142.懊悩の限界(4)

「お願いです……子供たちの前で辱めないで」
「何を馬鹿なことをいっているんだ」
津村は冷酷な笑みを浮かべながら夫人の耳を軽く引っ張る。
「親子三人で散々破廉恥な姿を晒しあった癖に恥ずかしがる柄じゃないだろう。それと、昨日僕に抱かれながら、僕の言うことには何でも従順になると誓ったことを忘れたのか」
「で、でも……」
「美紀は小夜子や文夫の前で大声を上げながら何度も気をやったんだぞ。二人とも母親がこれまで自分たちが考えていたのとは違う、どうしようもない淫乱女だってことは十分理解しているさ」
「うっ……」
そう決めつけられた美紀はあまりの汚辱に唇を噛む。しかし津村の言うとおり昨夜、娘と息子の見守る前で、何度も恥を晒したのは事実である。
娘と息子を津村や、おぞましいシスターボーイたちの毒牙から守るためではあったが、美紀夫人が津村に抱かれながらこれまで夫の村瀬との行為では得られなかった深い快感を骨身に染みるほど味あわされたのは事実である。
(ああ……自分はもうこの男から離れられないのではないか)
夫人はそんな予感に、美麗な裸身をぶるっと震わせる。一回りも年上の自分を一晩で狂わせ、情婦のように扱う津村。夫人はかつての夫の部下の底知れぬ恐ろしさを改めて感じるのだった。
「さあ、言うんだ、美紀。僕に抱かれて何度も気をやった」
「……八回」
美紀夫人は消え入りそうな声で答える。
「なんて言ったの、奥様」
「聞こえないわ」
マリと義子が囃し立てると、夫人は自棄になったように「八回、八回ですわ」と答える。
ズベ公たちはどっと笑いこけると立ち上がり、津村に縋るようにしなが羞恥に震える美紀夫人に近寄り、取り囲むようにする。
「一晩で八回も気をやるなんて、奥様も隅に置けないわね」
「小夜子が感受性豊かなのは奥様譲りってわけよね」
「津村はんの肉棒がよっぽど奥さんのおマンと相性がよかったんやないか」
三人のズベ公たちはそんなことを言いながら、美紀夫人の髪や耳を引っ張ったり、黐のような柔肌をつねったりする。美紀夫人は究極の羞恥と汚辱に頬を赤く染め、じっと俯いている。
「でも、わかっているでしょうね、奥様。津村さんは奥様の娘の小夜子の夫なのよ」
朱美に意地悪くそう言われた美紀は、はっとしたように顔を逸らす。
「娘の夫、つまりは義理の息子に抱かれて八回も気をやるなんてあなた、それでも人妻なの」
朱美はそう言うと美紀夫人の顎に手をかけ、ぐっと持ち上げるようにする。
「おまけに津村さんは奥様の息子の文夫とも同性愛の関係を結んだ人なのよ。それもわかっているわね」
朱美の言葉に美紀夫人は昨夜、文夫がおぞましいシスターボーイ二人に犯されていた光景を思い出す。
愛する息子がすっかり男色の快感を教え込まれている姿に激しい衝撃を受けた美紀夫人だったが、その後の津村との情交の最中に、そもそも始めに文夫に対してそんな倒錯の行為を強いたのは津村だということを聞かされ、さらに驚いたのである。
「どうなの、奥様」
朱美に乳首を引っ張られた夫人は痛みに顔を歪めながら「わ、わかっておりますわ」と答える。
「相手が娘の夫で息子の恋人とわかっていながら、一晩中抱かれて八回も気をやるなんて、まったく静子夫人も顔負けの淫乱女だわ」
朱美がそう言い放つと義子とマリはどっと声を上げて笑う。ズベ公たちに侮辱されて口惜しさと屈辱に肩を震わせて泣き始める美紀夫人の姿を見かねたように、小夜子が口を開く。
「あ、あなた……」
「なんだい、小夜子」
「そんなに私たちが憎いのですか――母子三人を地獄に落とすほどのことを、お父様があなたにしたというのですか」
「そうやって恨めしげに睨む小夜子の顔も実に色っぽいな」
津村は楽しげに声を上げて笑う。
「憎いなんてとんでもない。僕は小夜子も、お義母さんも、そして文夫君も心から愛しているんだ。愛しているからこそ三人とも僕のものにしたんだ」
そう言いながらニヤリと笑う津村の目に一瞬狂気めいた光を認めた小夜子は、背筋がぞくりとするのを感じる。
「そうは言っても僕の妻は小夜子だから、お義母さんを妻にする訳にはいかない。そうだな……お義母さんは僕の妾にしてやろう。そして文夫君は僕の愛人って訳だ」
「な、なんてことを……」
津村の言葉のあまりの恐ろしさに、小夜子は白磁のような裸身をブルブル震わせる。
「そんなに怒った顔をするところを見ると、小夜子はお義母さんに焼き餅を妬いているんじゃないか。心配することはない。お義母さんを妾にしてからも小夜子は今までどおり、いや、それ以上に可愛がってあげるよ。僕が精力には自信があることは小夜子も良く知っているだろう」
津村がそう言って笑うとズベ公たちは「良かったじゃない、小夜子」とか「そんなに愛されるなんて羨ましいわ」と盛んに囃し立てる。
「どうなんだい、美紀。僕の妾になるのかい、ならないのかい」
津村は美紀夫人の震える肩を抱くようにしながら聞く。
「明後日、岩崎一家がこの森田組にやって来ることは美紀も知っているだろう。あれだけ大きな組だから、中には女よりも男の方がいいっていう連中もたくさんいてね、田代屋敷にすこぶるつきの美少年がいると聞いて、何としても抱かせろと煩いんだ」
津村のその言葉を聞いた夫人は、美麗な裸身をぶるっと震わせる。
「美紀が可愛い息子をそんな変態のやくざ共の餌食にしたいっていうのならそれでもいいんだが」
「やっ、止めてくださいっ。そんなことをされたら文夫は――」
美紀夫人が昨夜、シスターボーイ二人に嬲られながら狂乱状態に陥っていた文夫のことを思い出す。男二人に抱かれながらある時は少女のように恥じらい、またある時は成熟した女のような技巧を発揮していた文夫。あのような行為が続けられれば文夫は取り返しのつかない状態になってしまうのではないかと、美紀夫人は激しい恐怖を感じるのだ。
「美紀が僕の妾になるのなら岩崎親分に頼んで、文夫君をそんな変態どもに抱かせるのは止めてあげても良いんだ。僕はこれでも親分には信頼されているからね。どうだい、言うことを聞くかい?」
「や、やめてっ」
小夜子が津村の言葉を遮るように叫ぶ。
「朱美さん、や、約束が違いますわっ。小夜子が文夫さんとコンビを組んだら、文夫さんにはもうそんな恐ろしいことはしないはずだったじゃないですかっ」
「別に約束は破っていないさ」
朱美は平然とした顔付きで答える。
「小夜子と文夫が互いにお尻の穴まで嘗め合えるような仲の良いコンビになれば、文夫に対するホモ調教は中止すると言っただけだよ。でも今はどうだい。小夜子はまだ文夫に尺八することだってためらっているじゃないか。こんなことじゃあとても明後日のショーには間に合わないよ」

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