実際は露見しているのだが、珠江がそう考えてくれてくれるのは久美子としては好都合である。
 久美子が今最も恐れていること、それは絹代が美沙江と、そして美紀が小夜子と引き合わされることである。さきほどの京子と美津子姉妹の変貌ぶりから想像すると、まだその姿を見ていない二人も現在どのような状態に堕とされているか分からない。そんな母と娘がいきなり対面させられたら、互いに取り返しがつかないほどの精神的な傷を負うのではないだろうか。
(ひょっとして珠江さんはそこまで考えているのかも――)
 千原流華道の若き後継者の美沙江に対する、後援会長である珠江の忠誠心はまるで腰元の姫君に対するそれのようなものだと絹代から聞いたことがある。救出の手が近いことを悟った珠江は、自分が盾となることによって千原母娘の心の傷を傷を最小限に止めたいと願っているのかも知れないのだ。
(もしそうなら私と珠江さんの目的は一致する)
 そう気づいた久美子は、ここで珠江だけを生け贄にする訳にはいかないと悲壮な覚悟を固める。
(男好きの不良娘と紹介されているのなら、せいぜいその役割を演じて酒席を盛り上げないと。地獄巡りをなんとかここで終わらせて、絹代さんや美紀さんを美沙江さんや小夜子さんに会わせないようにしなければ――)
 表情を引き締める久美子の視線と、熊沢との接吻を終えて瞳をとろんと潤ませている珠江の視線が交錯する。珠江は一瞬すがるような目を久美子に向ける。そこで久美子は、珠江の意図が自分の想像どおりであることを確信する。
「もう、お酒は十分ですわ。バナナを――」
 珠江は酔いと羞恥に頬を赤く染めながら唇を震えさせる。
「バナナをどうして欲しいんや」
「嫌っ、意地悪なことを言わないで」
 珠江は熊沢にしがみつくようにして顔を隠す。
「食べさせて欲しいの――」
「ほう、腹が減っていたんか? そら気がつかんで悪いことをした」
 熊沢は剥いたバナナを珠江の口元にもっていき、唇に触れさせる。
「そ、そうじゃありませんわ。珠江が食べたいのはそこじゃあなくて――」
「そこじゃなかったら、どこや?」
「珠江の、お――」
 珠江はそこまで言うと顔を歪め、シクシクと泣き出す。
「おらおら、まだ泣くのは早いで。ちゃんと最後まで言わんかいっ」
 熊沢は苛々した声を上げると、珠江の尻をパシッと平手打ちする。
「す、すみません。申し上げますわ」
 珠江は涙で濡れた瞳を熊沢に向けると、「珠江のおまんこと、お尻の穴で食べさせて欲しいの」と囁くような声で言う。
 その瞬間、美紀と絹代は同時に「ひっ」と小さい悲鳴を上げる。
 なんという珠江の変貌振りだろう。上流夫人には珍しいほどの気丈さを有していた珠江が、やくざ男の手管で責め立てられて、これほどの卑猥な言葉を口にするとは――美紀と絹代は目の前で起きている事態が現実のものとは思えないでいた。
 珠江と個人的にも極めて親しい間柄にあり、時には珠江のことを妹のように感じていた絹代は、珠江の転落振りを痛ましくて見ていることが出来なかった。
 しかしながら珠江とさほど面識がある訳ではない美紀は、平田に肩を抱かれながら珠江の演技にちら、ちらと視線を走らせ、ある黒い不安に胸を塞がれつつあった。
(ここに珠江さんがいるということは、千原流家元令嬢の美沙江さんや珠江さんを攫った犯人と、小夜子と文夫を誘拐した犯人は同じということ)
(珠江さんが美沙江さんとともに、華道展の会場から姿を消したのは、小夜子がいなくなったのよりもずっと後のはず。その珠江さんがこのような目にあっているということは、小夜子たちはいったい――)
「よし、よし、食べさせたろやないか」
 熊沢は一転して猫なで声になり、珠江の肩を優しく抱く、そんな風に硬軟取り混ぜて女を仕込むのが、熊沢のやり方のようである。すっかり翻弄された珠江は熊沢の腕の中で、甘えるようにシクシクと泣くばかりであった。
「おい、お嬢さん。このご夫人のケツの穴をマッサージしてやってくれんか?」
「えっ?」
 久美子は熊沢の唐突な申し出に驚く。
「このご夫人はこれからケツの穴で、太いバナナを咥えてみせんとあかんのや。あらかじめ柔らかくしておかんと、大出血してしまうがな」
 どぎまぎしている久美子に義子が近寄ると、コールドクリームのビンを押し付けるようにする。
「ほら、これを珠江夫人のお尻に塗り込んむんや。せいぜい優しくマッサージしてやるんやで」
 義子から渡されたコールドを抱えながらも、躊躇っていると久美子に珠江が見兼ねたように声をかける。
「久美子さんとおっしゃったかしら、き、汚い場所でお嫌かもしれないけど、お願い――珠江を助けると思って、そ、それをしてくださらない?」
 珠江の何かを訴えるような表情に久美子ははっと我に返る。
(そうよ、久美子。あなたは男好きの不良娘を演じてこの場を盛り上げ、絹代さんや美紀さんの盾になると心に決めたんじゃないの? こんなことでどぎまぎしていてどうするの)
 珠江さんはもう覚悟を決めている。そう感じた久美子は熊沢をまっすぐ見ると口を開く。
「そ、そうね。私も一度、同性を苛めてみたかったのよ。こんな素敵なご夫人なら苛め甲斐があるわ」
 久美子はそう言い放ち、珠江に近寄るとコールドの蓋を外し、たっぷりと指先にクリームを取ると珠江の菊蕾にべったりと塗り付ける。
「ああっ!」
 いきなりひやりとしたコールドクリームを敏感な箇所に塗り付けられた珠江は小さな悲鳴を上げ、反射的にゆらゆらと腰部を揺らす。
「じっとしているのよ」
 久美子はパシッと珠江の尻を平手で叩くと、指先で珠江の菊蕾をゆっくりと揉み始める。
「あっ、あっ……」
 同性の指先で排泄器官を揉み上げられる妖しい感触に、珠江はたちまち荒い息を吐いて喘ぎ出す。そんな珠江を宥めるように久美子はマッサージの力を弱くし、空いた手でコールドクリームを掬い取る。
「あっ! ああ……」
 再びコールドを垂らされた瞬間、珠江は全身を電気に触れたようにブルッと震わせる。しかしながら先程飲まされた酒の酔いのせいもあって、珠江は徐々に久美子のぎこちない技巧に身体を燃え立たせていくのだ。
(ああ、羞かしい……)
 絹代たちの前で身体を燃えあがらさなければならない辛さと苦しみに、珠江はこのままこの世からかき消えてしまいたいような思いになる。しかし、無事救出された後ならともかく、いまだ大塚順子たちの手で残酷な調教を受けている美沙江を絹代を会わせる訳にはいかないという一途な信念が珠江を支えているのだ。
 そして珠江のそんな意図を悟って協力してくれている、救出者である久美子という女性の思いにもこたえなければならない。