178.静子夫人の絶望(2)

「な、なんですって」
夫人は激しく頭を振った。
「あ、あのお嬢さん達にはそんなことは無理ですわ。身体が壊れてしまいます」
「そうね。私たちもそう思うわ。だからあんたにこの新しい女奴隷を調教するのを手伝ってほしいのよ」
「二人とも出産経験があるから、捨太郎のデカ魔羅だって何とか受け入れられそうだしね」
「――手伝うって、何をすればよいのですか」
「そうね。さしずめ調教助手ってとこかな。ベテランの経験を生かして調教プランを作ったり、実際の調教の時にご自分で見本を示しながら女奴隷を宥めたり、説得したりしてほしいのよ」
「そ、それくらいでしたら――」
その女性たちには申し訳ないが、銀子たちの言うようにもし自ら志願してこの地獄屋敷に来たのなら自業自得という面もある。千原流の家元令嬢や、ついこの間まで女学生だった美津子が捨太郎と実演コンビを組むなどという酸鼻な光景を阻止できるのなら――。静子夫人は悲しげな表情で頷いた。
「そう、よかったわ」
銀子が朱美と顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。
「それじゃあ行きましょう。新入り奴隷がお待ち兼ねよ」
朱美はそう言うと天井のロープから静子夫人の縄尻を外し、豊満な尻をパシッと平手打ちする。
「相変わらず良い音がするわ」
銀子と朱美はそう言って笑い合うのだった。
素っ裸のまま廊下を歩む静子夫人のたっぷりとした乳房と迫力のある双臀が左右に揺れる。斜め後ろを歩く銀子と朱美は、そんな静子夫人の縄尻を肉体美を頼もしげに眺めている。
「それにしても奥様の身体は素晴らしいわ。岩崎親分がぞっこんになるのも無理はないわ」
「新しい奴隷が親分の気に入るといいのだけど」
「それは静子夫人の腕次第よ」
銀子と朱美の意味ありげな会話を耳にした静子夫人の心の中に不安が広がる。
「あ、あの……銀子さん」
「なーに、奥様」
「その……新しく奴隷になった二人の奴隷というのは、私が知っている方じゃないでしょうね」
「さあ、どうかしら」
銀子はそう言うと朱美の方をちらと見る。
「何しろ遠山財閥夫人の交友関係ともなれば私達が想像出来ないほど広いでしょうから、知っているとか知らないとかはっきりとは言えないわ。お会いになればわかるんじゃない?」
朱美はそう言ってクスクスと笑う。
「それに奥様はもうそんなことは気にする必要はないのよ。奥様は一生、森田組と葉桜団に奴隷として仕えることを誓ったんだから」
銀子にそう決めつけられた静子はがくりと項垂れる。銀子の言う通り、自分にはもはや外の世界でのしがらみを気にする資格はないのかもしれない。森田組の井上たちによって撮影された破廉恥な写真や映画が出回り、その上見知らぬ男の種で子供を孕まされた自分は、もう二度と太陽の下を歩くことなどかなわなくなっているのだ。
「さ、着いたわよ」
静子夫人が地下室倉庫の前に着くと、銀子が一歩進み出て扉を開ける。
「入りなさい」
朱美に肩を押され、倉庫の中に足を踏み入れた静子夫人は、田代と森田が扉の方を向いて椅子に腰掛けているのが目に入る。
下半身裸の田代と森田は静子夫人の姿を認めるとニヤリと笑う。二人の男の大きく開いた肢の間に裸の女二人が跪き、奉仕をしているのだ。
二人の女の股間は赤白だんだらの紐で締め上げられており、静子夫人がそれが、自分や小夜子を苦しめた「鈴縄」であることに気づく。
ピチャ、ピチャという猫がミルクを嘗めるような音が部屋の中に響く。田代は「もっと激しくやるんだ、奥さん。そんなことじゃ男はいつまでたっても男はしないぞ」とわざと苛立たしそうな声を上げ、女の髪の毛を掻き毟るようにする。
「ううっ……」
女は苦しげな声を上げると、田代に強制されるままに顔を前後に動かし始める。泥濘の中を歩くような音が一段と高まり、田代は「そうそう、その調子だ」と機嫌良さそうな声を出す。
隣の森田が「奥さんも負けずに頑張るんだ」と言いながら、女の頭を押さえ付けるようにして前後に動かし始める。急に喉の奥を突かれた女が「ぐえっ」と苦悶の声を上げるが、森田はかまわず女の頭を前後に動かしていく。
「あらあら、早速おしゃぶりの練習をさせてもらっているのね」
銀子がさも楽しそうに二人の男に声をかけると、森田が「次の調教をじっと待たせているだけじゃ能がないからな。こうやって俺と社長が一肌脱いだって訳だ」
「脱いだのは一肌じゃなくて、パンツでしょう」
朱美がまぜっ返すと森田は「おきやがれ」と苦笑する。
「それでどうなの? 奥さん方のテクニックは」
「年齢の割りにはまだまだだな。二人ともここへ来るまでは全く経験がないらしい」
「そこにおいでの静子夫人に、じっくり稽古をつけてもらわないととても売りものにはならないな」
静子夫人という言葉を耳にした二人の裸女は、同時に肩をピクリと震わせ、男たちの肉棒から口を離して振り向こうとする。すると森田は「よそ見をするんじゃねえっ!」と怒声を上げ、女の頭をぐっと押さえ付けるようにする。
田代もまた不安そうに顔を逸らそうとした女の顔を両手で挟みつけるようにして元へ戻す。女は諦めたように田代への愛撫を再開する。
「社長に奉仕している女が夏子で、森田親分をおしゃぶりしている女が冬子よ」
銀子が静子夫人にそう囁きかける。
二人の女の淫靡な奉仕の様子を目にしている静子夫人は、さきほど心の中に湧き起こった不安の黒雲がますます大きくなり、はっきりと形を成して来るのを感じる。
静子夫人に対して背中を向けている二人の裸女――それぞれ三九歳と三六歳という年齢が正しいかどうかはともかく、いずれも静子夫人よりはかなり年上と思われる。
田代に奉仕している夏子という女はいかにも洋装が似合いそうな、優美な中にも迫力のある肉体をしており、きゅっと締まった腰や丸みのある尻は小夜子のそれを思わせる。一方、森田に奉仕している冬子という女は腰回りや太腿のあたりはむっちりと成熟している反面、全体が少女のような華奢な線で取り囲まれており、田代屋敷の奴隷たちの中では美沙江の身体つきに近い。
そこまで考えた静子夫人はある恐ろしい可能性に思い当たり、はっと息を呑む。
「もしや……」
「どうしたの? 静子夫人」
銀子が面白そうに静子の顔をのぞき込む。
「い、いえ……何でもありません」
静子は慌てて首を振る。
まさか、そんなはずはない。小夜子の母親と、美沙江の母親が田代屋敷で奴隷に落ちているなど――そんな恐ろしいことは。

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