「これ以上辱めるも何も、文夫も小夜子ももう、落ちるところまで落ちているんだよ」
 銀子はそう言うとギラリと目を光らせ、朱美に「例の小夜子の挨拶状を見せてやんなよ」と声をかける。
「あいよ」
 朱美は倉庫の奥の棚から分厚い封筒を一つ取り出すと中に入った一枚の上質紙を取りだし、美紀に見せつける。
 それに目を落とした美紀はあっと息を呑む。その紙には次のような奇妙な挨拶文が印刷されていたのである。
 ――今度、私儀、突如、心境の変化をきたし、これまでの社会生活より訣別して、秘密映画、及び写真のモデルとして、新たに発足することに致しました。いささか容貌、及び肉体には自信がございます故、この道で将来、成功致すべく、努力を続けるつもりでございます。同封致しました写真は、デビュー作品とも申すべきもの、何卒、御笑覧の上、知人の皆様方にも御宣伝下さいますようお願い申し上げます――村瀬小夜子
「こ、これは……」
「この報知状にこんな写真を入れて、小夜子が卒業した青葉学園の同窓生や友人・知人、それに村瀬宝石店の従業員や取引先に送り付けてやったのさ」
「な、何ですって――」
 それはすべて全裸の小夜子と男の絡み合いを写したものである。男の膝の上に乗せ上げられて、カメラに正面を向け、さらに片手で男の肉棒をさも愛しげに握り締めながら微笑んでいる写真。正面座位で男と絡み合い、情熱的に唇を合わせている写真――その露骨なまでの卑猥さとおぞましさに美紀夫人は思わず気が遠くなるのだ。
「随分封筒書きのアルバイトをやらされたような気がするけど、どれくらい送ったかね」
「ざっと千通は下らないよ」
 銀子と朱美の会話に、美紀夫人はさらに打ちのめされる。
「みんなあんたの亭主の会社で働いていた津村さんの指示でやったことだよ。あんたの亭主もも随分恨まれていたんだね。小夜子はとばっちりを受けたようなものさ」
 小夜子がそんな写真を撮られたことももちろんだが、自らの交友範囲すべてに送られていようとは――小夜子をまさに社会的に抹殺しようという津村の冷酷さに、美紀夫人は肌が粟立つような感触を知覚するのだ。
「しかしおかしいね。奥さんは小夜子の母親の癖に、娘のこんなとんでもない写真が周りに出回っている事を知らなかったのかい? 小夜子の恋人の内村春雄なんかには、真っ先に送られているはずだよ」
「内村さんに――」
 美紀夫人はそこで新たな衝撃を受ける。
「内村には写真だけじゃなく、津村さんと小夜子のベッドインの様子を録音したテープなんかも送られているはずだよ」
「それだけじゃないよ」
 朱美が口を挟む。
「小夜子のウンチやおしっこ、それに剃り取ったあそこの毛まで送っているんだ。小夜子の臭いものまで受け取った内村は、それこそ百年の恋も冷めたんじゃないかい」
 内村春雄は東京では有数の個人病院である内村病院の院長の息子で内科部長を勤めている、小夜子の婚約者だった。小夜子が誘拐されてしばらくは内村もまた必死になって自ら雇った探偵などを使って、小夜子の行方を捜しているようだった。しかしながらある日突然それまでの熱意が嘘のように小夜子の捜索から手を引いたのだ。
 そんな内村の変化を訝しく思った美紀だったが、その真意を聞く機会もなく日を過ごしてしまったのだ。内村の変心の裏にはそんな恐ろしい事態があったとは――。
「小夜子は、小夜子はそのことを知っているのですか?」
「もちろん知っているさ。娑婆に無駄に未練を残しておいて欲しくないからね」
「ああ……何ていうこと」
 愛する娘が無残にも、じわじわと社会的に抹殺されていく様子を美紀夫人には知らせないようにしたのは夫の善吉の配慮だろう。しかし娘がそんな目にあっていることを知らずに、誘拐者から解放されればすべてが元通りになると甘く考えていた自分の愚かさに、美紀夫人は臍を噛む思いだった。
 自分の目の前で見せた小夜子の変貌振りの理由を美紀夫人は初めて理解し、愛する娘が陥った運命のあまりの苛酷さに改めて涙するのだった。
「そこにいる遠山夫人や桂子、京子と美津子の姉妹だって似たようなものさ。それぞれをモデルにした秘密写真や映画が山ほど出回っているんだ。仮にここから助け出されたって二度と日のあたる場所を歩くことなんかできないさ」
 銀子の残酷な言葉に静子夫人はピクリと肩を震わせる。
「折原夫人や美沙江だって同じだよ。間もなく二人をモデルにしたヌード写真が、千原流華道の後援会員にいっせいに送られることになっているんだ。そうなりゃ二人はここから出ようなんて気はなくなるし、千原流華道も完全におしまいさ」
 朱美のその言葉に絹代夫人はまるで死刑宣告を聞いたような表情になるのだ。
「お二人にも娘たちや静子夫人と同じ道を歩いてもらうよ。その気があれば静子夫人みたいに、子供を産ませてやっても良いよ。お二人とも良い身体をしているから、まだ十分間に合うんじゃないかい」
 銀子はそう言うと、朱美と顔を見合わせて笑い合うのだった。
「だいぶ時間を食ったね。それじゃあ二人とも膝をついて、おしゃぶりの稽古を始めるんだ」
 美紀と絹代は衝撃のあまり銀子の命令も耳に入らないかのように立ち尽くしている。
「何をぼんやりしているんだよ。しゃんとしないかっ!」
 銀子はいきなり二人の美夫人の頬に平手打ちを見舞う。美紀夫人と絹代夫人は「あっ」と声を上げて身体をよろめかせる。
「あんたたちが素直にならなきゃ、その分小夜子や文夫、それに珠江や美沙江が辛い目にあうんだよっ。わかったらさっさと言う通りにするんだっ」
 銀子が畳み掛けるようにそう言うと朱美もまた「奥様からも二人に言い聞かせるんだよ」と静子夫人に声をかける。
「み、美紀様、絹代様、銀子さんや朱美さんに逆らってはいけませんわ。い、言われた通りになさってください」
 美紀夫人と絹代夫人はシクシクと嗚咽しながら頷き、膝を着く。
「それじゃあ始めるよ」
 銀子と朱美は文夫のペニスから作られたという張り型を手にすると、美紀夫人と絹代夫人の口元に押し当てる。
「うっ……」
 張り型を唇に押し当てられた美紀夫人はまるで息子のその部分に触れさせられたような嫌悪感と背徳感を同時に知覚し、苦しげな呻き声を上げる。
「だ、駄目ですわ、美紀様。そんな風に嫌がっては。素直にお口をお開きになって」
 静子夫人に宥められた美紀夫人はようやく口を開く。美紀夫人の花のような唇を割って、本物そっくりのそれが侵入する様子を、田代と森田はさも楽しげに眺めている。
 二人の美夫人がようやく口を開き、その淫具を深々と口に含んだのを見て、田代と森田はニヤリと笑って顔を見合わせる。
 これで村瀬美紀と千原絹代という、遠山夫人と並ぶ二人の名家の令夫人が森田組の商品に加わる目処がついたと、二人の男は満足げに頷きあっているのだ。
「静子夫人の調教は一々言葉遣いがていねいなのがまどろっこしいね」
 朱美が顔をしかめると銀子が、
「だけど、そこがかえって面白いじゃないか。いかにも上流夫人が秘密の桃色遊戯に耽りあっているっていう感じがして」
 と笑うのだ。