39.姉と姉(3)

 津村だけでなく春太郎や夏次郎といった変質性欲者に責め上げられれば、文夫は朱美の言うように男性としての機能を喪失してしまうかもしれない。そんな恐怖に小夜子は心臓が締め付けられるような苦しさを感じるのだ。
「そうね、小夜子の態度次第じゃあ文夫さんのホモ調教を中止してもらってもいいわよ」
「ほ、本当ですか」
小夜子は愁眉を開いたような表情を朱美に向ける。
「その代わり、小夜子は文夫との姉弟ポルノショーのお稽古に気を入れて、もっと濃厚なものにするのよ」
小夜子ははっとした顔付きになる。
「いまだに文夫のおチンチンは指で愛撫するのが精一杯、お口はおろか、アヌスで受け入れるのも拒否しているじゃない。こんな生っちょろいショーでは観客は満足しないわ」
小夜子の頬がみるみる内に赤く染まる。
「二人並んでオナニーを見せたり、瓶吊りの珍芸を披露したりするだけじゃなく、お尻の穴までなめ合うような仲良しのコンビになると誓うのなら、津村さんに頼んで、文夫にこれ以上ホモ調教をするのはやめてもらうわ」
朱美はそこまで言うと、がっくりと顔を伏せた小夜子のウェーブのかかった髪を引っ張る。
「どうなの、小夜子。誓うの? はっきりしなさい」
「わ、私たち、血のつながった本当の姉弟なんです」
「それがどうしたっていうんや。奴隷に血のつながりなんか関係あるかい」
「義子、やめなよ。小夜子の言っていることも分かるわ。レズのコンビとは違って男と女だからね」
朱美は急に甘ったるい声で小夜子に話しかける。
「要するにマンコとチンポで直接つながりあうようなことだけは嫌なんだろう」
「は、はい……」
小夜子は消え入るような表情で頷く。
「それ以外だったら何でもすると誓うね?」
「文夫を――助けてくれるのなら」
「くどいよ。そういっただろう」
「はい――それなら」
小夜子はいったん言葉を切り、やがて蚊の鳴くような声で「ち、誓います」と答える。
「もちろんこの京子とも、静子夫人以上に息の合ったコンビになってもらわないと困るよ。何と言っても今度のショーの前半のメインなんだからね」
「わ、わかっていますわ」
小夜子は涙で喉を詰まらせながら答える。
「京子も異存はないね。小夜子と身も心もレズの夫婦になって、観客を十分満足させるような色っぽいプレイを演じるんだ」
「い、異存はございませんわ」
京子は小夜子を痛ましげにちらと見ると、視線を前に戻す。
もともと小夜子は静子夫人の誘拐事件に巻き込まれたようなものである。京子の判断ミスから静子夫人の救出に失敗し、京子がもっていた写真から妹の美津子が拉致され、そして美津子が助けを求めた文夫、それに同行していた小夜子がこの田代屋敷に捕らわれた。
美津子と文夫はその後、森田組と同業のやくざたちが見守る中、互いが処女と童貞を奪い合うショーに出演させられた。京子は自分のミスが若い恋人たちの将来を奪い、地獄の底に叩き込むような結果になったことを深く悔やんでいた。
たった今まで美津子は清次たち不良少年の肉の生け贄となっており、また文夫は今も清次の兄である津村美雄の変質的な性の相手をさせられている――京子は、そんな二人の苦悩を少しでも和らげることができるのなら、この身はどうなってもかまわないとまで思うのだった。
「文夫さんと美津子の苦しみが少しでも軽くなるのなら、何だってしますわ」
「良い心がけよ」
銀子はニヤリと笑いながら頷く。
「それじゃあ誓いの印に、二人には三々九度の盃代わりにこのワインを飲み干してもらうわ」
銀子は京子に、やや白濁した赤ワインが入ったグラスを突き付ける。不安げな顔をしている京子と小夜子に、朱美が追い打ちをかけるように言う。
「もうわかっていると思うけれど、このワインの中にはついさっき文夫がしたたらせた精液がたっぷり含まれているのよ」
その言葉に京子と小夜子の裸身が同時に、電流に触れたようにブルッと震える。
「わかっているわね、小夜子。これを飲み干すということは、京子と夫婦になることを誓うと同時に、文夫をその身体に受け入れるということよ」
「わ、わかっておりますわ」
小夜子が涙で喉を詰まらせながら頷く。
「京子も同じよ。いずれはあんたも、文夫と実演ショーを演じてもらうわ」
「そ、そんな……」
銀子の言葉に京子は狼狽して美津子の方にちらと視線をやる。美津子は恐ろしいばかりに顔を引きつらせ、焦点の合わない瞳を前に向けている。
「何をおろおろしているのよ。さっき何だってすると言ったところじゃない」
「で、でも、それでは美津子が――」
「姉と妹が同じ男を共有する。そうすることで今よりももっと仲のよい姉妹になれるんじゃない。感謝して欲しいくらいだわ」
銀子がそう言うと義子とマリ、そして竹田たちチンピラがわっと声を上げて笑う。
「お姉さん、私のことは気にしないで」
突然美津子がポツリと呟くように言う。
「私はもう諦めていますわ。ここでは文夫さんを自分のものだけにすることなどできない。私はただ、文夫さんが無事にいてくれさえすればよいのです」
「美っちゃん――ご、ごめんなさい」
「姉さんが謝る理由はないわ」
美津子は硬い表情を保ったままそんな言葉を口にする。銀子と朱美はそんな美津子を興味深げに眺めていたが、やがて京子と小夜子に向き直る。
「さ、ずいぶん時間を無駄にしたわ。固めの盃を済ませましょう」
銀子と朱美が口元に押し付けてくるワイングラスの中身を、京子と小夜子は硬く目を瞑ったまま飲み干して行く。恐らくは上質の赤ワインの風味は、奇妙な混ぜものによって台無しになっている。
そんな淫靡なカクテルを必死な思いで飲み干しいく小夜子の身体に、ワインによる酔いと共に何か背徳的な痺れが湧き起こってくる。それは血のつながった弟と、血液の象徴とも言える赤ワインを介して繋がったという妖しい感覚だった。そんな奇妙な飲み物によって、小夜子は自分自身が淫らに作り替えられていくような錯覚に陥るのだった。
京子もまた、妹の目の前でその恋人の生き血を飲み干していく己自身に、ついにここまで来てしまったかという諦観と、こうなったらとことんまで自分を堕としてみたいという自虐的な思いが湧き起ってくるのを感じている。
ようやく固めの盃を交わし終えた二人の美女のヒップを、銀子と朱美が同時にぴしゃりと叩く。それを合図に向き合った京子と小夜子はゆっくり身体を寄せていく。
「小夜子さん――」
「ああ、京子さん」
京子と小夜子は互いの名を呼び合うとうっとりと目を閉じ、唇と唇を触れ合わせる。美津子と文夫、若い恋人たちの姉同士がまた、同性愛の恋人になったその瞬間、座敷を埋めたズベ公とチンピラたちはわっと喚声をあげるのだ。

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