「ああ……絹代様。な、何てこと……」
 素っ裸を布団の上に横たえ、開股吊り縛りという言語を絶する汚辱のポーズで縛り付けられた哀れな絹代の姿を目にした珠江は、絶望のあまり泣きじゃくる。
「珠江様……私、く、口惜しいっ」
 絹代もまた歯噛みをして悔し泣きする。珠江と美沙江を救うべく危険を冒して田代屋敷に潜入したものの、正体を見破られて捕らえられたあげく、豆吊り、そして浣腸責めという血も凍るほどの無残な仕置きにかけられた絹代。
 そんな絹代と珠江の哀れな愁嘆場を大塚順子はさも満足そうに見下ろしている。
 これで千原流華道もおしまいだ、そう考えると順子は全身が痺れるような勝利の快感を知覚するのだ。
 次期家元と目される美沙江、家元夫人の絹代、そして後援会長である珠江といった鍵となる人間の身柄をすべて確保し、千原流にはもはや半病人の家元、元康しか残っていない。数千人といわれた弟子たちは求心力を失い、たちまち離散することだろう。
 千原流華道が崩壊を迎える時、その流派の三人の女たちは宿敵である湖月流華道の人間花器に堕ち、女の穴という穴に花を飾られることになるのだ。
 順子が甘美な白昼夢に酔っているその時、扉がドン、ドンと叩かれ、岩崎大五郎の妾である葉子と和枝が顔を出す。
「あら、どうしたの?」
 我に返った順子が声をかけると、葉子は「時造さんが急に現れたので相手をしていたのよ」と答える。
「三日後に岩崎親分と一緒に来るんじゃなかったの?」
「その予定だったんだけど、一昨日の夜に水揚げした美沙江のことが忘れられなくて、来ちゃったんだって」
 和枝がそう言って苦笑する。和枝が美沙江のことを口にしたので、絹代ははっとした表情になる。
「一昨日の夜のことなら、まだ忘れられなくて当たり前でしょう」
「そうじゃなくて、寝ても覚めても美沙江のことが頭に浮かんで離れないそうよ。要するに美沙江に惚れちゃったらしいわ」
「あんな怖い顔をしているやくざのお兄さんが意外と純情なんで驚いたわ」
 そんなことを言い合いながら、葉子と和枝は顔を見合わせてゲラゲラ笑い合う。葉子と和枝はこの田代屋敷でばったり鉢合わせした時は取っ組み合いの喧嘩を演じたが、その後は同じ水商売上がりということもあり互いに気が合うのか、しょっちゅうつるむようになっている。
「それで、時造さんの相手はもういいの?」
「いいのよ」
 順子の問いに葉子は苦笑する。
「もともと私たちのことなんかどうでもいいみたいで、すぐにでも美沙江を抱きたいって聞かないのよ。美沙江は桂子がレズビアンの調教をつけていたんだけど、急遽中止して時造さんとお床入りよ」
 葉子の言葉に絹代と珠江は衝撃を受け、同時に顔を上げる。
「時造さんの逸物は何しろ真珠入りで、大きさは馬並みでしょう。美沙江が壊されちゃいけないんで途中まで立ち会っていたんだけど、時造さんがあまり美沙江にべた惚れの様子なんで、馬鹿馬鹿しくなって抜け出して来たのよ」
 和枝はそう言いながら絹代と珠江のすっかり青ざめた表情をちらちらとうかがう。
「美沙江の方も満更じゃないみたいね。やっぱり女って、初めての男には弱いのかしら」
 葉子も冷酷そうな笑みを浮かべ、やはり絹代と珠江の方に時折視線を向けながら話し続ける。
「この前、鬼源さんに稽古をつけられた尺八の技巧を早速時造さんに発揮したんだけれど、時造さんはまさかそんなことをしてもらえると思っていなかったみたいで、大感激していたわ」
「いよいよ結合という段になっても、二日前に処女膜をなくしたばかりのお道具を一生懸命膨らまして、時造さんの真珠入りのものをしっかり根元まで受け入れているんだから大したものだわ」
 葉子が語る情景のあまりの酸鼻さに、絹代は思わず気が遠くなる。
「き、絹代様っ。しっかりなさって!」
 珠江が堅く縛られた裸身の肩先を絹代にぶつけるようにしながら声をかける。
「あらあら、だらしがないわね。娘が男に抱かれる様子を聞かされるだけで失神するなんて」
「それとも、自分が逞しいやくざ男に抱かれているような気分になって、興奮したのかしら」
 葉子と和枝が交互に絹代を揶揄する。順子はコップに水を汲むと、絹代の顔に向かってバシャッと浴びせかける。
「た、珠江様――」
 どうにか正気を取り戻した絹代は虚ろな目を珠江に向けていたが、やがてはっと気づいたように順子を見上げる。
「お、大塚さん。お願いですっ」
「何なの? 怖い顔をして」
 必死な表情を向けている絹代に、順子はわざと関心なさげな視線を返す。
「美沙江を、美沙江を助けてください。お願いっ」
「助けてって言われても――時造さんだって別に無理やりに犯している訳じゃないのよ」
 順子は苦笑しながら答えると、和枝もまた笑いながら後を続ける。
「時造さんったらあんなに怖い顔をしているのに、美沙江にプレゼントの指輪まで買って来たのよ。例の津村さんが見立てたみたいだけど、これがサイズもぴったり。婚約指輪にちょうどいいって喜んでいたわ」
「こ、婚約ですって――」
 絹代は驚きに息を飲む。
「時造さんと言えば関西のやくざの大親分、岩崎大五郎の弟で岩崎組の大幹部。親分の後は岩崎組を継ごうかというようなお人よ。美沙江のお婿さん候補としては申し分ないと思うけれど」
「ば、馬鹿なことを言わないで。どうして美沙江をやくざの男になんか――」
 思わずそう口走った絹代の頬を、葉子が思い切りひっぱたく。
「やくざを馬鹿にするんじゃないよ。私も和枝も、そのやくざの情婦(いろ)なんだよ」
「そうよ。そこにいる珠江だって今じゃあ森田組の商品なんだ。奥様だっていずれは珠江同様、やくざお抱えの性の奴隷になる運命なんだよ」
 葉子に続いて和枝もそんな風に決めつける。絹代は唇を震わせながら怒りと驚愕、そして恐怖が入り交じった視線を葉子と和枝に向けている。
「お願いですっ、大塚さんっ。奥様とお嬢様にこれ以上ひどいことをしないでっ」
 珠江が順子の足元にすがりつくようにしながら哀願すると、順子はさも煩わしそうに珠江を蹴っ飛ばす。
「もう、うるさいわね。あんたはもう美沙江と一緒に奴隷になることを誓ったでしょう。今さら何を未練がましいことを言っているの」
「で、でもお嬢様をやくざに引き渡すなんて事は聞いておりませんでしたわ――そ、それに奥様にこんな酷いことをするなんて」
「別に引き渡すなんてつもりはないわ」
 順子は苦笑する。
「美沙江のことは時造さんが一方的にご執心っていうだけよ。もちろん岩崎組は森田組にとっても、私たち湖月流華道にとっても大事なスポンサーだから邪険には出来ないけど、金の卵を産む鶏をやすやすと渡す訳にはいかないわよ」