田代屋敷の食堂で銀子と義子は遅い朝食を取りながら、昨夜のことを話し合っている。
「友子と直江はどうしている?」
「怪我は大したことはないけど、銀子姐さんの言い付けどおり今日は一日謹慎と言い渡したら、さすがに神妙にしてました」
「あの二人にはちっとはいい薬になるだろう」
銀子はそう言うと義子と笑い合う。
「ところで昨夜はあの久美子って娘を、どこまで送っていったんだい?」
歌舞伎町の店で飲んでから、銀子は悦子とともに迎えにきた森田組のチンピラが運転する車で友子と直江を連れて屋敷に戻り、義子にもう一台の車で久美子を送らせたのである。
「随分遠慮してましたけど、こっちが強引に薦めたら、それなら渋谷駅までってことで」
「駅前で降ろしたのかい? 随分中途半端だね」
「東急に乗れば一本で帰れるからっていってました。ところがちょっと気になったんで久美子を降ろした場所から車を少し動かして、しばらく様子を見ていたんですが、あの女、改めてタクシーを拾い直しましたで」
「タクシーを?」
銀子は眉をしかめる。
「それで、どっちへ行ったんだい?」
「青山通りを六本木の方へ行きました」
「六本木か……」
「後をつけた方が良かったですかね?」
「いや、深追いは禁物だ」
銀子は少し考えて首を振る。
「何か気になることでもありまっか? 銀子姐さん」
「別に何が特に疑わしいって訳じゃないが、京子の時と妙に似てるんだよ」
「ああ、そう言えば……」
義子は頷く。
「あの時は、マリが愚連隊に襲われそうになっているところを偶然京子に助けられたんでしたっけ」
「それが京子が葉桜団に入団し、森田組に潜入するきっかけになったんだ」
銀子は珈琲を飲み終えると煙草を口にくわえる。義子がすがさずライターを取り出し、火を点ける。
「まったくあの時は肝を冷やしたよ」
「確かに、腕っ節が強いところなんかは京子そっくりでんな。でも、これだけ似てるっていうのはかえって偶然の一致という証拠やないでっか」
「うーん」
銀子は考え込む。
「久美子がもし京子と同じように、山崎や他の探偵のイヌだったとしたら、またあの店に現れるはずだ。義子、お前はマスターに連絡して、久美子が店に現れたらすぐに知らせるようにいうんだ」
「わかりました」
義子がそう答えた時、食堂にマリが入ってくる。
「義子、ここにいたのかい。朱美姐さんと私だけで手が足らなくて困っているんだ。手伝っておくれよ」
「いったい何が始まるんや」
「決まってるじゃないか。小夜子と文夫の調教だよ」
「ほい、すっかり忘れてた」
銀子と義子は立ち上がると、調教室に向かう。
「友子と直江を謹慎させているもんだから、調教する側の手が足らなくなったんだね。シスターボーイの二人はどうしているんだい?」
「相変わらず京子の調教です。今日から美津子と本格的なコンビを組ませるそうですよ」
「鬼源は?」
「珠江の調教に入ります。静子夫人の跡を埋めるために花電車なんかを仕込まなきゃいけないってはりきっていましたよ」
「美沙江と桂子はどうしている?」
「友子と直江に担当させて、とりあえずレズビアンプレイでも仕込ませようと思っていたんですが、昨日のことがあったんで……」
「そうか、確かに責め手がそろそろ足らないね。これ以上奴隷が増えたら大変だ」
銀子、義子、マリの3人はようやく調教室に到着する。扉を開けるやいなや、朱美の鋭い声が響いてくる。
「さあ、実際にポルノショーを演じるつもりでやるのよ。要領はわかってるわね」
調教室の中央では全裸の身を堅く縛り上げられた小夜子と文夫が、両肢を開いた人の字型の姿を並べている。
その前には観客役の悦子が座り、深窓に生まれ育った姉弟の惨めな転落の姿に複雑な視線を注いでいる。
朱美に命令された小夜子が唇を震わせながら、教え込まれた屈辱的な口上を述べはじめる。
「み、皆様、ようこそおいでくださいました。私、村瀬小夜子と申します。年令は、22歳。隣におりますのは弟の文夫でございます。年令は18歳」
「もっと大きな声で!」
朱美の怒声が飛ぶ。小夜子は「は、はいっ!」と大きな声で答える。
「私たち姉弟は、四谷のある宝石店を経営する父の庇護の下、贅沢三昧の暮らしを送ってまいりましたが、このたび心境の変化を来たし、森田組の皆様のご支援のにより、姉弟でじ、実演ポルノショーのコンビとして再出発することとなりました」
「私たち姉弟は、今までの生活も、着るものも全てを捨て、また一切の財産も失い、一切れの布さえ許されぬ、せ、性の奴隷でございます」
小夜子がさすがに涙で言葉を詰まらせると、朱美が青竹で小夜子の形の良いヒップをひっぱたく。
「ううっ!」
「もたもたしないで続けるのよっ」
朱美はそう怒鳴りつけると、悦子に目を向ける。
「悦子、お前もそこで黙ってすわってちゃ駄目じゃないか。ショーの観客役をやってるんだから、この姉弟をからかうなり、野次を飛ばすなりして雰囲気を盛り上げてくれよ」
「……はい」
悦子は固い声音で答える。
「もう、調子狂っちゃうね」
朱美がぼやいた時、義子が「朱美姐さん、観客役ならまかせといて」と声を上げる。
「随分遅かったじゃないか、義子」
「すんません。昨日色々あったもんで」
「ああ、悦子から聞いているよ」
朱美は微笑して頷く。調教室に入って来た銀子が朱美に近づく。
「朱美、御苦労さん。手伝うよ」
「銀子姐さん、すみません」
銀子は青竹を手に取ると、小夜子と文夫の尻を順にパシッと叩き、「さ、続けるんだ」と声をかける。
「は、はいっ」
小夜子は涙声で、強制された屈辱的な挨拶を続ける。
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