吉沢と井上は慌てて春太郎と夏次郎に手を貸す。春太郎と夏次郎もまた不穏な動きを感じていたのか表情から笑いを消して、吉沢と井上と力を合わせて美紀夫人と絹代夫人を力一杯引き上げる。
 ようやく二人の美夫人が舞台上に引き上げられたが、美紀夫人も絹代夫人も褌を脱がされ素っ裸になっている。
「褌を脱ぐ手間が省けたわね」
 春太郎はそう言って夏次郎と顔を見合わせると、同時に肩を竦める。男たちによって危うくその身体を引き裂かれそうになった美紀夫人と絹代夫人は舞台の上にぺたんと尻餅をつき、青白い顔でハア、ハアと喘ぎあっているのだ。
 春太郎と夏次郎は小道具の一つである赤い夜具を引っ張り出してくると美紀夫人と絹代夫人の隣辺り、舞台の前方に敷くと二人の夫人の尻の辺りを軽く蹴る。
 放心状態にあった美紀夫人と絹代夫人がはっとして春太郎を見上げる。
「何をぼおっとしているのよ。さっさと始めるのよ」
「な、何を……」
 美紀夫人がそう口走ると春太郎は「惚けるような歳じゃないでしょ。二人でレズりながらお互いの身体を慰めるのよ」と言い放つ。
「さ、お道具も用意してあげたわよ」
 夏次郎が布団の横に敷いた赤い布の上に張り型、筒具といった淫具を並べていく。それを目にした美紀夫人と絹代夫人はさっと頬を赤らめ、顔を背け合う。
「いい歳をして何を照れているのよ」
 春太郎はそう言うと美紀夫人の髪を引っ張る。
「い、痛いっ」
「早くしなきゃ小夜子を観客席に放り込むわよ。それでもいいの」
 夏次郎もまた絹代夫人の背中を蹴り上げ、「あんたも愚図愚図しているのなら美沙江をこの場に引きずり出して来るわよ。愛する娘が狼どもの餌食になるのを見たいっていうの」と怒鳴りつける。
「や、やめて……それだけは」
 絹代は悲鳴のような声を上げると美紀に向かって「美紀様、わ、私、もう覚悟は出来ていますわ。美紀様もお願い……」と嗚咽の混じった声を上げる。
「絹代様……ご、ごめんなさい」
 美紀夫人もまた、たまりかねたようにわっと声を上げて泣き出す。舞台上で哀れに泣き合っている二人の美夫人に、観客たちは陶然とした表情を向けている。
 美紀夫人は絹代夫人のたおやかな肩にそっと手をかけ、その瓜実顔に自らの顔を近づけていく。美紀夫人の形の良い唇が絹代夫人の花びらのような唇に触れた瞬間、二人の美夫人はブルッと裸身を震わせるのだ。
 上流に生まれ育った人妻二人が、下等なやくざやその情婦たちの前で背徳的な同性愛行為を強いられている――そんな情景に嗜虐心を刺激された千代は、ギラギラする眼を美紀夫人と絹代夫人に向けているのだ。
 静子と京子、桂子、小夜子、京子と美津子、京子と小夜子、そして珠江と美沙江など、この田代屋敷に囚われた女奴隷たちは、嗜虐者の気まぐれとも言える発想に振り回され、さまざまな組み合わせで同性愛のプレイを強いられてきた。
 女奴隷たちのうち人妻である静子と珠江、そして元々葉桜団の一員であった桂子以外はすべて処女であり、その性感も未開発の状態だった。
 もちろん全員が同性愛行為も未体験であったが、悪鬼たちによって倒錯の行為を強制されるうちに、京子と小夜子はプレイの相手であった静子夫人に対してまるで異性に対するような思慕の念を抱くに至ったのである。
 同様な感情の発芽は珠江夫人と美沙江の間にも見られた。珠江夫人が自己を犠牲にしてでも美沙江を守ろうとする強烈な感情は、もともと時代劇に登場する腰元が美しい姫に対するような強烈な憧憬の念を感じさせたのだが、実際に二人にレズビアンのプレイを演じさせるとそれは容易に変質的な愛情に転じ始めたのである。
 新たな生け贄である美紀夫人と絹代夫人にも、そのような感情が生まれる日が来るのだろうかと千代は妄想する。
 二人とも夫との関係は淡泊で、年齢の割には性に対して晩稲であるように見受けられるが、二人の娘である小夜子と美沙江がそうであったように、生まれ持った感受性は相当鋭敏なものであることが予想される。それは先ほど他の新入り奴隷たちと演じた鈴縄踊りの際に十分感じさせられたことである。
 美紀夫人と絹代夫人が互いに恋人同士のような関係になり、それに静子や珠江夫人も交えて三つ巴、四つ巴のプレイを演じるようになればどれほど痛快なことだろう。千代はそう考えると嗜虐心で胸が熱くなるのだった。
「そんなに遠慮していちゃ駄目よ。もっと人妻らしい貫禄を発揮して、熱烈に演じるのよ」
 春太郎はそう言いながら、形の良い唇をくなくなと押し付け合っている美紀夫人と絹代夫人の背中を催促するように叩くのだった。
「だいたい女学生同士の接吻じゃないんだから、唇だけくっつけていたって駄目よ。お互いに相手の口の中に舌を入れて吸わせて、唾まで飲み合うのよ」
 夏次郎からそう命じられた絹代夫人は、困惑に頬を赤らめる。夏次郎が要求しているのはいわゆるフレンチキスだが、絹代夫人は夫である千原元康との間でもそのような愛撫の経験がないのだ。
 千原流華道という枠の中で病弱な夫の看病に明け暮れる日々――それがかつての絹代夫人にとっての全世界であった。その絹代夫人が初めて放り出された別世界がこの淫風吹きすさぶ田代屋敷だったのである。
 そしてその田代屋敷に囚われてきてから目撃させられた動物的な行為の数々。絹代夫人よりも遙かに年若の女たちが演じさせられる男女の、そして時に同性同士の濃厚な性行為は、夫人がこれまで想像もしなかったものだった。それに比べれば夫との間で経験した数少ない行為は、子供の遊びのようなものといえた。
 そんな絹代夫人が、衆人環視の前でレズビアンプレイを演じろと言われても、いったいどうしたら良いのか戸惑うばかりであった。
「あんたたち、さっき京子と美津子のプレイを見ていたでしょう。京子も美津子もこの田代屋敷にやって来た頃は処女だったのよ。それがあそこまで演じるようになったの。あんたたちも二人を見習いなさいよ」
 春太郎が急き立てるようにそう言われた二人の美夫人はいったん唇を離すと互いを見つめ合う。
「絹代様……お願い、私がすることの真似をして」
 美紀夫人はそう絹代夫人に告げるとそっと目を閉じ、改めて自らの唇を絹代のそれにそっと押し付ける。
(あっ……)
 美紀夫人の柔らかな唇の感触に、絹代夫人はまるで麻酔にかけられたかのようにブルッと身体を震わせる。その瞬間、美紀夫人の滑らかな舌が絹代夫人の唇の間を割って、口中に侵入する。
「あ、あ、美紀様……」
「絹代様、私に任せて」
 美紀夫人は絹代夫人を宥めるようにそう声をかけると、舌先を巧みに動かして絹代夫人の舌を絡め取ろうとする。躊躇う絹代夫人の舌とそれを追う美紀夫人の舌が、狭い口中でもつれ合う。
 やがて絹代夫人は諦めたようにその舌を美紀夫人に任せる。美紀夫人は絹代夫人の舌を自らの口中に引き込み、ぐっと吸い上げる。
「う、うっ……」
 舌先から魂が吸い取られるような感覚に、絹代夫人が脅えたような声を上げる。美紀夫人は絹代夫人を落ち着かせようとするかのように、その豊満な乳房を絹代夫人の形の良い乳房にそっと押し付けるのだった。