「ところでさっきの奴隷の数だけど、悦子は数に入れないで良いの」
「ああ」
 銀子は「忘れていたわ」と笑う。
「確かにヤキを入れるために奴隷に落としたけど、悦子じゃちょっと売り物にならないわね。他の女たちと比べると月とスッポンだわ」
「悦子って誰なの」
 町子が尋ねると銀子と朱美はしばらく顔を見合わせていたが、やがて銀子が「お恥ずかしい話なんだけど」と口を開く。
「あたしたち葉桜団の仲間だったんだけど、裏切って奴隷を逃がそうとしたのよ」
「まあ、それは大変だったわね」
「そうなのよ」
「でも、どうして逃がそうとしたの」
「静子夫人に同情しちゃったみたいなのよ」
 銀子がそう言うと、朱美が「それで静子夫人の亭主が危篤になったとき、逃がして会わせようとしたのよ」と付け加える。
「で、どうなったの」
「もちろん失敗したわよ。成功していたら今頃あたしたち、全員豚箱暮らしよ」
 銀子は肩を竦めながらそう言うとポケットから煙草を取り出し、一本取って火を点ける。
「町子さんもどう」
「いただくわ」
 町子も銀子から煙草を受け取り、口に咥える。銀子が器用に煙草の煙で輪を作る。
「上手ね」
「あたしなんか、静子夫人の足元にも及ばないわ。静子夫人は口じゃなくて、あそこで煙草を咥えて煙で輪を作ることが出来るのよ」
「本当なの」
 町子は驚きに目を丸くする。
「本当よ。妊娠しちゃったから今はやらせてないけれど。まったく美人でスタイルも抜群、気立ても良いだけじゃなくて、お道具も最高なんて女がこの世にいるなんて。どこを取ってもかなわないわ」
 銀子はそう言って再び肩を竦める。
「うちの雪路や雅子にもやらせてみようかしら」
「そうしなさいよ、花電車の芸は客受けするわよ。特に温泉旅館にはぴったりよ」
 銀子が町子に勧める。
「ところでその悦子って娘のことだけど、その時静子夫人の誘拐を手引きしたから奴隷に落としたの」
「いえ、その時は未遂に終わったし、静子夫人も悦子をかばったから見逃したのよ。それなのに悦子はこの前、久美子が身分を偽ってこの屋敷に潜入したとき奴らに協力したのよ。さすがに二回目は見逃すわけには行かないわ」
「もっともあの時はこちらも久美子の正体は掴んでいて、悦子が協力するのも見越して逆に利用したんだけどね」
 朱美が微笑しながら付け加える。
「それにしても町子さんは悦子のことを随分気にするわね」
「実は、あたしたちのところにも同じようなのがいるのよ。旅館の女中として使っている娘なんだけど、妙に奴隷たちに同情的なのよ」
「それは気をつけた方が良いわね」
 銀子が釘を刺すように言う。
「女が女に惚れるってこともあるからね」
 朱美がそう言うと銀子が「朱美も小夜子に惚れているからね」と混ぜっ返す。
「あら、だからといってあたしは小夜子を逃がしたりなんかしないわよ」
「そんなことはわかっているわよ」
 銀子と朱美はそんな痴話喧嘩めいた会話を交わしている。
「ところでその悦子って娘はずっとそのままにしておくの」
 町子が銀子に尋ねる。
「うーん」
 銀子が考え込んでいると朱美が「適当にヤキを入れたら元に戻した方がいいんじゃない」と言う。
「何よ、朱美は許してあげた方が良いって言うの。あいつはあたしたちを裏切ったのよ。裏切り者に同情は無用よ」
「同情している訳じゃないけど、銀子も悦子じゃ売り物にならないっていったじゃない。奴隷がこんなに増えると調教も大変よ。新入りの直江や友子は当てにならないし、悦子は何と言っても昔からの仲間よ」
「ヤキを入れるって言ってもねえ」
 銀子は首を捻る。
「あいつはあれで強情だから、ちょっとやそっとのお仕置きじゃ音を上げないよ。それに今は忙しくて悦子に関わっている時間もないしね。それに、元に戻してまた静子夫人を逃がそうとでもしたら、あたしたちもただじゃすまないよ」
「良い方法があるわよ」
 銀子と朱美の会話に耳を傾けていた町子が口を挟む。
「良い方法って?」
「悦子って娘は、静子夫人に同情していると言うよりは惚れているんでしょう」
「うーん、どうかねえ。惚れているって言えば言えるけど」
 銀子は考え込む。
「そうだとしても純愛の段階だろうね」
「純愛って?」
「静子夫人のためなら自分が犠牲になっても良いって考えだよ」
「それならその純愛を、肉の愛に変えちゃえばいいじゃない。その悦子って娘と静子夫人に契りを結ばせるのよ。そんな関係になったら悦子だって裏切ろうとは思わなくなるわよ」
「どうして?」
 朱美が尋ねる。
「だって、もともと静子夫人と悦子は住む世界が全然違うのよ。悦子が静子夫人を自分のものに出来るのは、この田代屋敷の中だけよ」
「あ、そうか」
 銀子が納得したように頷く。
 町子はニヤリと笑うと「静子夫人は今どうしているの」と尋ねる。
「さっき舞台で挨拶させてからは地下で休ませているけど。普段は美紀夫人や絹代夫人のお稽古を付けさせているんだけど、その二人も今はあの通り忙しいからね」
 銀子はそう言って、部屋の中央で男たちのなぶり者になっている二人の美夫人の方をちらと見る。
 男たちはまるで獲物に群がる肉食獣のように、美紀夫人と絹代夫人の裸身にとりつきながら二人の乳房と言わず尻と言わず撫でまくっている。
「あ、あ、そ、そこは駄目です」
「ああ、い、いや、おやめになって」
 二人の美しい人妻は舌足らずの悲鳴を上げながら、男たちの手を避けようと懸命に裸身を捩らせているが、堅く縛り上げられた身ではそれも空しい努力に過ぎない。むしろ男たちの獣欲をより昂ぶらせることとなるばかりなのだ。
「静子夫人にご執心の千代夫人も、岩崎親分のお妾さんたちと一緒にホモショーの見物に忙しいし」
「要するに、身体は空いているってことね。それなら善は急げっていうじゃない」
「なるほど、それは面白そうね」
 銀子と朱美は顔を見合わせてニヤリと笑い合うのだ。