四人四様の崩壊の様を楽しげに見守っていたマリと義子は、美女たちの発作が収まったのを見計らってステージ中央へと歩み出る。
「山崎探偵の妹が目出度く一等賞です。みなさん、拍手を」
 マリが観客席に向かってそう告げると、どっと歓声と拍手が湧き起こる。観客席が鎮まると、義子が「これで浣腸のご馳走を頂戴するのは久美子に決定や。ええなと」と言って久美子の肩を叩く。
「か、覚悟は出来ておりますわ」
 久美子が青ざめた表情でそう言うと、義子はマリと顔を見合わせて「覚悟は出来ておりますは良かったな」と笑う。
「他のみんなは残念だったわね」
 マリがそう言って美紀夫人に絹代夫人、そしてダミヤを順に見回す。それぞれ、他の奴隷たちを救おうと積極的に官能の海に身を投じた三人だったが、一時の興奮が覚めてみると、おぞましい仕置きから免れたことに内心ほっとしている自分がいるのだ。三人の美女はそんな後ろめたさを隠すように、顔を俯かせている。
「と、言いたいところやけど」
 美しい奴隷たちの緊張が緩んだころを見計らったかのように、義子ががらりと口調を変えて久美子の前に立ち、顎に手をかけてぐいと顔を持ち上げるようにする。
「久美子、あんた、本当はいってないのに、いったふりをしたやろ」
「えっ」
 久美子ははっとした表情になる。
「そ、そんなことありません」
「ごまかしても無駄や。あたいらの目は節穴やないで」
 義子がそう言うとマリが久美子の足下にかがみ込み、鈴縄を解き始める。
「な、何をするのっ」
「静かにしなっ」
 マリは抵抗する久美子の尻をピシャリと叩く。義子も手伝って久美子の腰部から鈴縄を外すと、金の鈴が取り付けられたあたりを指先で探る。
「思った通りや。ほとんど濡れてないやないか。これでもいったって言えるんか」
「い、いきました。本当にいきましたわ」
「いい加減にせんかいっ」
 義子が久美子の頬を思い切り平手打ちする。衝撃で久美子はよろけ、舞台の上に膝をつく。
「大事なショーでいかさまをしたらどうなるかわかっとるやろな。お嬢さんには後でたっぷりお仕置きしてやるから覚悟するんや。それと……」
 義子はそう言って他の三人を見回す。
「奴隷は連帯責任や。久美子の罪は他の三人にもかぶってもらうで。ショーの終了後の浣腸は四人揃って受けるんや」
 義子の言葉を聞いた三人の美女たちは死刑の宣告を受けたような表情になる。久美子は絶望に顔を歪め、ひきつったような泣き声を上げ始める。
「も、申し訳ありません。わ、私のせいでこんなことに……」
 舞台の上で這いつくばって詫びを入れる久美子にさも楽しそうな視線を投げかけたマリと義子は、観客席の方に向き直ると、
「皆さん、大変な粗相をいたしまして申し訳ございません」
「この埋め合わせは後ほど十分にさせていただきますので、どうかご容赦ください」
 と言って深々と頭を下げる。観客席から湧き起こる拍手に送られて、四人の女奴隷たちは舞台の奥へと引き立てられていく。
「これも全部演出なのかしら」
 町子がそう尋ねると「もしそうなら大したもんだが」と岡田も首をひねる。
 観客席に照明が落ち、先程とは打って変わって琴や三味線、そして鼓や太鼓などの和楽器による音楽が流れ始める。観客たちの注目が再び舞台に集まった時、するすると幕が開く。
 舞台中央に若い女が褌一丁の裸で、後ろ手に縛られた上で片足吊りにされている。女の背中には鮮やかな桜吹雪の刺青が描かれており、どうやら敵に捕まった女やくざということらしい。
 その隣りにはいまだ幼さが残る顔立ちの小町髷の娘が、素っ裸で縛られ正座させられている。二人の女を肴にするように、中央少し左にやくざ風の男が徳利を抱えるようにして酒をあおっている。
 男を挟むようにして緋色と紫の長襦袢を羽織った女――いや、よく見れば女装した男が二人、男にしなだりかかるようにして盃を交わしている。男一人と女装の男二人は、二人の美しい女を指さし、さも楽しげに笑い合っているのだった。
「良い格好じゃねえか、お京」
 男は徳利をぶら下げたまま立ち上がると、片足づりにされた女の横に立つ。
「女だてらに森田組に逆らうとは良い度胸だと褒めてやりたいところが、その無様な姿を見ると笑いが止まらねえ」
 そう言って男は二人の女装の男の方を振り向き、声を上げて笑う。
「どうだ、さっきから俺たちに頼んでいることをもう一度言ってみな」
 男がお京と呼ばれた女の顎を持ち上げるようにすると、お京は赤らんだ頬を背け、目を伏せる。
「どうしたい、舌がなくなったのかい。この葉桜屋に、妹のお美津を帰せと怒鳴り込んできた威勢はいったいどこへ行ったんだい」
 男がそう言ってお京の顔を覗き込むようにすると、お京はさも口惜しげに目を逸らしながら「……はばかりにいかせておくんなさい」と小声で口にする。
「何て言ったの、お京さん。聞こえなかったわよ」
 女装の男の一人が甲高い声を上げると、もう一人も「そうよ、もっと大きな声で言いなさいよ」と続ける。
「駒造さん、は、はばかりにいかせておくんなさい」
 お京は今度ははっきりとそう口にすると、悔しさのあまり嗚咽を始める。
「緋桜のお京さんも小便は我慢出来ずに悔し泣きかい。こりゃ傑作だ」
 駒造と呼ばれた男が声を上げて笑うと、二人の女装の男は正座させられて俯いている娘に近寄り、「お美津ちゃんはどうなんだい」と尋ねる。
 お美津と呼ばれた娘はさも恥ずかしげに顔を伏せ「私も……ご不浄にいかせてください」と答える。
「どうだい、お夏。妹の方がずっと素直じゃないか」
「そうね、お春。女の癖に男の渡世を踏み荒らすと、根性が曲がってくるのかしら」
 それぞれお春、お夏と呼び合った二人の女装男はケタケタと不気味な声を上げて笑う。
 お京と呼ばれている女やくざを演じているのはもちろん、山崎探偵の助手を務めていた京子であり、お美津は京子の妹の美津子である。
 やくざの駒造は川田、お春はシスターボーイの春太郎、お夏は同じく夏太郎が演じている。
 白塗りで女形を気取っている春太郎と夏次郎は見るものが思わず顔をしかめたくなるような醜悪さである。しかしながらそのため京子と美津子の姉妹の美しさがいっそう引き立つこととなっているのだが。
 一方の川田はスケコマシを生業としているだけあって、なかなかの男前であり、髷に着流しのやくざ風の衣装が良く似合っている。以前のショーでは演出に回っていた川田だったが、もともと目立つことが好きなせいか、女郎屋を仕切る忘八の役を乗り乗りで演じているのだ。
「もう我慢できないって言うのかい、お嬢ちゃん」
 お春がお美津に擦り寄るようにしながら尋ねると、お美津はさも恥ずかしげにコクリと頷く。