20.懊悩(1)

私は今までこの日、妻が男性役員4人によって力ずくで犯され、それをネタに脅迫されているのではないかと考えていました。
しかしいくら何でもPTAの役員になろうという男たちがそのような危ない橋を渡るでしょうか。
妻は一見おとなしい雰囲気はありますが、実はかなり芯の強い女です。そのような犯罪行為があれば警察へ届けることも辞さないでしょう。
そうではなくこの時点で男たちは妻の、そして藤村さんの弱みを握り、それを材料にして脅迫し、無理やり身体の関係を結んだのではないかと考えるのが自然です。
また警戒心の強い妻が男たちに混じって泥酔するまで酒を飲むというのも考え難いです。その際に酒だけではなく何らかの薬も使われたのでしょう。クリニックを経営している道岡なら、睡眠薬のようなものを使うのは難しいことではありません。
妻の弱み──それが妻と長尾の関係であったことは想像に難くありません。そうするとやはり妻と長尾が不倫の関係にあったというのは事実ということになります。そこまで考えた私は一気に気持ちが沈んでいくのを感じました。
(どうしてそんなことになったのか……)
私は頭を抱えます。
(絵梨子から誘ったのか……それとも長尾から誘ったのか)
結果として妻が裏切ったことは事実なのですから、どちらから誘ったかというのはどうでもよいことかも知れません。妻に問いただせば分かるかも知れませんが、本当のことを話すとは限りません。それは仮に長尾に問いただしたとしても同じことです。結局のところは私を裏切った妻を許すことができるかどうかに尽きるのです。
しかし、私は妻が不倫を犯した理由や経過を知りたくて仕方がありませんでした。
私と妻は見合い結婚ですが、同世代のほかの夫婦と比べ会話も多く、週末は2人でデートすることもあり、夫婦生活は円満だと思いこんでいました。
結婚して以来経済面で妻に不安を与えたことも、浮気をしたことも、まして手を上げたことも一度としてありません。18年もの間夫婦として何の問題もなく過ごして来たと思っていたのに、どうしてこんなことになったのでしょうか。
妻はこの3月の土曜日以来ずっと、犬山たち4人から脅され、関係を持たされて来たものと思われます。4月に入ってから毎週日曜になると役員会と言って出かけ、2回に1回は食事と酒が入って帰宅が遅くなり、男たちに代わる代わるタクシーで送られて来たのは、藤村さんと妻が交替で男たちに弄ばれていたのに違いありません。
そう考えると、毎週土曜のセックスが2週に1回になったのは、男たちに抱かれる前日は私とセックスすることを禁じられていたからだと想像出来ます。
さらに6月初めにわが家にオンライン役員会のシステムが導入されてからは、妻は週末だけでなく平日も男たちの玩弄物にされるようになったのでしょう。
システムが開通した夜に私が帰宅した時、妻がノーブラにピンクのブラウスを身にまとい、化粧までいたことを思い出します。おそらくアダルト向けライブチャットのチャットレディ嬢さながら、ウェブカメラの前で今日のように露出調教を施されていたのではないでしょうか。
そして極め付けはつい先週末の西伊豆D旅館への旅行です。今日の役員会で妻が「西伊豆の旅館で自分から変態人妻と宣言した」という男たちの発言があったことから判断して、その際に妻は相当屈辱的な目にあったということは想像に難くありません。
愛する妻を酷い目にあわされた訳ですから、私は当然4人の男に腹を立てるべきですし、もちろんそういった怒りも確かにあります。しかし今の私には妻の裏切りの方がショックで、男たちに弱みを握られた妻がどのような目にあおうが、それは自業自得ではないかといった気持ちに駆られてしまうのです。
私に代わって男たちが妻に罰を与えている。夫を裏切るような淫らな妻は、もっともっとお仕置きを受けて当然だという悪魔的な囁きが私の頭の中に響いてくるような気がするのです。
ディスプレイの中で男たちに命じられるままローターを使って淫らなオナニーに耽る妻、両手で陰唇を開き臓物まで開陳する妻、「絵梨子の穴という穴を思う存分犯し抜いてください」と、恥ずかしい宣言をする妻――。
どれも私がこれまで見たことがない、妖しいまでに艶っぽい妻の姿でした。そして私が、里美の演技を通してしか見ることが出来なった極限の羞恥の姿。私はそんな妻に対してどうしようもない腹立たしさを覚えると同時に、たまらない魅力を感じることも否定出来ないのでした。
そんなふうに妻が変わってしまったきっかけは長尾との不倫だと思われます。妻がどうして長尾と不倫の関係に落ちたか知りたいのは山々ですが、今の私には妻を問いただすことは非常に難しいと思いました。
なぜなら何一つ証拠がないのです。
会社からアクセスしていたオンライン役員会は、下田の会社の技術によってほぼ完璧なコピーガードが施されていたため、記録することは出来ません。私と里美が実際にシステムにアクセスして、妻自身から不倫の事実を聞いたので、里美が証人と言えば言えますが、それを妻に話す訳には行かないのです。
私たちがオンライン役員会を犬山たちに気づかれない形でモニターしたと話せば、妻は観念して告白するかも知れません。しかし妻を嬲り抜いていた犬山たちに復讐したくても、証拠がないと開き直られたらおしまいです。
まして長尾を追求することはもっと厄介です。妻との不倫の関係は終わっているようですから、これから証拠をつかむのは極めて困難でしょう。
妻と長尾の間で起こったことを知り、かつ犬山たちや長尾に対して効果的な復讐をするためには、今のところオンライン役員会を引き続きモニターするしかありません。
しかし問題は、現在妻の身体に直接的な危機が迫っていることです。次の日曜日に開かれる「役員会」で妻は美容整形外科医の道岡から肛門拡張、肛門美容整形、そしてクリトリスの包皮切除というおぞましい手術を受けることになっているのです。
私は美容整形でそのような淫靡な施術が本当に行われているのかと疑問に思い、インターネットで調べてみました。するとさすがに肛門拡張というものはありませんでしたが、肛門美容整形とクリトリスの包皮切除というといったメニューは多くの美容クリニックにあったのです。
妻がまるで産婦人科にあるような手術台に乗せあげられ、女の羞恥の箇所から尻の穴に至るまでを犬山たちに晒しながら、肛門をプラグで拡張されたり、クリトリスの薄皮を剥がれたりする姿が目に浮かびます。先程射精したばかりだというのに私の股間は再び熱くなり始めます。
(いったいどうしたらいいのだ……いや、俺は一体何を望んでいるのだ)
結局その日はその後、ほとんど仕事が手につきませんでした。
妻を危機から救うべきではないかという天使の声、そんな悪妻にはそれぐらいの罰は当然だという悪魔の声、そしてもっと妻を淫らにしてみたいという淫魔の声を代わる代わる頭の中で聞きながら、私は家に帰り着きました。
「お帰りなさい」
妻がいつものように玄関まで私を出迎えます。クリーム色のサマーセーターに白いパンツ姿の妻はいつもと雰囲気が違うように思え、しげしげと眺めましたが、髪の色がそれまでよりもだいぶ明るい栗色になっており、強めにカールしていることに気づきました。
「美容院にいったのか?」
「あ……ええ……」
妻は少し口ごもります。
「ずいぶん雰囲気が変わったな」
「そうかしら……」
妻は心なしか私から顔を背けるようにします。
「いつもは私が美容院に行っても気づかないあなたがそう言うのなら、そうなのかも知れないわ。少し派手すぎるかしら」
「いや……よく似合うよ」
週末の役員会に備えて髪をセットしに行ったのでしょうか。犬山たちに命令されてそうしているのかも知れませんが、たとえ淫らな責めを受けるためとは言え、男たちの視線を集める機会であればお洒落していたいというのが女心なのかも知れません。妻は意外に男たちに責められることを楽しんでいるのではないかという皮肉な思いまで込み上げてきました。

Follow me!

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました