213.奴隷のお披露目(13)

 義子はそう言うと、岩崎たちの視線を浴びながら汚辱に震えている久美子の尻をパシッと叩く。
「さ、ぼんやりしていないで岩崎親分の機嫌をとるんや」
「き、機嫌をとるって……どうしたら良いんですか」
「そんなこともわからなんのかいな。久美子の兄さんが岩崎親分に大変な迷惑をかけたんや。そのことについて詫びを入れなあかんやないか」
「そ、そんな……」
 義子の理不尽な要求に久美子は絶句する。
「どうして私がそんな詫びを入れなければならないのですか。そんなこと聞いていませんわ」
「どうしてもこうしてもないやろう。お嬢さんは森田組の女奴隷になったことを忘れたんか?」
 義子はそう言って再び久美子の尻をパシッと叩く。
「そもそもショーなんて脚本どおりに進むとは限らないのよ。その場の空気に合わせて臨機応変にやるのが大事なのよ」
 マリもまた久美子に因果を含ませるように、耳元でねちっこく囁きかける。
「何をゴチャゴチャやっているんだ」
 時造が焦れたような声を上げる。
「ほら、せっかくみんな機嫌よくショーを楽しんでいたのに、久美子のせいでぶち壊しやないか」
「わ、私のせいなんですか」
「ブツブツ言ってないで早く詫びを入れなさいよ。さあ」
 マリがそう言って久美子の尻を叩いた時、再び時造が苛立ったような声を上げる。
「山崎を捕まえたのなら、とっとと早くこの場に連れて来い。指を一本や二本詰めさせるくらいじゃすまねえぞ」
 時造の言葉を聞いた久美子の顔が蒼白になる。
「ほら、愚図愚図しているから時造さんを怒らせちゃったじゃない」
「お兄さんを助けたかったら、早いとこ詫びを入れるんや、ええな」
 マリと義子にそう詰め寄られた久美子は引きつった表情を浮かべながら「わ、わかりました」と頷く。
 久美子は岩崎の魁偉な容貌に視線を向けながら、思い切って口を開く。
「い、岩崎親分様。久美子、親分様に申し上げたいことがございます」
 岩崎もまた久美子をじっと見つめながら「ほう」と呟く。
「山崎の妹がこの俺に申し上げたいことってのは何だ。言ってみな」
「は、はい……」
 久美子は萎えそうになる気力を奮い立たせながら後を続ける。
「な、長年の間、私の兄が親分様に多大なご迷惑をおかけしましたこと、兄に代わって深くお詫び申し上げます。どうも、誠に申し訳ございませんでした」
 そう言うと久美子は舞台上に膝を尽き、身体を折って額を床にすりつけんばかりにする。
 岩崎はそんな久美子の惨めな姿に頷きながらも、わざとドスの利いた声で「土下座したくらいで許されると思っているのか」と凄む。
「そうだ。そんなことじゃすまされねえぜ」
 時造もまた吠えるような声を上げる。
「で、では……どうすれば」
 久美子が顔を上げて当惑したようにそう言うと、義子が苛立たしげに「ほら、すぐそんな風に開き直るような言い方をするから生意気やと思われるんや」と言って久美子の後頭部をぴしゃりと叩く。
 思わずかっとして振り返る久美子の頭を押さえつけるようにして、マリが「こんな風に言って、親分の機嫌を取るのよ」と耳元に囁きかける。
「ああ……そ、そんな……」
 罪を償うため、兄と二人で舞台の上で近親相姦のショーを演じることを岩崎の前で誓う――そんなおぞましい台詞を強要された久美子は恐怖と屈辱に顔を引きつられせる。
「今さら何をためらっているのよ。舞台の上でお兄さんとそうなることはもう、承知の上でしょう」
「さ、お次がつかえてるで。早くするんや」
 二人のズベ公に急き立てられた久美子は再び岩崎に向かって土下座をする。
「お、親分様方のお腹立ち、ごもっともと思います。久美子は親分様およびご一家の方々のお気持ちを少しでもお鎮めするため、後ほどこの舞台の上で兄とき、近親……」
 そこまで口にした久美子はさすがに涙で声を詰まらせる。
「どうしたんだ」
「はっきり言わないか」
 観客席に陣取る岩崎組のやくざたちの罵声が飛ぶ。熊沢一家や南原組といったやくざたちも岩崎組に追従するように、久美子に向かって野次を飛ばす。
「皆さん、お静かに、お静かに」
 マリと義子が愛想笑いを振りまきながら観客たちを懸命に抑えようとする。
「もう、早くしないから、お客さんたちがすっかり怒らせたやないか」
 義子が苛々しながら久美子の尻を蹴飛ばす。そんな暴虐行為を見かねたように、舞台左端で一段下がっていた美紀が一歩前に進み出る。
「こんなに若い娘さんを寄ってたかって苛めるなんて、あ、あんまりですわ。は、恥ずかしいと思わないんですか」
 突然美紀夫人が柳眉を逆立てて、そんな抗議の言葉を吐いたので、しきりに野次を飛ばしていた男たちは一瞬呆気に取られたようにポカンと口を開ける。
「何を勝手に喋ってるんや。奴隷は許可なく口を利いたらあかんていうのを忘れたんか」
 義子が慌てて美紀夫人の縄尻を取って引き戻そうとするが、夫人は身を捩るようにして抵抗する。
「だ、だって、私、もう黙っていられませんわ」
 美紀夫人はそう言って岩崎を睨みつける。岩崎はそんな美紀夫人の姿を興味深げに眺めていたが、やがて「義雄から話は聞いていたが、なかなか気の強い奥さんじゃねえか。気に入ったぜ」と言って笑う。
「しかし、オ○コを丸出しにして、恥ずかしくないんですかって凄まれてもな」
 岩崎がそう言うと、和枝や葉子、周囲のやくざたちはどっと笑い声を上げる。美紀夫人は自らの姿に改めて気づいたように急に顔を赤らめる。
「そこのお嬢さんの詫びの言葉が途中だぜ。静かにして最後まで聞いてやろうじゃねえか」
 岩崎の声にやくざたちは水を打ったように静まり返る。成り行きを見守っていた町子は、その威厳と迫力に圧倒される。
「親分がああおっしゃっているんだ。さ、続けな」
 マリがそう言って手に持った青竹で久美子の尻を軽く叩く。久美子は嗚咽を堪えながら詫びの言葉を再開する。
「く、久美子は親分様およびご一家の方々のお気持ちを少しでもお鎮めするため、後ほどこの舞台の上で兄と近親――」
 久美子はそこまで言うと再び声を詰まらせるが、気力を振り絞って後を続ける。
「近親相姦の交わりを演じ、二一年間守り抜いて来た処女を散らさせていただきますので、皆さま、どうかご笑覧いただきたくお、お願い申し上げます」
 久美子のその言葉に観客たちはどっと歓声の声を上げる。
「なんだ、てめえ、生娘なのか」
 岩崎は喜色満面と言った表情で頷くと、隣りの時造に向かって「実の兄と妹がつるみ合うってえのか。そいつは楽しみだ。森田組もなかなか粋なことをやるじゃねえか」と話しかけるのだった。

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