303.姉妹と姉弟(8)

 ぴったり重ね合ったその部分を支点にするかのように、京子と小夜子はゆっくりと裸身をくねらせ始める。やがてその動きは徐々に速く、かつ淫らなものへと変じていく。
「ああ……き、気持ち良いわ。小夜子さん」
「私も気持ち良いっ、京子さんっ」
 そんな風に声を掛け合い、互いに刺激し合っている二人の美女に、観客の目は次第に釘付けになっていく。
「さっきの珠江と美沙江のショーも良かったけど、今回のは迫力満点ね」
 町子が隣の岡田に語りかける。
「あれは貝合わせていって、レズビアンでは古典的な愛し合い方なんだけど、ああやって立ったまま演じるにはお互いの体格も合ってなきゃならないのよ」
「さすがに町子はレズビアンには詳しいな」
「嫌な言い方しないでよ」
「悪い、悪い」
 岡田は笑って町子の肩を叩く。
「確かにあの二人は背格好も似ているし、歳も同じくらいだろう」
「プログラムには京子が二三歳、小夜子の方が二二歳って書いているわ」
「大学を卒業して一、二年ってところか、そんなうら若い娘二人がやくざに拉致されて、毎日毎日ポルノスターとして仕込まれているって訳だ。考えてみりゃ可哀想な話じゃないか」
「何を言っているのよ。私たちだって同じことをしているじゃない」
「そう言われりゃそうだな」
 岡田は顔を崩して笑う。
「あの二人にはそれ以外にも共通点があるのよ」
 町子と岡田のやりとりを聞いていた千代が口を挟む。
「どういうこと?」
「二人とも、静子と同性愛の関係にあるってことよ」
「そうなの?」
 町子は驚いて、改めて舞台に目を向ける。すると、調教役である静子夫人は白熱したレズビアンの演技を続ける京子と小夜子から一歩引いたような位置に立ちながら、時折二人に近づいては何ごとか囁いている。
 その度に京子と小夜子は頷き、互いを刺激する動きを速めあったり、新たな睦言を口にしったりするのだ。
「ああっ、小夜子さん、きょ、京子、すごく良い気持ちだわ。さっ、小夜子さんはどうなのっ」
「さ、小夜子も気持ち良いわっ。あ、ああっ、た、たまらないっ」
 そんな大胆な台詞を吐き合う京子と小夜子の姿を、和枝と葉子は美紀夫人を間にぴったり挟み込むようにしながら、指を差して笑い合っている。
「村瀬宝石店のお嬢様、大熱演ね。もうどこに出しても恥ずかしくない、堂々たるポルノスターだわ」
 和枝が夫人に対してそんなからかいの言葉を浴びせると、葉子が「どこに出しても恥ずかしい、の間違いでしょう」と混ぜっ返す。
「そう言われればその通りだわ」
 和枝はプッと吹き出す。
「それにしても、村瀬宝石店社長令嬢でミス宝石、音楽コンクールのバイオリン部門で優勝したほどの大家のお嬢様が、下品なやくざ立ちの前で卑猥な白白ショーを演じるまで落ちぶれるなんて、前代未聞の転落ね」
 和枝がそう言うと葉子も、
「転落したのはお嬢様だけじゃないわよ、弟のお坊ちゃまも同じよ」
 と続ける。
「お坊ちゃまも大学を卒業したら、村瀬宝石店が取引のある銀行か商社あたりで何年か修業させ、いずれはお父様の後を継いで社長にと考えていたんでしょう。それが今や白黒ショーの男役者、ショーが終われば女の客相手に身体を売ることになるなんて、想像もしなかったでしょうね」
 和枝と葉子の残酷な言葉を美紀夫人はじっと俯いて聞いている。
「あら、奥様、泣いていらっしゃるの」
 葉子は美紀夫人の顔を覗き込んで、わざとらしく尋ねる。
「そんな風に顔を伏せていないで、しっかりとご覧なさいよ。お嬢様の晴れ姿を」
 和枝が美紀夫人の顎に手をかけ、ぐっと引き上げる。
「うっ……」
 あまりに無惨な愛娘の姿を見せつけられた美紀夫人は、耐えかねて顔を背けようとする。しかしながら、葉子と和枝に両側から顔を押さえつけられ、
「ダメよ、顔を背けちゃ。せっかく熱演している娘に失礼でしょう」
 葉子と和枝に両側から美紀夫人の顔を挟み込むようにして、無理矢理に前に向けさせる。
「どうなの、奥様。お嬢様の白白ショーをご覧になった感想は。ぜひ聞かせていただきたいわ」
「そうそう、どちらがショーとして見応えがあるのか、どちらが刺激的なのか、ぜひ教えていただきたいわ」
 葉子と和枝が口々に美紀夫人に迫る。
「そ、そんな……子供たちのあんな酷たらしい姿、母親としては見るに堪えませんわ」
 美紀夫人はそう言って唇を震わせる。
「見るに堪えないなんて、そんな事を言って良いの」
「そうよ。せっかく娘が、脂汗を流しながら熱演しているって言うのに」
 葉子と和枝は口を尖らせて美紀夫人を罵る。
「な、何と言われても、酷たらしいという思いに変わりはありません。女同士であんなことをさせられて……」
「ふん、息子の方は美津子が相手だったから酷たらしくないというのね」
「そ、それは……」
 葉子の言葉に美紀夫人は口ごもる。もちろん、文夫が陥った運命も、母親にとっては耐え難いものだったが、男と女の行為である以上、美紀夫人にとって理解の範囲にあるものだった。
 しかしながら、今舞台の上で小夜子が強いられている女と女の性愛行為は、極めて保守的な美紀夫人にとっては、まったく理解を超える変質的なものだったのである。
 その時、少し離れたところに座っていた大塚順子が声をかける。
「ちょっと、その奥様をこちらに連れてきてよ」
「どうするつもり?」
「いいから、早く」
 順子に急き立てられた葉子と和枝は、首を傾げながらも、「ほら、大塚先生がお呼びよ」と言って、美紀夫人の両脇を抱えるようにしながら順子の近くに引き立てる。
 順子は、無理矢理近くに座らされて身体を強ばらせている美紀夫人の肩を抱くようにすると、ぐっと引き寄せる。
「あっ」
 いきなり順子が美紀夫人の唇を奪ったので、葉子と和枝は「まあ」と驚きの声を上げる。
「うっ、うっ」
 美紀夫人は必死で順子の手から逃れようとするが、順子は思いがけないほどの力を発揮し、美紀夫人をしっかりと抱きすくめながら舌を吸う。毒蜘蛛に捕まった美蝶のように、美紀夫人の身体から次第に力が抜けていく。
「舞台の上と下で、母と娘がレズの競演って訳ね」
 葉子と和枝は感心したように、そんな事を言い合う。

Follow me!

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました