「流石に淫乱妻は表現力が豊かだな」
 男は楽しげに笑いながら、旅行カバンの中から小さな羽帚を取り出します。
「この前の復習だ。紀美子の性感帯を上から順番に言え。間違えたらお仕置きだからな」
「いやーー、今それをされたら」
「イってしまいそうなのか」
 妻は声を上げることもできず、ガクガクと頷きます。
「全部言い終わるまでに気を遣ってもお仕置きだからな。今日はアナルセックスをするん だから、お仕置きは浣腸がいいだろう」
「浣腸なんて嫌ーー」
「なんだ、紀美子は経験があるのか」
「ありません、でも嫌ーー」
「嫌なら最後まで我慢するんだ。言っておくが途中でローターやバイブを身体から離してもお仕置きだ。いいか、始めるぞ」
 男がそう告げると妻は覚悟を決めたようで、ぐっと歯を食いしばります。少しでも気を緩めたらイキそうになるのを必死でこらえているようです。
「一番上はどこだ」
「み、耳たぶ……」
 男が羽帚で妻の耳たぶをくすぐると、妻は「ヒッ」と声を上げて首をすくめます。
「そんな答え方じゃ駄目だ。ちゃんと教えた通りに言わないか」
「わ、わかりました。ち、チンポ大好きの淫乱妻、春日紀美子の一番上の性感帯は耳たぶです」
 再び男の羽帚による攻撃が妻を襲います。妻は何とかイクのをこらえたようです。
 続いてうなじ、腋の下、胸元、乳首が順に責められます。妻が自分の性感帯をはっきりと告げるたびに私は何か複雑な気分になって来ました。妻とのセックスでそれぞれの箇所を愛撫したことはありますが、そこが性感帯であるということをはっきり意識していたでしょうか。私は妻の身体について無知であったことを思い知らされました。
 性感帯を順に執拗に責められた妻はもはや懊悩の極致といった感じで、素っ裸をガクガクと痙攣させています。あと少し責めればあっけなく絶頂を極めてしまうでしょう。
「さて、次は……」
 男の羽帚が妻の下腹部から下に降りてくると、妻は恐怖に目を見開きます。
「クリトリスとオマンコは勘弁してやろう。さすがにそこを責めるとあっと言う間にイってしまうだろうからな」
 妻は一瞬安堵したようですが男の羽帚が双臀の狭間に触れると、途端に「アアッ」とうろたえたような声を出しました。
「どうした? クリトリスとオマンコは勘弁してやるが、次は駄目だぞ。いくら淫乱妻の紀美子でも、まさかこんな所を責められてイクはずはないからな」
「ハ、ハイ……」
 妻の声は恐怖と緊張、そして押し寄せる快感に震えています。私は思わず画面に引き込まれていました。
「それじゃあ、次の答えをいってみろ」
「ハイ……チンポ大好きの淫乱妻、春日紀美子の上から10番目の性感帯は、お、お尻の穴ですっ。ああっ……」
 いきなり男の責めが開始されました。妻は電流に触れたように激しく身体を震わせています。
「1分間我慢すれば浣腸は許してやるぞ。どうだ、我慢できるか」
「が、我慢……しますっ」
「そうだろうな。いくら淫乱妻だといっても、まさか、ケツの穴を責められてイクほどの変態女じゃないだろう」
「ハ、ハイッ……」
 妻は必死で絶えていましたが、30秒もたたないうちに降参します。
「あ、ああ……も、もうっ。駄目っ」
「イキたいのか」
「ハイッ、もう、我慢できませんっ」
「お仕置きは浣腸だぞ、いいのか」
「は、ハイっ。か、かまいませんっ。で、ですからもうっ、イカせてっ」
「よしっ、それなら思い切りイケっ」
 散々焦らされていた妻は「イクッ」と叫ぶと、魚が跳ねるような激しさで全身をガクガクと震わせます。これほどのオルガスムスを感じる妻を見るのは初めてでした。
 その後のビデオは妻と男のセックスシーンが延々と続きました。一晩中妻と男は愛し合っていたようですが、ビデオには妻の絶頂シーンを中心に編集が施されていました。妻はイク度に男からそう言うように命じられているのか、「チンポ大好きの淫乱妻、春日紀美子、3回目、イかせて頂きますっ」などと叫ぶのでした。最後は声が涸れるほどになった妻は「8回目、イかせて頂きますっ」と叫んで男に抱かれながら失神するのでした。

 妻は一番目の誓いどおり一晩で8回の絶頂に達しましたが、「20041204」と名づけられたビデオには妻の浣腸シーンや、アナルセックスのシーンはどこにもありませんでした。念のために写真のファイルもチェックしましたが、それは妻と男の翌日のスナップがほとんどでした。前日のような刺激のある写真もほとんどなく、私には妻と男が旅館の前で仲良く手を組んでいる場面や、土産物屋で楽しそうに買い物をしている場面が心に痛かった程度です。
 その日と翌日にかけて、私は妻と男の記録、つまり7月15日から12月24日までのビデオと写真を全てチェックしました。私にとってはどれも衝撃的なものでしたが、やはり男と妻が1泊旅行をした12月4日のものがもっとも刺激の強いもので、始めにそれを見た私は不感症気味になったのか、他のものについてはいくぶん冷静さを持ってみることが出来ました。
 いよいよ連休明けの11日となりました。私は会社に電話を入れ、急病のため休むと伝えました。年明け早々、また三連休の後で急に休暇を取るというのは勤め人として褒められたことではありませんが、妻と男のことにけりをつけない限り、落ち着いて仕事も出来ません。私はスーツを着ると、いつもの会社とは違う方向、妻のパート先である銀行に向かいました。

 妻と男の情交の記録を見続けた私は、到底妻とやり直すことは不可能だと思っていました。妻とは離婚する。子供たちの親権も渡さない。財産分与と養育費は相殺して妻を身一つで放り出し、さらに妻と男に対して慰謝料を請求するつもりでした。
 また、私が営々と気づき上げた家庭が崩壊した訳ですから、男の家庭も崩壊させるつもりです。男の妻に対しても事態を明らかにするのです。男の妻から私の妻に対して慰謝料の請求があるかも知れませんが、それは離婚を決めた私にはもはや関係のないことです。
 私は男と対決するにあたって、不倫や離婚にかかわる法的責任について十分頭に入れて行きました。本当なら妻を奪った男をぶん殴り、職場にも男の所業を言い触らして男を破滅させてやりたいところですが、そうなると私の方が罪に問われかねません。
 私の心は男と妻に対する復讐心で一杯であり、男と妻の関係を終わらせ、妻とやり直すなどという発想はまったくありませんでした。
 私は妻が冷蔵庫にマグネットで貼っているパートのシフト表から、妻の所属部署と直通電話を調べていました。銀行の始業時間前をねらって、携帯から電話をかけます。
「お電話ありがとうございます。A銀行融資業務部です」
「そちらにお世話になっている東山の夫ですが、春日健一さんをお願いいたします」
「次長の春日ですね、少々お待ちください」