ダミヤが捨太郎に激しく責め立てられているその頃、静子夫人は地下の個室でひとりぽつんと座り込んでいた。
 山内による人工授精が実行されてからは、静子夫人に対する調教はさすがに以前のような激しさは影を潜めている。それを埋め合わせる形で京子や小夜子、そして珠江といった他の囚われの美女にかかる負担が増えているのは事実ではあったが。
 千代の指示により、個室の中では静子夫人は縄も解かれ、下穿きや襦袢といった下着類を身につけることも許されている。母体が安定期に入るまで無理をさせるなというのが千代の意向である。ひさびさに身体に衣類をまとうことが出来るのは静子夫人にとってありがたいことではあったが、反面、夫人に何としても子供を産ませようという千代の暗い情念が感じられ、恐ろしくもなるのだった。
 かつての貞淑な人妻としての生活が夢ではなかったのではないかと思うほど、静子夫人は数々の言語を絶する調教に狂おしいまでの被虐の悦びを感じ取るようになっていた。
 しかしながらこうやってひとり地下牢の中で我に返ると、性の奴隷としての汚辱の日々の記憶が夫人の自意識を激しく苛むのだった。
 ――ああ、私はいったい、なんという女になってしまったのか――
 顧問弁護士の伊沢の裏切りにより静子夫人は夫である遠山隆義とは無理矢理離縁させられていたが、相変わらず田代や森田そして葉桜団の女たちは静子のことを「静子夫人」と呼んでいた。それは女奴隷に元の身分を思い出させることによって羞恥や屈辱を忘れさせないようにする、という調教側の配慮であった。
 外部社会から完全に遮断され、地下牢と調教室を往復するだけの日々。既に世の中には自分のとんでもない姿を収めた秘密写真や映画が大量に出回っているという。
 義理の娘である桂子を非行に走らせた張本人、恥知らずの色気違い、名門遠山家の面汚し――今やそれが静子夫人に対する遠山家関係者の評価だという。心労のあまり倒れ、危篤の床にあると伝えられている遠山の前に顔を出すことなど、もはや夫人には考えられないことだった。
 ――もう元の世界には絶対に戻れない。このどん底のような世界で自分は子を産みながら、性の奴隷として恥多き一生を送るのだろうか――
 そして産んだ子供もまた、静子夫人を自由に操るための人質として利用され、自分は死ぬことも許されないだろう。そればかりではない。悪魔たちは生まれてくる子供も森田組の奴隷として育てるという。
 いっそ子供を産む前に命を絶った方がよいのか、と切羽詰まった思いで膨張した腹部を見つめる静子夫人。そのとき夫人は、身体の中でビクリと胎動がするのを感じた。
 人工授精が成功していたとしても、もちろんこの時期に胎動を感じることなどあり得ない。それは静子夫人の錯覚だったが、夫人は確かに自分の身体の中で新しい命が育ち始めようとしていることを覚ったのだ。
 ――ああ、私の赤ちゃん――
「ごめんね、ごめんね。死ぬなんて考えて――何の罪もない貴方を道連れにすることなんてできないわ」
 夫人の頬を大粒の涙が伝って落ちる。顔を伏せておえつを始めた静子夫人は、廊下を足音がすることに気づきはっと顔を上げる。
「どうしたの。めそめそしちゃって」
「女は妊娠すると気持ちが不安定になるっていうからね、お見舞いにきてあげたわ」
 地下牢に向かう廊下を葉桜団の団長である銀子と、副団長の朱美が歩いてくる。
「たまには少し遊んであげるわ。着物を脱いで出てきなさいよ」
 銀子は檻の扉を開け、そう声をかける。
「ああ、銀子さん――」
 あまりひどいことはしないで、と小声で訴える静子夫人だが、さほど抵抗もせず下穿きを脱ぎ、腰紐を解いて肩から襦袢を外す。
「相変わらず見事な身体ねえ」
 素裸になった静子夫人が牢から出て直立不動の姿勢を取ると、銀子は感心したような声を上げる。
「森田組にも随分奴隷が増えたけれど、やっぱり肉体美では静子夫人が断トツね」
 朱美もまたそう感嘆の声を上げながら静子夫人の背後に回り、後ろ手縛りにすると縄尻を天井から下がったロープにつなぎ止める。
「ずいき縄を掛けてあげるわ。ひさしぶりでしょ」
 朱美が静子の腰に赤く染められたずいき縄を巻き付け、無毛の股間を割るように締め上げる。
「ああ――」
 銀子が夫人の背後に回り、豊満な乳房を抱えるようにもみ上げると、夫人は早くも被虐の快感を感じ取り、切なげなため息をもらし始める。
「妊娠したせいか、ずいぶん大きく膨らんだわね。もうミルクが出るんじゃない?」
「こっちももうじっとり潤ってきたわ。妊娠すると一層感じやすくなるみたいね」
 銀子と朱美は夫人を言葉で嬲りながら、耳たぶを軽くかんだり、首筋に接吻したり、またポケットから羽ぼうきを持ち出して太腿を緩やかにくすぐり出すなど、巧みに愛撫し続ける。
 夫人はもどかしげに、ずいき縄で締め上げられた腰をゆらゆらと振り立てながら、熱いため息を吐き続ける。
「どう、気持ちいい?」
 銀子がくすくす笑いながら訪ねると、夫人は少女のように恥ずかしげに頬を染めて、こくりとうなずく。
「そろそろお道具を使ってあげましょうか? お尻の方ならいいでしょう」
「――お、お任せしますわ。好きなようになさって」
 銀子が朱美に目配せすると、朱美はにやりとうなづき、小箱に入った細い筒具を取り出す。
「ああっ」
 ずいきの縄褌を割るように、筒具の先端が夫人の菊の蕾に侵入する。せっぱ詰まったような悲鳴を上げる夫人の唇を銀子の唇がふさぎ、絹のような柔らかい舌を吸い上げる。
「だいぶ気分が良くなってきたところで、奥様に相談があるのよ。実は森田組に新しい女奴隷が入荷したの」
 銀子がそう言った途端、静子の表情が強ばる。
「あら、そんな不安そうな顔をしないでも大丈夫よ。今度の女奴隷は奥様や小夜子たちとは違って、自分たちから奴隷になりたいって志願して来たのよ」
「志願ですって?」
 静子夫人は信じられないといった顔を銀子に向ける。
「夏子と冬子と言うのよ。夏子の方は大手レストランの社長夫人、冬子の方は有名な小説家の奥様よ。年齢はいくつだっけ、朱美」
「確か夏子の方は39歳で、冬子は36歳だったかな」
「夏子さんと冬子さん……」
 いかにも偽名と言った名前だが、その年齢や素性に静子は心当たりはない。
「あんたがこれから出産することになると、当分ショーには出られないでしょ。それでこの二人の人妻が調達できたから捨太郎の相手をしてもらおうと思うのよ」
 そう言って銀子と朱美は笑い合う。
(また不幸な女の人が悪魔の罠に落ちたのかも知れないけど、私にはもうどうすることもできないわ)
 自分から志願したなんて、銀子や朱美の言うことはとてもじゃないけどあてに出来ない。しかしながらその一方で苛酷な調教の日々の中で被虐の性感を知覚するようになった静子夫人は、ひょっとして自分と同様の倒錯の罠に陥った女なら、そんなこともあるのかも知れないと、静子夫人は快美感に痺れた頭でぼんやりと考えるのだ。
「できるだけ早くこの新しい女奴隷たちがショーに出られるようにしなくちゃ、美沙江や美津子が捨太郎の相手をしなくちゃならなくなるのよ」