306.母と息子(1)

「あー、面白かった」
「あんな凄いショーを見たのは初めてだわ」
 岩崎の妾二人、葉子と和枝は満足げに語り合いながら、大広間を出て廊下を歩いている。
「それはそうと、随分遅くなっちゃったけど、町子さんはどうするの」
 少し後から二人に続いている町子を、葉子が振り返って声をかける。
「今から伊豆に帰るのも大変だから、今晩はこのお屋敷に泊めてもらうわ」
「岡田さんんと一緒に?」
 和枝が尋ねると町子は「そうだけど」と首を傾げる。
「あの人は熊沢さんたちと商売の話があるみたいで、部屋で話し込んでいるわ」
「へえ、商売熱心ね」
「どこまで本当なんだか。コンパニオン代わりにさっきショーにも出ていた桂子って娘がついているっていうから」
「なるほど」
 葉子と和枝は顔を見合わせて笑い合う。
「あんなショーを見せられた後に一人寝っていうのも寂しいわね」
 葉子がそう言うと和枝が「それはあたしたちも同じだけどね」と苦笑する。
「岩崎親分はどうするの」
「あの人は静子夫人に夢中よ」と葉子。
「でも、静子夫人は妊娠しているんでしょう。親分のお相手は出来ないと思うけど」
「ここにいる女たちならたとえあそこを使わなくたって、男を楽しませる方法をいくつでも知っているわよ」と葉子。
「そうそう、生理の時でも客の相手を出来るようにってことらしいわ」
 和枝のその言葉を聞いた町子は、田代屋敷の女たちの過酷な運命に同情の念まで抱くのだ。
「あーあ、なんだか身体が火照ってしょうがないわ。このままじゃ不眠症になっちゃうわ」
 和枝がそうぼやくと、葉子が「そう言えば、和枝は今夜、文夫を自由に出来るんじゃなかったの?」と尋ねる。
「そうなんだけど……最後のショーに夢中になっているうちにどこかに連れて行かれちゃったし」
「言えば良かったのに。文夫は今夜、あたしが予約済みなのよって」
「そ、そんな図々しいこと言えないわ」
「どうしたの、顔を赤くしちゃって」
「赤くなんかしていないわよ」
 和枝と葉子がそんなことを言い合っていると、廊下の角を曲がって春太郎と夏次郎の、二人にシスターボーイが現れる。
「あら、奥様方」
「もうお休みですか」
 声をかける二人に葉子が「そうなんだけど、このままじゃなかなか寝られないって、三人でぼやいていた所よ」
「森田組のショーは女のあたしたちが見ても凄く面白いんだけど、その後のお楽しみがどうしても殿方向きよね」
 春太郎は夏次郎は顔を見合わせ、頷くと
「よければ、あたしたちの調教を見学します?」
「調教って、誰を調教するの?」
「文夫と、その母親の美紀ですよ」
「まあ、文夫を?」
 和枝が目を輝かせる。
「それで、なんの調教をするの?」
「お尻の穴の拡張ですよ。そろそろ文夫にも客を取ってもらわないといえませんからね」
「南原親分が、ぜひ文夫を味見したいと言っているんですが、親分のあれは馬並みでおまけに真珠入りと来てますから、あらかじめ広げておかないと大出血ってことになりかねません」
「ちょっと待って、文夫は和枝が先に予約していたのよ」
「おや、そうなんですか?」
「あ、あたしは良いわよ」
 和枝が慌てて口はを挟むが、葉子は
「良くないわよ、和枝は文夫の母親から直接許可をもらったんだから」
 と譲らない。
「困ったわね。文夫の身体は一つだし」
 春太郎と夏次郎はそう言って顔を見合わせる。
「和枝さん、今夜のところは南原親分の顔を立てて、あたしたちは文夫の調教の見学をさせてもらうことにしない?」
 町子が助け船を出す。
「そうしてもらえると助かりますわ。なんなら、手が足りないので文夫の調教を手伝ってくれませんか」
 そう言うと、和枝は「あたしが文夫さんを責めることが出来るの」と表情を輝かせる。
「ちょっと待って。二人もいるのに手が足りないの?」
 葉子が尋ねる。
「母親の美紀も一緒に調教をつけなければならないんですよ」
「息子の痛みは母親にも感じてもらわないといけませんからね」
 春太郎と夏次郎はさも楽しげにクスクス笑うのだ。
「まあ、母親と一緒に文夫を調教するの。それはますます楽しみだわ」
「ほんと、和枝は文夫には目がないのね」
 葉子が苦笑する。
「そんなこと言って、葉子は見たくないの?」
「見たいわよ。山崎探偵の調教ならもっと良いんだけど、ぜいたくは言えないわ」
「山崎探偵なら、銀子さんたちの担当ですよ」
「そうそう、久美子との関係を兄妹から、仲の良い夫婦にするために、徹底して調教するって聞いていますわ」
「そっちもぜひ見てみたいわ」
 今度は葉子が目を輝かせる。
「徹夜で鍛えるって言ってましたから、文夫たちを見学した後で十分間に合うと思いますよ」
「こりゃ、寝てる暇なんてなくなったわね」
 和枝と葉子が笑い合う。
「町子さんはどうする」
「もちろんつきあうわ」
「それじゃ、行きましょう」
 春太郎と夏次郎は三人の悪女を先導して歩き始めるのだ。

「ここですよ」
 二人のシスターボーイに先導された女たちは屋敷の二階の廊下の突き当たり、女中部屋にたどり着く。
「ここは本来、あたしたち二人と京子の愛の巣なんですけど」
「京子って、あの山崎探偵の助手の?」
 と町子。
「そうですよ。今は妹の美津子と一緒に、津村さんの弟さんたちの接待に出ていますけど」
 まあ、狭いですが入って下さいと、春太郎は三人の女を招き入れる。

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