「絹代夫人と美沙江嬢の断髪式は時造さんに行ってもらうつもりだったんだけど、時造さんは自分は手先が器用じゃないから断髪そのものはあたしたちに頼みたいって」
 順子がにやにや笑いながら説明する。
「それと、折角断髪式をやるのなら他のお客さんも呼んで賑やかにやろうって。この後の予定もあることだし」
「この後の予定って何ですか」
 岡田が尋ねると順子は「時造さんと美沙江嬢の結婚式よ」と言って、さも楽しげに声を上げて笑うのだ。
 同時に、床柱に縛り付けられた絹代夫人がわっと声を上げて泣き出す。すると、それに釣られたように隣の美沙江も、声を殺してすすり泣き始めるのだ。
「あらあら、奥様。どうしたの。可愛い娘の門出に涙はよろしくないわよ」
 順子は絹代に寄り添うようにしながらポケットからハンカチを出し、絹代の涙を拭うのだ。
「もちろん正式の結婚式は、岩崎親分や田代社長をお呼びして、盛大にやることになると思うんだけど、とりあえずはお母様の絹代さんの前で、美沙江お嬢さんに誓いの言葉を述べてもらおうと思ったのよ。それには見届け人ができるだけ沢山いてくれた方がいいと思ってね」
「岩崎組の組長の弟さんが、千原流華道の家元令嬢を嫁さんにしようっていうんですか」
 関口は驚いて目を丸くする。
「可笑しいかい」
 関口はギロリとした目を関口に向ける。
「いや、別に可笑しいってわけじゃありませんよ。目出度いことで」
 関口は慌てて否定する。
「まったくだ」
 岡田は頷くと、改めて床柱に固定されている美しい母娘の方を見る。
 絹代はシクシクと声を殺して泣いており、美沙江もまた絹代に釣られるようにさめざめと泣き出しているのだ。
「泣くのはやめなって言っているやろ。辛気くさいな」
 直江が声を荒げると絹代夫人の頬をピシャリと平手打ちする。絹代夫人は驚きに目を見開き、直江を見つめる。
「なんや、その顔。何か文句あるんかいな」
 直江は顔を突き出すようにする。
「もうあたしたちはあんたの女中やないんやで。昔とは立場が逆になったことを思い知らせたろか」
 そう言ってすごむ直江を順子は「おやめ、直江」とたしなめる。
「お客さんの前だよ。それと、いつまでもそんなズベ公みたいな口のきき方はやめなさい。湖月流華道の品格が疑われるわよ」
 直江は「すみません、先生」と言って肩をすくめる。
「それよりもそろそろ、奥様とお嬢様のお湯文字を外してあげなさい。皆さん、千原流華道の家元夫人と令嬢のそこの所の生え具合はどんなものなのか、興味津々だと思うわ」
「分かりました」
 直江と友子は目配せを交わし合い、そえぞれ絹代と美沙江の前に身を屈める。
「それじゃ、お解きしますわ。奥様」
 直江はニヤリと淫靡な笑みを浮かべると、絹代の腰巻きの紐に手をかけ、ゆっくりと解き始める。
「あ……」
 絹代は小さな悲鳴を上げ、腰を捻るようにするが、あっという間に紐を解かれて支えを失った腰巻きは、絹代の滑らかな太腿をするすると滑り、畳の上に落ちる。
「嫌……」
 友子の手で腰巻きを脱がされた美沙江もまた、露わになったその部分を必死で隠そうとするかのように腰を左右に捩らせる。
「さあ、これで母娘そろって仲良く素っ裸よ」
 順子は怪鳥のようなけたたましい声を上げて笑い出す。
 艶やかな烏の濡れ羽色をした絹代夫人と美沙江のその部分は、いかにも華道の家元夫人とその令嬢らしく、白い肌の谷間に春の若草のように慎ましく萌えている。まるで相似形のような二人だったが、そこだけは絹代夫人のものの方が密に茂っており、母親としての貫禄を示しているようで見るものに可笑しささえ感じさせるのだった。
「母娘そろって見事な生えっぷりね。このまま剃ってしまうのがもったいないくらいだわ」
 順子は絹代と美沙江のその部分を見比べるようにしながら笑う。
「友子、折角だから奥様とお嬢様の晴れ姿を撮影してあげて」
「はい、先生」
 友子が頷き、鞄から一眼レフのカメラを取り出すと、絹代夫人の顔がさっと青ざめる。
「あ、あなたたち、私や美沙江のこんな姿を写真に撮ろうというのですか」
「そうよ。なんか文句ある?」
 友子は悲鳴のような絹代夫人の声をさも煩げに聞きながら、夫人と美沙江の前に三脚を据え付けていく。
「心配しなくてもあたしたち、森田組の井上さんたちからカメラの使い方をよおく教わったから、十分売り物になる写真を撮ってあげるわ」
「売り物って……どういうことですか」
「今さら何を言っているの。森田組はポルノ映画や秘密写真を生業にしているのよ。奥様やお嬢様をモデルにしたヌード写真のこと決まっているじゃない」
 直江の言葉を聞いた絹代夫人の顔はさっと青ざめ、いまにも卒倒しそうな表情になる。
「あらあら、奥様がそんなに驚くとは思わなかったわ」
 順子がそう言うと、直江と友子は声を揃えて笑う。
「お嬢様や珠江夫人をモデルにしたヌード写真はとっくに世の中に出回っているのよ。これに、新たに奥様という新人のヌードモデルが加わるだけの話よ」
「美沙江や珠江様のそんなものが……」
 絹代夫人は今にも気を失いそうになるのを懸命にこらえている。
「そうよ。お嬢様や珠江夫人の仕事は今や、お花を生けることじゃないのよ。女の桃の花や菊の花を写真に撮ってもらうことよ」
 流石はお師匠。上手いことを言うわねと直江と友子が笑い合う。
「綺麗に剃り取られて、母娘揃って赤ちゃんみたいな身体になったら改めて撮ってあげることにして、取り敢えず今の自然のままのヌードを記録しておあげ」
 順子の命令に友子と直江は「分かりました」と頷く。直江が小型のライトを電灯線につなぎ、二人の裸身を照らすと、友子がカメラを構えて美しい母娘にレンズを向ける。
「ちょっと、そんな情けない顔をしないでよ。もっと笑って」
 今にも泣き出しそうな顔をしている絹代夫人と美沙江に、友子が声をかける。
「友子の言うとおりよ。そんな仏頂面じゃ美人が台無しだわ。ほら、笑って、はい、チーズ」
 順子が声をかけると、見物人の男たちはどっと声を上げて笑う。
「ほらほら、早く笑わないと、二人並べて浣腸責めにかけるわよ」
 順子の声に、美沙江は「お、お母様、大塚先生の言うとおりにしましょう」と声をかける。
「だ、だって、美沙江」
「もう私たち、どうしようもないのよ。さ、笑いましょう。お母様」