「そんなものかしら」
 町子は首を捻る。
「町子さんでしたっけ。仰るようなことはこっちも考えました」
 銀子が口を挟む。
「あたしだって無闇に誘拐している訳じゃありませんわ。でも、この山崎探偵をこのまま放置する危険より、こうやって捕らえてしまう危険の方がより少ない。今回はそう判断した上でのことなのです」
 そう言うと銀子はつかつかと山崎に近寄り、顎に手をかけてぐいと顔を持ち上げる。
「遠山の爺は死にかけているし千原流の家元は半病人。京子と美津子の姉妹には探す親もいない。村瀬宝石店も家族を全員人質に押さえたので手も足も出ない。後は山崎さえいなければ、当面あたしたちに楯突こうする人間はいませんからね」
「折原博士や、村瀬小夜子の婚約者はどうなの」
「あの二人にそんな根性はありませんよ。二人とも腑抜けのようになって、酒に溺れているみたいです」
 まあ、余計なことをするようならこの山崎同様、誘拐してこの屋敷で飼うだけですけどね、と銀子が言うと、葉桜団の女たちは声を揃えて笑い出す。
「そんなことより、その二人に何かさせてみてよ。裸のまま突っ立っているだけなんて芸がないわよ」
 赤い顔をした千代がそう注文すると、葉子が「そうそう、せっかくだからそのハンサムな名探偵さんが、逞しくなったところを見たいわ」と同意の声を上げる。
「それじゃあ早速、ご期待にお応えしまして」
 義子がニヤリと笑うとマリに目配せする。
 マリもまた淫靡な笑みを口元に浮かべながら文夫に近づき、堅く施されたピンク色の猿轡を外していく。
 ようやく口が自由になった文夫は軽く咳き込む。マリはそんな文夫の背中をどやしつけるようにすると、「さあ、お兄様に尺八を吹いてあげるのよ」と命じる。
 マリのその言葉を聞いた女たちは「わあ」という声を上げる。
「その美少年に探偵さんのおチンチンをしゃぶらせようというの」
 目を丸くして尋ねる和枝にマリは「その通りです」と答える。
「さ、とっとと始めるんや。男のものをしゃぶるのは何も初めてやないやろ」
 義子にも急き立てられ、文夫は悲痛に顔を歪める。
 義子に指摘されたとおり、文夫はこの屋敷に誘拐されて以来、美津子や桂子、そして京子とのコンビを組まされるだけでなく、春太郎と夏次郎、そして津村義雄といった男たちからホモセクシュアルの調教を受けてきたのである。
 元々まったく同性愛に興味のない、いわゆる「ノンケ」だった文夫にとって男色行為を強いられるのは、当初は汚辱以外の何ものでもなかった。しかしながらシスターボーイ二人に義雄というその道のベテランから徹底的に調教されるうちに、次第次第にその倒錯的な悦びを知覚するに至ったのである。
 だからといって女たちの好奇に満ちた視線の前で、京子の恋人である山崎に対して、口唇の愛撫を強いられるのは文夫にとっては耐え難いものであった。
「とっとと始めないと夜の部のショーに変更が加わることになるわよ」
 銀子が文夫に向かって叱咤するように言う。
「さっきまでのあんたと小夜子のショーを見たお客が、夜は是非二人に絡ませろってうるさいのよ」
 銀子のその言葉を聞いた文夫の顔がさっと青ざめる。
「さっき言ったとおり、元々あたしたち葉桜団はあんたたち姉弟には何の恨みもないのよ。それどころか朱美なんか、あんたのお姉さんのことが可愛くて仕方がないし、義子もマリもあんたの大ファンなのよ。だけど森田組の中には、京子や美津子、それに珠江夫人たちに比べてあんたたちへの調教が手ぬるいって声もあるのよ」
「あんたたちのお母様が手に入ったのをきっかけに、母子三人でショーのトリオを組ませろって声まであるわ。それをあたしや朱美が一生懸命抑えているのよ。ここで素直な態度を示さないと、あたしたちの努力にも限度があるってものよ」
 文夫の悲痛な表情にゆっくりと諦めの色が広がっていく。それを確認した朱美は「さ、分かったら始めなさい」と文夫の肩を叩く。文夫はコクリと頷くと床に膝をつき、ゆっくりと山崎の方にじり寄る。
 山崎の足元に跪いた文夫は涙に濡れた瞳を山崎に向ける。文夫と視線を合わせた山崎は動揺して顔を逸らせる。
「あら、どうして顔を逸らせるのよ」
 朱美が山崎の尻を軽く叩く。
「文夫さんがこれから愛してくれるというのよ。そんな態度は失礼じゃない」
 朱美は両手で山崎の顔を押さえつけるようにすると、さ、ちゃんと文夫さんの方を向くのよと無理矢理下を向かせる。山崎と再び視線を合わせた文夫は、震える唇を開く。
「お、お兄様……」
 そんな風に文夫が山崎に呼びかけると、野卑な女たちはどっとどよめきの声を上げる。
「ホモの恋人同士ってそんな風に呼び合うのね。なかなか勉強になるわ」
 葉子が感心したように頷いている。
 そんなからかいの言葉を浴びながら、文夫は強いられた屈辱の言葉を続ける。
「お兄様、ふ、文夫にお兄様を愛させて下さい」
 文夫はそう言うとゆっくりと唇を、山崎の肉棒の先端に寄せる。文夫の唇がそれに触れた瞬間山崎の下半身は電流に触れたようにビクッと震え、それを見た女たちは再び歓声を上げる。
「とうとう始めたわ」
 千代が身を乗り出すようにしてそう言うと、和枝が
「やっぱり男同士でも、あんな風にされると感じるものかしら」
 と感心したように頷いている。
「相手があんな美少年なんだもの。下手な女に愛されるよりはずっといいんじゃないの」 順子のその言葉に葉子が
「何だかもったいないわ。あたしが代わってあげたいわ」
 と溜息を吐くように言い、女たちを笑わせる。
 そんなからかいの言葉を浴びながら、文夫は山崎の亀頭を口の中に含み、柔らかな愛撫を注ぎ込む。
 その道のプロである春太郎と夏次郎のシスターボーイ二人に徹底的に仕込まれたせいか、文夫の技巧は山崎の想像を遙かに超えるもので、その甘い舌先の感触に山崎のその部分はたちまち熱を帯び始める。そんな山崎の変化をめざとく見つけた葉子が「あら、大きくなってきたわ」と頓狂な声を上げる。
「男同士でもあんな風にされると気持ちが良いものなのね」
「当たり前じゃない」
 葉子と和枝はそんなことを言い合っている。
 山崎は懸命に醜態を晒すまいと、猿轡を噛まされた顔を左右に振る。しかしながら文夫はさらに激しく舌全体から喉の奥まで使って、硬化し始めたそれに激しい愛撫を注ぎ込んでいるのだ。
「うっ、ううっ……」
 山崎の喉の奥から苦しげな呻き声が漏れる。文夫はそんな山崎の苦悶の表情にチラ、チラと視線を送りながらも、熱の籠もった口唇の愛撫を続けている。
 文夫がいったん山崎のそれから口を離す。完全な勃起を示している山崎の肉棒はバネ仕掛けのように跳ね上がり、その滑稽さが女たちの哄笑を誘う。
 文夫はもはやそんな女たちのからかいの声も耳に入らないかのように、うっとりとした表情で山崎のそれに頬ずりをすると、ぐっと舌先を伸ばして本格的な愛撫を再開するのだった。