「ついに接吻したわ。姉と弟で。なんて愉快なのかしら」
 土蔵の中を覗いていたお桂は思わず歓声を上げるが、隣でやはり壁の隙間から土蔵の中を覗いている津村が難しそうな顔をしているのに気づき、声をかける。
「どうしたのよ、旦那。浮かない顔をしているじゃない。面白くないの」
「面白いと言えば面白いが……」
 津村は困惑げに首をひねる。
「お小夜がなぜあんなことまでしているかというと父親の敵を討ちたいから、要するに俺を討ち果たしたいからと言うことだろう。お小夜からそこまで恨まれていると思うと何とも憂鬱だ」
「何を言っているのよ。そんなこと当たり前じゃないですか」
 お桂は呆れたような顔で津村を見直す。
「旦那はあの二人にとって親の敵なんでしょう」
「そりゃあそうだが。もともとは俺がお小夜に惚れたことがきっかけのいさかいだ。そのお小夜からあれほど恨まれているとはなあ」
 そこまで言った津村は突然「痛っ」という声を上げる。
「旦那、声が大きいですよ」
「お桂がいきなり尻を抓るからではないか.いったい何のつもりだ」
「あたしの前でぬけぬけとのろけるからですよ。憎らしいったらありゃしない」
 津村とお桂がそんな会話を交わしている一方で、互いの唇をくなくなとこすりつけ合っているお小夜と文之助に、お春の叱咤の声が飛ぶ。
「ほらほら、そんな熱のないことじゃ見ている方はちっとも面白くないわよ。もっと恋人らしい気の入った接吻をしなさいよ」
「そ、そうおっしゃられても……」
 経験のないお小夜はどうしたら良いのか分からない。戸惑いの表情を見せるお小夜にお春は「唇を合わせているだけじゃ恋人同士とは言えないわ。互いに舌を吸い合い、唾液を飲み合うような熱烈な接吻をするのよ」とせっつく。
「そんな……」
 恥ずかしさに頬を染めるお小夜に、お春が「女郎と陰間に堕とされた方がいいっていうの」と畳みかける。
「わかりました」
 お小夜は小さく頷くと花びらのような唇をそっと開き、おずおずと舌を出すと文之助の唇の間をつつくようにする。
「ふ、文之助、お願い……」
「姉上……」
 文之助はお小夜の甘い誘いに、唇に込めた力を緩める。すかさずお小夜は舌先を文之助の口中にすっと差し入れる。
「うっ……」
 ついに姉の舌先を受け入れた文之助は切なげな呻き声を洩らす。それと同時に文之助の下帯に包まれた男の部分がピクリと痙攣したのを見たお夏が声を上げる。
「おや、お坊ちゃん。美しい姉上に接吻されたので感じたのね」
「なかなか頼もしいじゃない。見世物役者としてはなかなか有望だわ」
 お夏とお春がそう言ってゲラゲラ笑い出すと、部屋の隅で大徳利を抱えたままうたた寝をしていた鬼源がむくりと顔を上げる。
「うるせえな。何の騒ぎだ」
 不機嫌そうな声を出した鬼源に、お春が「何の騒ぎじゃないでしょう。鬼源さん。こっちが一生懸命、お小夜と文之助の調教しているのに居眠りをしておいて」と口を尖らせる。
「おめえたちの仕込み方があんまり生ぬるいから思わず寝ちまったんだ」
 鬼源がそう言うとお夏は「いくら鬼源さんでもその言い方は聞き捨てならないわ」と気色ばむ。
「だってそうだろう。口吸いの調教をするだけでどれだけ時間をかけているんだ」
「そんなこと言ったって、恋人同士の芝居をさせるんだから、それなりの雰囲気が大事でしょう」
「客はそんなものは喜ばねえよ。そのものずばりがみたいに決まっているだろうが」
 鬼源はそう言って立ち上がり、お小夜と文之助の近くにつかつかと歩み寄る。
「こんなものは邪魔だ」
 鬼源はお小夜に着せかけた襦袢に手をかけ、乱暴に肩から外してぐっと引き下ろす。
「あっ」
 雪白の乳房を露わにさせられたお小夜は、身を竦めるようにする。
「その格好で弟の口を吸いながら、乳首を弟の胸に擦りつけるようにするんだ」
 そんな鬼源の言葉にお小夜は衝撃を受けるが、鬼源はかまわずお小夜の尻をひっぱたき「早くやりなっ。愚図愚図していると弟の魔羅を切り落とすぞっ」とがなり立てる。
 お小夜は口惜しさをぐっと噛み殺しながら、命じられたとおり露わになった乳房を文之助の胸板にゆっくりと摩り付け始める。
「あ、姉上、そ、そんな……」
「我慢して、我慢して下さい。文之助」
 武士の身でありながら、下劣な陰間女郎や女郎屋の調教師の前で、姉の手によって淫らな責めを受けている文之助の屈辱を思い、詫びの言葉を吐く。
「そのまま弟の口を吸えっていっただろう。早くしなっ」
 そう鬼源から叱咤されたお小夜は毒食らわば皿までと言う気になったのか、自らの唇を弟の唇にぶつけるようにする。
「そんな甘っちょろいやり方じゃ客は満足しねえぜ。もっとぴったりくっついて、しっかり気を入れてやらねえかっ」
 鬼源はそう言うとお春から青竹を取り上げ、片手でお小夜の襦袢の裾をぐっと持ち上げると、むき出しになった尻をピシッと打つ。
「うっ……」
 裸の尻を打たれる苦痛と屈辱に呻くお小夜。鬼源は容赦なく、お小夜の尻をピシッ、ピシッと打ち続ける。鬼源は次に文之助の背後に回り、下帯一枚の引き締まった尻を青竹で打つ。
「う、ううっ」
 下劣な女郎屋の調教師に尻を打たれる汚辱を必死で耐える文之助。お小夜は弟のそんな悲痛な姿を見かねて、「や、やめて下さいっ。もう打たないでっ」と悲鳴のような声を上げる。
「ケツをひっぱたかれるのが嫌なら、言われたとおり身体をこすり合わせながら口を吸い合うんだ」
 お小夜は涙を堪えながら、鬼源に命ぜられるまま文之助の裸の上半身に、柔らかい乳房を押しつけ、同時に熱い接吻を施し始めるのだった。
「お、お小夜の尻を打つなどなんと羨ましい、いや、なんと不埒な男だ」
 土蔵の中を覗いていた津村が苛立った声を上げる。
「旦那はいったい、お小夜に惚れているんですか。それともお小夜が憎いんですか」
 お桂の問いに津村は「惚れているが、憎くもあるのだ」と答える。
「いったいどっちなんですか」
「惚れているから自分のものにしたい。しかし、自分のものにならないお小夜が憎いと言うことだ」
「それじゃあ、もし旦那がお小夜を自分のものにしたら、憎くなくなるってことですか」「さあ、それはどうかな」
 津村は首をひねる。
「お小夜が自分のものになったとしても、俺はお小夜を普通の男のようには可愛がったりはしないだろう。俺にとって女に惚れるという気持ちと、女を憎むという気持ちはそれほど差がないことなのかもしれん」