かれていた。他に小さな座布団や、蝋燭立てのような奇妙な器具も並んでいる。
 その無気味な部屋の様子に、またこの悪鬼達が自分を邪悪な責めにかけるのではないかと、美沙江はブルッと裸身を慄わせる。
「あら、美沙江お嬢様のご入来よ」
 葉子と和枝は顔を上げて手を叩く。
「あなた達、岩崎親分を放ったらかしにしたままでいいの?」
「いいのよ、あの人はまた若い女が出来たみたいで、神戸にいる時はそっちに夢中なのよ」
 葉子が酔いが回ってすっかり赤くなった顔を順子に向ける。
「それに来週またこっちに出てくるみたいだし、それまでこの屋敷で綺麗な奴隷たちが嬲られるのを見ている方がいいわ」
 和枝も葉子に同意するように笑うと、コップ酒をぐっと空ける。友子と直江が慌てて和枝と葉子に酌をする。
「それにしても鬼源先生の直々のお出ましとは恐縮だわ」
 順子の言葉に鬼源は、ヤニで黄色くなった出っ歯を剥き出しにして笑う。
「折角浣腸されたそうだから、ケツの方に磨きをかけたかったんだが――」
 鬼源が手に持ったコップ酒を飲み干し、若干呂律の怪しくなった口調で話し出す。
「春太郎と夏次郎が今朝から珠江夫人の調教にかかりっきりになっていてな。それで今日はお嬢さんの方は徹底的に口の使い方を鍛えることにしたんだ」
 そう言うと鬼源は美沙江をギロリと見据える。美沙江は蛇に睨まれた蛙のように思わず裸身をすくめる。
「良かったわね、お嬢さん。今日はみっちり尺八のお稽古よ、鬼源先生が直々にご指導してくれるんですって」
 順子が面白そうに声をかける。
 尺八などと言われても美沙江は何のことか分からない。怯えて立ちすくむ美沙江を、順子は楽しげに眺める。
「尺八なんかは序の口だ。お嬢さんは近々水揚げをすませて、正式に森田組の女奴隷としてデビューすることになる。それからは女の道具を使って卵産みや卵割り、バナナ切りといった芸を演じてもらうことになる」
 美沙江は衝撃を受け、恐怖に裸身をブルブルと震えさせ始める。そんな鬼源の言葉を聞いた葉子や和枝たちはいっせいに笑いこける。
「お花の家元が花電車の家元としてデビューするってわけね」
「これからは千原流花電車家元とでも名乗ったら」
 女たちの嘲笑が響く中、美沙江は耐えきれず嗚咽を始めるのだった。
 千原流華道の跡継ぎとして花鋏よりも重いものを持ったことがないほど、おんば日傘で育てられた繊細な美女。その美沙江が今や一般社会から完全に抹殺され、いずれこの地獄屋敷で他の奴隷たち同様処女を散らされ、さらに女の最も恥ずかしい部分を鍛えて、珍妙な芸を演じることを人生の最大の目的としなければならないことに順子は何とも言えぬ痛快さを感じるのだった。
「さ、鬼源先生にご挨拶するんや。お嬢さん」
 直江に背中を押され、美沙江は鬼源達の前にひかれた赤い敷物の上に正座する。
「――お、鬼源先生」
 美沙江は気弱な瞳で鬼源を見上げる。
「み、美沙江は一生懸命お稽古に励みます。よろしくご指導下さい――」
「やり直しっ」
 したたかに酔って顔を赤くした鬼源が声を荒げる。
「声が小さいっ。それと、挨拶するときは自分の元の身分を名乗るんだ」
 美沙江は哀しげな眼をちらと鬼源の方に向けたが、諦めたように再び、屈辱的な挨拶をする。
「元、千原流華道家元、千原美沙江はいままでの地位も身分も捨て、森田組のスターとなるべく、一生懸命お稽古に励みます。どうぞよろしくご指導下さい――」
「まだ声が小さいが、今日のところはこれくらいでいいだろう」
 美沙江が声を震わせながら挨拶を終えると、鬼源は素っ裸の美沙江を小部屋の中央に正座させる。白磁のような美沙江の肌を改めて目にした女たちからため息のような声が洩れる。
「それにしても綺麗ね」
 確かに美沙江の裸身は天井近くの小窓から差し込む淡い日の光に照らされ、神秘的なまでの美しさを見せている。
「生娘ならではの美しさね。処女を散らすのが惜しくなっちゃうわ」
「そういう訳には行きませんよ」
 順子の言葉に鬼源は苦笑すると籠の中から胡瓜を一本取り出し、美沙江の顔に突き付ける。
「それじゃあ始めるぞ。まずは胡瓜を使って唇の使い方の練習だ」
 美沙江はそっと目を閉じ、花びらのような唇を小さく開けると、鬼源の突き出す胡瓜にそっと口吻を施すのだった。