133.無条件降伏(5)

 ふと気づくと久美子はホームバーの中央に置かれた簡易ベッドの上で寝かされ、鬼源が手に持つ捩り棒によって肛門拡張の調教を受けていた。
「やっと気が付いたのね、久美子」
声をかけたのは銀子である。久美子はいまだ夢から覚めやらぬような表情であたりを見回している。
「どう、痒みは治まったの?」
銀子は口に銜えた煙草の煙をふっと久美子に吹きかける。久美子はゆっくり首を振る。山芋に得体の知れない薬物を加えたものを敏感な箇所に塗りたくられたことによる掻痒感は、以前として久美子の脳髄を痺れさせるほどである。しかしそれはなぜか身体の中でテグスで花芯を吊られる痛みと中和され、久美子はそれほどの苦しさは感じなくなっているのだ。
「失神している間に久美子は小巻きを受け入れられるようになっているのよ。お兄さんと対面するまでに、男の肉棒を受け入れられるような身体に仕上げておかないといけないから、今日は肛門の調教に集中することにするわ」
「こっちの調教は春太郎や夏次郎の方が得意なんだな」
鬼源はそう言いながら、巧みな手つきで捩りの入ったドリルを久美子の菊花に抽送させ続ける。
「それにどうもさっきから二階の方が気になってな。本当に俺が行かなくても大丈夫なのか?」
「二階には朱美がいるし、さっきマリと義子も助っ人に行ったから当分は大丈夫よ。鬼源さんの出番は夜の部の、白黒ショーの稽古でしょう」
「そりゃあそうだが……」
「それにしてもこんなに奴隷が増えると、調教する側も楽じゃないわね。結局まともに使えるのは鬼源さんと私たち、それに春太郎と夏次郎しかいないんだから」
「友子と直江はどうなんだ」
「あの二人は大塚先生の尻馬に乗ってはしゃいでいるだけよ。悦子がいれば少しは楽なんだけど、そうもいかなくなったしね」
久美子はそんな鬼源と銀子の会話をぼんやりと聞いている。「小巻き」と呼ばれる筒具をくわえ込んでいる久美子のその部分からは、不思議と痛みは生じないばかりか、疼くような掻痒感をほぐされる甘い快感すら湧き起ってくるのだ。
昨日からの責めの連続でもはや麻痺しているのか、それとも痛みを快感に転化させるほどの被虐性を身につけるに至ったのか――。
やがて久美子は周りには田代と森田、そして川田の姿もなく、ホームバーにいるのは自分と銀子、そして鬼源の三人だけであることに気づく。
「久美子が山崎をおびき出すことに協力することを約束してくれたから、親分や社長、それに川田さんは早速その準備にかかっているのさ。善は急げって言うからね」
銀子のその声に、久美子は極限の脳乱状態の中で、兄を森田組の男奴隷にして欲しいと誓ったことを思い出す。
(わ、私……何てことを……)
悪鬼たちの責めによって発狂寸前まで追い込まれ、兄を裏切ることを誓わされた――悔やんでも悔やみ切れない痛恨の思いに、久美子の目から涙がしたたり落ちる。
「あら、どうしたの、久美子。泣いているじゃない」
銀子が楽しげに久美子の顔を覗き込み、再び煙草の煙を吹きかける。
「お尻の穴がそんなに痛いの? ワセリンをもっと塗ってあげようか?」
「そ、そうじゃありません」
久美子は泣きじゃくりながら首を振る。
「兄を、兄を捕らえたら、いったいどうするつもりなんですか?」
「言われたでしょう? 森田組の男奴隷にするって」
「そ、それじゃあ、兄に恐ろしい責めを加えるんですか?」
「恐ろしい責めって?」
銀子が首をかしげるが、久美子は言い淀んで顔を逸らす。
「ああ、マリや義子に脅されたのね。どうせ、チンチンを焼くとか玉を潰すなんて言われたんでしょう」
おかしげに笑い出す銀子を久美子はけげんそうな表情で見つめる。
「久美子ったら本気にしたの? 馬鹿ね。そんなことしないわよ」
「ほ、本当ですか」
「森田組は手荒なことはしないって言ったでしょう。そりゃあ、吉沢さんあたりはあんたのお兄さんに恨みがあるから、多少乱暴に扱うかもしれないけど、貴重なポルノ男優として誘拐するんだから、傷が残るような真似はしないわ」
銀子の言葉に久美子は愁眉を開いたような顔になる。
「そもそもチンチンを焼いたり、タマを潰したりしたらポルノ男優としての価値がなくなってしまうでしょう? そんな勿体ないことする訳ないじゃない」
そこまで言うと銀子は口に銜えていた煙草を灰皿に押し付けて消し、表情を改める。
「でも、それはお嬢さんが親分や社長に誓った通り、森田組の忠実な女奴隷になって山崎探偵の誘拐に協力することが条件よ。もし約束を破られてお嬢さんが山崎に奪い返されて、最悪私たちも森田組も一網打尽になったとしても、岩崎一家がいつまでもお兄さんを狙うわよ。そしてある日、お兄さんと久美子は一つのドラム缶にコンクリート詰めにされて、東京湾に沈められることになる」
「や、やめてっ」
久美子はそんな銀子の恐ろしい言葉を耳に入れまいとするかのように首を振る。
「おっしゃる通りにします。しますから、そんな恐ろしいことはやめて下さい」
「久美子が約束を破らなけれ大丈夫だと言ったでしょう。そんなに脅えることはないのよ」
銀子は久美子の脅え振りを見て、さも楽しげに笑う。
「銀子、そんなに脅かすからお嬢さんのケツの穴が堅くなってきたじゃねえか」
久美子の菊花を調教している鬼源がそう不平を漏らしたので、銀子はぷっと吹き出す。
「あら、ごめんなさい。お嬢さんったら、怖くてお尻の穴まで縮まっちゃったのね」
銀子はそう言いながら両手を久美子の乳房に当て、ゆっくりとマッサージし始める。
「そんなに怖がらなくてもいいのよ。気持ちを切り替えれば久美子もお兄さんも、このお屋敷の中で楽しく過ごすことができるのよ」
銀子は絶妙な手つきで久美子の乳房を愛撫する。葉桜団の朱美や悦子、そして実の妹であるマリとさえ契りを結んだことのある銀子は筋金入りのレズビアンであり、その女責めの手腕は鬼源や川田でさえ及ぶものではない。
その銀子がいよいよその持てる技巧を駆使して久美子を責め始めたのである。被虐の妖しい性感をすでにはっきりと知覚していた久美子はたちまち銀子の愛撫に引き込まれ、熱いため息を漏らし始める。
「最初に奴隷になった遠山家の令嬢なんて、すっかりこっちの世界に順応して、森田組の男たちのアイドルになっているわ。静子夫人だって、遠山の爺さんとの夫婦生活ではおそらく無理だった妊娠を経験することができて、母親になる喜びを感じ始めているそうよ」
そんなことがあるのだろうか――銀子の粘っこい愛撫を受けている久美子は夢現つと言った気分になりながら、ぼんやりと考えている。
「京子と美津子や、小夜子と文夫もこの屋敷にやってきた頃とはすっかり人が変わっているわ。四人ともマゾの悦びだけじゃなく、近親相姦の関係すら受け入れられるようになっているわ。私たちはこの四人を本当の意味で、仲の良い恋人同士にしてあげたいのよ。そうしたら四人は誰と交わっても抵抗なく性の悦びを感じることができるようになるわ。実に面白い実験だと思わない?」
そんな恐ろしいことが――魂も凍るような背徳の計画を聞かされながらも、久美子はそれはどこかたまらなく甘美な関係であるかのような感覚さえ生じている。

Follow me!

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました