岩崎大五郎の上京を二日後に控え、田代屋敷はさすがに身内は一千人を超えると言われる関西極道の世界における大親分の歓迎準備で慌ただしい。朝からショーの準備のため、吉沢や井上といった幹部や、竹田や堀川たちチンピラへの指示に忙殺されていた森田はようやく一息つき、田代とともにホームバーでビールを飲んでいる。
「親分も大変だな。まあ一服するがいい」
「へい、社長。すいません」
 田代に酌をされる森田は恐縮しながらグラスを口に運ぶ。
「女奴隷が増えるのは結構なことだが、親分は忙しくなるばかりだな」
「それは嬉しい悲鳴ってやつで。不平を言っちゃあ罰が当たりやす」
「しかし、そのせいで親分は新しい奴隷を味見する時間もないじゃないか」
「そいつが目下の悩みの種でして」
 森田が苦笑する。
「それじゃあ岩崎親分の逗留が終わったら、内輪だけでぱっと慰労会をやろうじゃないか」
「そいつはいいですね。金儲けばっかりじゃあ人生に潤いがなくなっちますからね」
 傍らのテーブル席では鬼源と川田が額を付き合わせるようにしながらショーの手順について念入りな打ち合わせをしている。
「ショーの演目は決まったのかい、鬼源さん」
 田代がにやにやと淫靡な笑みを浮かべながら尋ねると鬼源は「へい、ようやく」と頷く。
「川やんと相談して、最初の案から思い切って出し物を増やしやした」
「ほう、どんな風に」
 田代が興味津々と言った顔付きになる。
「京子と美津子の姉妹、それに小夜子と文夫の姉弟を中心に演目を組むという方針は変わりませんが、それだけじゃあ男と女の組み合わせが少なくて寂しい。それで珠江夫人と捨太郎の白黒ショーを昼の部に付け加えることにしやした」
「珠江夫人と捨太郎を組ませるのか?」
 森田が驚いて声を上げる。
「大丈夫か? あのお上品な医学博士夫人が捨太郎のデカ魔羅をぶちこまれたら、大事なお道具が壊れちまうんじゃないのかい?」
「まさか」
 鬼源が思わず吹き出す。
「女のあそこからは赤ん坊だって産まれるんですぜ。それに、静子夫人だって立派に捨太郎とはコンビを組んでたんじゃないですか」
「そうは言っても、静子夫人は別格だからな」
「そりゃあそうかも知れませんが、珠江だってなかなかのもんですぜ。チンピラ部屋に三日三晩浸けられたり、熊沢組の三人をたった一人で堂々と相手にしたりですっかり度胸がついたようでさあ。今なら捨太郎の相手だって立派にこなせますよ」
 川田も鬼源に賛同して言葉を沿える。
「しかしな……」
 森田は心配そうに首をひねる。
「静子夫人や珠江夫人といった気品のある人妻は、岩崎親分の大のお気に入りだ。その珠江夫人を薄馬鹿の捨太郎に抱かせたとあっちゃあ親分は気分を損ねねえかな」
「だから捨太郎とコンビを組ませといた方がいいんですよ」
 川田が身を乗り出すようにして答える。
「岩崎親分が珠江夫人を気に入って、自分で世話をしたいなんて言い出したらえらいことですぜ。静子夫人が妊娠した今は、実演ショーは珠江夫人を軸に組み立てざるを得ませんからね」
 川田は勢い込んで続ける。
「それに珠江夫人は京都の名門、千原流華道の後援会長で大学教授夫人という名士ですから、あっちの警察は血眼になって捜してますぜ。岩崎親分が万が一珠江を自分の女にして関西の本部に連れ帰るようなことがあっちゃあ、何かと危険でさ」
「岩崎親分も、珠江が捨太郎のような薄馬鹿の女になったとあっちゃあ、横車は押せねえって訳か」
 森田はしばらく考え込んでいたが、ふとあることに気づく。
「何だ、考えてみりゃあ、こりゃ静子夫人の時に使った手じゃないか」
「そう言われるとそうですが……これしか巧い方法はありませんぜ」
 川田が弁解するような口調になる。
「それにこの案は、大塚先生がいたくお気に入りで。どうせ千代あたりから吹き込まれたんでしょうが」
 森田はしばらくの間考え込んでいたが、やがて渋々といった様子で頷く。
「岩崎親分には見え見えのごまかしだと思われるかもしれないが、この際仕方ねえか。山崎のことでただでさえゴタゴタしているのに、これ以上悩みの種を増やしたくないからな」
 森田がそう言うと田代も同意するように頷く。
「しかし、ついに博士夫人も捨太郎の馬鹿と組まされることになったか」
 田代は感慨深いといった風に呟く。
「あんまり馬鹿馬鹿といっちゃあ捨太郎が可哀想で。あれで実演役者としては客を喜ばす方法も結構心得ているんでさ」
「わかってる。親しみを込めていっているのさ」
 苦言めいた言葉を吐く鬼源に、田代が答える。
「しかし考えてみりゃあ、捨太郎も果報者だ。静子夫人の次は珠江夫人と、本来ならば絶対に手が届かない上流の高嶺の花、絶世の美女を次々に自分の妻にできるんだからな」
「まったく、おっしゃるとおりでさ」
 鬼源は追従するように笑う。
「それで、追加の出し物はそれで終わりかい」
「珠江と美沙江については夜の部にも出演させることにしやした。二人の息もだいぶ合って来たんで、夜はレズショーのお披露目をしようと思いやす」
「夜のレズショーは京子と小夜子のコンビが出演するが、二人にも対抗心が出て言い刺激になるかもしれないな」
 森田は感心して頷く。
「京子、桂子、それに美津子とコンビを組んで来た静子夫人を欠いている今だから、組み合わせが増えるのは歓迎だ」
 田代も恵比須顔で腕を組む。
「いずれ他の組み合わせ、小夜子と美沙江、それに京子と珠江なんてのも試しても面白いだろう」
「それはまあ、今の組み合わせを一通り完成させてからでさあ」
 田代の意見に鬼源が答える。
「調教は順調に進んでいるのか、川田」
 今度は森田が川田に尋ねる。
「へい、京子と美津子、小夜子と文夫の四人については三階の大広間に集めて、葉桜団の銀子たちが徹底的に仕込んでます。珠江と美沙江は春太郎と夏次郎が友子と直江を助手に付けて演技の指導中です」
「夜になったらあっしと川やんが中心になって、白黒ショーの要領を徹底的に叩き込みます。京子とジョニー、小夜子とブラウン、珠江と捨太郎、それに美津子と文夫の四組を大広間に集めて同時に調教するんでさあ」
「四組同時の白黒ショーか。そいつは壮観だな。私もぜひ見学してみたいもんだ」
 田代が目を輝かせると、鬼源が「差し入れは歓迎しますぜ」と黄色い歯を剥き出しにして笑う。