そういうと美沙江は泣き笑いのようなぎこちない笑みを浮かべる。
「何しているのよ、奥様。笑いなさい」
 順子にせき立てられた絹代はひきつった笑顔を浮かべる。その瞬間、友子がシャッターを切り、パシャッという無情な音と同時に、ストロボの光が母娘の肌を照らす。
「千原流家元夫人と令嬢の、素敵な記念写真の出来上がりよ」
 順子がケラケラと勝ち誇ったような声を上げる。
「現像が出来次第、後援会の主だったメンバーには洩れなく送ってあげるから、楽しみにしているのね。家元令嬢や後援会長だけじゃなく、家元夫人の破廉恥な写真が出回った日には、千原流は間違いなくおしまいだわ」
 順子のそんな言葉に、絹代夫人はたまらず肩を震わせて嗚咽し始めるのだ。
「泣くなって言っているでしょう。あんた、あたしたちを舐めているの」
 直江が絹代夫人に詰め寄る。
「まあまあ、およしよ。直江」
 順子はニヤニヤ笑いながら直江をたしなめる。
「奥様は、新しい人生を踏み出すことに感極まって泣いておられるのよ。泣きやむまでに、奥様とお嬢様の大事なところを写しておきましょう」
「分かりました、先生」
 直江はニヤリと笑うと、絹代夫人の足下にしゃがみ込むようにする。
「な、何を……」
 戸惑う絹代夫人に構わず、直江は夫人の背後から前方に手を回し、秘唇に手をかけると、ぐっと割り開くようにする。
「ああっ」
 あまりのことに絹代夫人はつんざくような悲鳴を上げ、直江の手を避けようと腰を揺さぶる。
「こら、良いところの奥様がそんなにお尻を振るなんて、はしたないわよ」
 順子は絹代夫人に近寄ると、その形の良い尻をパシッと平手打ちする。
「だ、だって……こんなこと……あ、あんまりです」
「何があんまりだい。さっきあたしがちゃんと言い聞かせただろう。あんたの仕事は自分の桃の花や菊の花の写真を撮ってもらうことだって」
 順子はそう言うと夫人の背後に回り、両手で腰部を押さえつけるようにする。
「さ、友子、撮るんだよ」
「はい、先生」
 友子は頷くと、直江の手で極端なまでに割り開かれた絹代夫人のその部分に向けてシャッターを切る。
「ああっ」
 その瞬間、そこにナイフを突き立てられたような錯覚に陥った夫人は、傷ついた獣のような呻き声を上げる。友子は構わず、連続的にシャッターを切り、絹代夫人の秘められた箇所を確実に記録していく。
 絹代夫人の抵抗がやんだのを確認した順子は、前に回って夫人のその部分をのぞき込むようにする。
「年齢の割に綺麗なお道具をしているじゃないか。今まであまり使い込んでこなかったんだね」
 これならまだまだ立派に売り物になるわよ、と言ってケラケラ笑うと、順子は夫人の尻を再びひっぱたくのだ。
「さ、次はお嬢様の番よ」
 順子はそう言うと美沙江に目を向ける。
 美沙江はもはや覚悟しているのか、二人の女中によって女の羞恥の箇所を撮影されるという屈辱にも、さほどの抵抗は示さない。直江と友子の揶揄の言葉に恥ずかしげに頬を染めながら、その部分をカメラに収められていくのだ。
「お嬢様はすっかり素直になったわね。これも調教の成果かしら」
 順子は満足そうに頷く。
「そこの奥様も、お嬢様の態度を見習うのよ。若さじゃ他の女には勝てないんだから、せめて愛嬌がないと殿方に可愛がってもらえないわよ」
 順子はそう言うとさもおかしそうに声を上げて笑うのだった。
「それじゃ花婿さんもお待ちかねだから、そろそろ剃り上げるわよ」
 順子は小さな花鋏を取り上げると、時造の方を向く。
「時造さん。最初の鋏入れをお願いするわ」
 順子に声をかけられた時造は、照れ笑いしながら立ち上がる。まるで関取の断髪式のように、絹代と美沙江の断髪式を、時造の鋏から開始させようというのだ。
 時造は美沙江の足下に胡座をかくと、その若草のような淡い繊毛を指先で摘み上げる。
「それじゃお嬢さん、いくぜ」
 時造にそう声をかけられた美沙江はさも恥ずかしげにこくりと頷く。順子は美沙江のその仕草から、野卑なやくざものである時造に対する美沙江の感情が、必ずしも嫌悪感だけとはいえなくなっていることを察知する。
 操を奪った憎い男である反面、この田代屋敷に連れ込まれたときは男女の性愛についてまったくの無知であった自分に、女としての悦びを与えた時造に対して、どこか媚びのようなものを美沙江が示していることに、順子は何ともいえぬ痛快さを覚えるのだ。
 時造が鋏を鳴らし、はらりと落ちる繊毛を友子が受け止める。次に時造は絹代の前に座り込み、その艶やかな繊毛をつまみ上げる。
「ちょっと待って、時造さん」
 順子は鋏で絹代の繊毛を切断しようとしている時造に声をかけると、覚悟を決めたように目を閉じている絹代に近づく。
「断髪式の前に、奥様に誓って欲しいことがあるのよ」
 ニヤニヤしながら顔を寄せる順子に激しい嫌悪を覚えながら、絹代夫人は
「い、いったい私に何を誓えというのですか」
「あらあら、怖い顔ね。女には愛嬌が大事と言ったでしょう。隣のお嬢様を見習ったらどうなの」
 順子は指先で絹代の額を軽くつつく。
「簡単なことよ。奥様には時造さんの二号になっていただきたいのよ」
 順子の言葉に衝撃を受けた絹代の顔は怖いほど青ざめる。
「ど、どういうことですか。意味が分かりません」
「深窓の令夫人は二号の意味が分からないの。妾よ。奥様に時造さんの妾になって欲しいのよ」
「ば、馬鹿な。そんなことが出来るわけないじゃないですか」
「出来るわよ。岩崎親分だって和枝さん葉子さんと、二人も妾を持っているのよ。弟の時造さんが一人くらい抱えてもちっともおかしくないわよ」
「そ、そんなことを言っているのじゃありません」
 絹代夫人は涙声でそう言うと、激しく首を振る。
「私は結婚しているのです。お、夫がいるのに妾なんて」
「あら、奥様はまだご主人に合わせる顔があると思っているの?」
 順子はふんと鼻を鳴らす。
「さっき言ったとおり、奥様のヌード写真やあそこのクローズアップの写真は、現像が出来次第千原流華道の後援会員全員に送られるのよ。そんなとんでもない恥をかきながら、ご主人の所に帰るつもりなの」
 順子がそう言うと、絹代夫人はいきなり頭を殴られたような顔になる。
「で、でも……私と美沙江は親子なんです」
「今更何を言っているの。そんなこと分かっているわよ」
 順子が笑うと、直江と友子が追従するような笑い声をあげる。