「そ、それは……」
小夜子は言葉を詰まらせる。
確かに朱美の言う通り、小夜子は羞恥心と背徳感を必死で堪えながら文夫と並んで珍芸を演じたり、互いにオナニーを見せ合ったりするところまではなんとかできるようになったが、手であれ、唇であれ、実際に自分の身体を使って血を分けた弟の身体を愛撫することにはどうしても抵抗があり出来なかったのである。
「どうだい、美紀。僕の妾になるかい。それとも可愛い息子をやくざたちに捧げるかい」
夫人は蒼白な顔を引きつらせていたが、やがてこくりと頷く。
「母さんっ。そんな奴の言うことをきいちゃ駄目だっ。僕のことは心配しないでっ」
たまりかねたそう叫んだ文夫に、すかさず朱美が激しい平手打ちを飛ばす。
「奴隷の分際でガタガタ騒ぐんじゃないよっ!」
文夫の唇の端からたらりと赤い血が一筋流れ出すのを見た義子が「もう、朱美姐さんったら、こんな可愛い男の子に乱暴したらあかんがな」と言うと、文夫に顔を寄せて流れる血をペロリと嘗める。
そんな様子を見ておぞましさに震える美紀夫人に、津村が畳み掛けるように言う。
「どうなんだい、妾になってくれるんだね」
「は、はい――」
夫人が再びはっきりと頷くのを見たズベ公たちはどっと喚声をあげる。
「それならこんな風に誓うんだ」
津村は美紀夫人の耳元に口を当て、何事か囁く。夫人はブルッと裸身を震わせ、辛そうに眉を顰める。
「何をためらっているんだ。ここにいる朱美たちを証人にするためにも、自分の決意をちゃんと口にするんだ」
「本当に――本当に文夫は助けてくれるんですね」
「僕の言うことが信用できないのかい」
津村はニヤリと笑って夫人の肩を抱く。
信用できるはずがない――美紀夫人はそう胸の中で呟くのだが、ここで逆らえば二日後、文夫は変質者の嬲り物にされるのだ。息子のために我が身を犠牲にする決意をした美紀夫人は死んだ気になって口を開く。
「む、村瀬美紀は、津村義雄さんの愛を受け入れ、妾になることを誓いますわ――」
震える声で美紀夫人がそんな屈辱の誓いをはっきりと口にしたのを聞いた朱美たちは、再び喚声をあげる。
「そうと決まったところで改めて乾杯よ」
朱美が二つのグラスにビールを注いで立ち上がると、義子、マリもグラスを持って朱美に倣う。
「村瀬美紀夫人と津村はんの永遠の愛を祝して乾杯!」
「乾杯!」
義子がおどけて乾杯の音頭を取ると、朱美、マリがそれに唱和する。津村もさも楽しげに高々とグラスを掲げる。
「さあ、お祝いよ。あんたたちも飲むのよ」
朱美が京子に、義子が小夜子に、マリが美津子に近寄ると、手に持ったグラスに注いだビールを無理やり飲ませる。そんな様子を楽しそうに眺めていた津村は空いたグラスにビールを注ぐと美紀夫人に近寄る。
「美紀には僕から口移しで飲ませてやるよ」
「い、嫌……」
嫌悪感に首を振る美紀に津村は「恥ずかしがることはない。僕らはもう夫婦も同然じゃないか」と言うと、ビールを口に含み、美紀の唇に自らの唇を近づける。
「うっ、ううっ……」
美紀の唇がふさがれ、ビールが口内に流し込まれる。その苦く生暖かい液体を、美紀はまるで毒液を飲むような気持ちで、必死で飲み干していく。
京子に無理やり続けざまに二、三杯のビールを飲ませた朱美は、同じグラスにビールを注ぎ、文夫に近づく。
「お坊ちゃんも大学生なんだからビールくらい飲めるだろう。愛するお母様の新たな出発を祝って一杯やるんだ」
そう言いながら朱美は文夫の鼻を摘まみ、無理やり口を開けさせるとビールを飲ませる。
「なかなかいける口じゃないか」
文夫が顔をしかめながら懸命にビールを飲んでいる姿を見ながら、朱美は楽しそうに笑っている。
「ところでお坊ちゃんは今、京子が飲んだのと同じグラスでビールを飲んだんだけど、それがどういう意味なのか分かるかい」
朱美がニヤニヤ笑いながらそう言うと文夫の顔が引きつり、京子の顔がさっと青ざめる。
「ま、まさか……」
「京子はさすがに察しが良いね。そう、そのまさかだよ。明後日のショーの昼の部で、二人に実演ショーを演じてもらいたいのさ。そのための夫婦固めの杯を交わしてもらったってわけさ」
そんな朱美の恐ろしい宣告を聞いて義子とマリにビールを飲まされている小夜子と美津子、そして津村に無理やり口移しでビールを注ぎ込まれている美紀の顔も硬化する。
「そ、そんなっ、嫌ですっ」
美津子がマリに突き付けられているビールのグラスから顔を逸らし、思わず悲鳴のような声をあげたので、ズベ公三人はどっと笑い出す。
「あらあら、早速美津子が焼き餅を焼き始めたよ」
マリにそうからかわれた美津子ははっとした表情になり、口を閉ざす。
「文夫と京子が関係をもつことは、美津子もいったん納得したことやろ。今さら駄々をこねるなんて往生際が悪いやないか」
義子がそう言って美津子の耳を引っ張る。
「まあ無理もないよ。恋人同士が無理やり引き裂かれて美津子は吉沢さんの妻になり、文夫はずっと桂子とコンビを組まされて来たんだからね。それが、今回やっと一緒になれたんだから」
朱美がニヤニヤ笑いながらそう言うと「京子と組ませると言っても、あんたと文夫のコンビを解消させる訳じゃないから安心しな。夜の部は三組も白黒ショーが予定されているのに、昼の部が一つもないから急遽プログラムを増やすことにしたんだよ」と笑う。
美津子は赤く染まった顔を俯かせる。確かに美津子は文夫を独占しないことについて納得させられていたのだが、いざその時がくると平静を保つ訳にはいかなかったのだ。
「お坊ちゃんは若いんやから、昼と夜の二回くらいどうってことはないやろ」
義子はそう言うと文夫の肉棒を指先で弾き、ケラケラ笑い出す。
「美人姉妹の姉を昼に味わい、妹の方を夜に味わうことが出来るんや。そんな経験、なかなか出来へんで。どうや、お坊ちゃん。男冥利に尽きるやろ」
そんな風にからかわれている文夫はさも辛そうにしかめた顔を左右に振るばかりであった。
「お願いですっ。文夫にそんな惨めな思いをさせないでっ」
美紀夫人が思わずそう口走ると、義子はさっと険しい表情になる。
「おかしいことを言うやないか。奥様」
義子はつかつかと夫人に近寄ると、その形のよい耳をぐいと引っ張る。
「惨めな思いをするのは自分の息子だけだって言うんか? 文夫と一緒に恥をかく京子や美津子のことはどうでもええって訳か?」
「そ、そんなことを申しているんじゃありませんわ……」
美紀夫人は痛みに顔を歪めながら否定する。
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