「ひょっとして……お店はもう危なくなっているの?」
 小夜子は、自分がモデルとなったとんでもない写真が、すでに青葉学院の同窓生や友人たちに大量にばらまかれていることを知っている。その中には宝石店の客も多いだろう。村瀬宝石店の娘が、いかがわしいポルノ女優に転身したということは、取引先の間ではもはや周知の事実となっているのではないかと考えたのだ。
「心配しないで。今までの貯えもあるから、すぐにどうなるということはないわ」
 美紀夫人はそう言って微笑する。しかしそれは、いずれは危なくなると言うことなのではないか。そんな懸念を口にしようとした途端、小夜子は腰部に甘い疼きを知覚し、うっと呻き声を上げる。
「どうしたの、小夜子」
「な、なんでもないわ」
 小夜子は首を振るが、いったん意識し始めたその箇所の疼きは、たちまち腰部全体に広がり、小夜子を懊悩の頂へと押し上げていく。
 小夜子を気遣うような視線を向けてきた美紀夫人もまた「あっ」という小さな悲鳴を上げて身体をびくっと震わせる。
「お母さん、だ、大丈夫」
「大丈夫よ、あ、あなたは」
「私も、だ、大丈夫よ」
 美紀夫人と小夜子は互いを励まし会うように声を掛け合うが、そんな言葉とは裏腹に、股間に深々と食い込まされた淫らな縄から生じる懊悩は、二人の身体をすっかり痺れさせていく。美しい母娘はこみ上げる官能のうめきを必死で堪えながらも、自然に腰がうごめくのを止められないでいるのだ。
「か、母さん、姉さん、だ、大丈夫」
 美紀夫人と小夜子に挟まれた文夫は気遣うように声をかける。
 しかしながら文夫もまた三人が狭い檻に詰め込まれている上に、母と姉がしきりに身体を蠢かせ始めたことで絶えず肌と肌が触れ合うこととなり、さらに二人が発し出した甘い淫臭と喘ぎ声に煽られ、心ならずも下半身が反応し始めたのだ。
「だ、大丈夫よ。心配しないで」
 そう言って文夫に顔を向けた小夜子の視界に、隆々とそそり立った文夫の逸物が入り、小夜子は思わず「きゃっ」と悲鳴を上げる。
「何を考えているの。か、家族なのよ」
「そんなこと言ったって……し、仕方ないじゃないか。家族だろうが、裸でお尻を振って、そんな声を出されちゃ、男ならこうなっちゃうよ」
「お尻を振ってって……す、好きでそうしている訳じゃないのよ。こ、こっちこそ仕方ないじゃない」
「ふ、二人ともやめなさい。こんなことで姉弟喧嘩なんて」
「お母さんだっていい加減お尻を振るのをやめてよ。文夫さんがこうなったのは、そうやってお母さんが刺激をするからなのよ」
「な、何を言うの。小夜子さん、あなただって」
 そう言ってにらみ合う美紀夫人と小夜子だったが、美紀夫人は急にぷっと吹き出す。
「小夜子さんが言ったことがようやく分かったわ。人間がただの動物になるって、こういうことなのね」
「お母さん……」
「私たちが人間らしい感情を残している限り、悪魔たちはそこにつけ込んで責め立ててくるわ。むしろそんなものは早く捨てて、獣として生きる覚悟を決めなければ、ここでの暮らしは辛いだけだわ」
 美紀夫人がそう言うと、小夜子は黙って何事か考え込む。
「どうしたの、小夜子」
「今、お母さんが言ったのと同じことを、ここに来て間もない頃に静子先生から言われたの」
「静子先生から?」
「そうなの。そして、私自身が文夫さんに、同じようなことを言ったことがあったわ。覚えている? 文夫さん」
「ああ」
 文夫が頷く。
「あのときの静子先生のつらさを分かっていたつもりなのに、やっぱり私は甘かったのね」
「そ、そんなことないわ。小夜子さんは強い、いえ、逞しくなったわ」
「どんな環境でも人は成長するものね」
 小夜子は苦笑するとまた、うっと呻き声を上げて腰を震わせる。
「ああ……本当にこの縄は辛いわ……は、早く一時間が経たないかしら」
「お母さんも辛いわ……ああ、気がおかしくなりそう」
 美貌の母娘のすすり泣くような声がいつまでも地下牢の中に響き、二人の間に挟まれた文夫を悩ませるのだった。

「良かったの、和枝さん」
 廊下を歩く葉子が、隣の和枝に尋ねる。
「良かったって、何が」
 和枝が首をひねって聞き返す。
「何がじゃないわよ。文夫のことよ。あの気持ちの悪い男たちに頼めば、一晩相手をさせることだって出来たんじゃない」
「気持ちの悪い男たちって言い方はないでしょう。あれはシスターボーイよ」
「何でも良いけど、私には理解できない生き物だわ」
 葉子はそう言って首を振る。
「それに別に見た目が気持ち悪いって言っているんじゃないわよ。オカマならまだ分かるの。そう言う人間は昔からいるし。でも、あいつらは男でも女でも見境なしなんだもの。そこが理解できないのよ」
 ね、町子さんはどう思うと葉子は振り返る。
「そうねえ」
 町子は苦笑する。
 というのも、町子自身が一時、レズビアンに耽溺したいたことがありながら、今は岡田の妻同様の立場にある両刀遣いなのである。町子は答えに窮して聞き返す。
「でも、ここの奴隷たちは白黒プレイもやらされれば、同性同士のプレイも演じさせられるわよ」
「女はいいのよ。女は」
「女だけじゃなくて、文夫もよ」
「文夫は綺麗だからいいのよ。あんなみっともないシスターボーイとは一緒にならないわ」
 それではやはり見た目で差別しているのではないかと、町子はおかしくなるのだった。
「それで、和枝さんは文夫のことは良かったの」
 町子が改めて和枝に尋ねると、葉子は
「そうそう、そのことよ。すっかりどっかにいっちゃっていたわ」
「だって……なんだか可哀想じゃない」
「可哀想?」
「ああやって、母親とまでまぐあわされる姿を見ていると、今晩これ以上責め立てるのが気の毒に思っちゃったのよ」
「柄にもなく仏心が湧いたってわけ?」
「そう言うことじゃないけど……なんだか、今夜は親子水入らずにさせてあげたいなと思ったのよ」