しのぶにうながされても裕子は暫くためらっていたが、やがて覚悟を決めてパンツスーツを脱ぎ出す。
(今は難しくても……いずれあいつらの弱みをつかむチャンスがあるはずだわ。その日のために一時の屈辱に耐えるのよ)
まるで香織たちに洗脳されたように従順になっているしのぶからは、当面は情報を引き出すのは難しいかもしれない。しかし香織はともかく、黒田や沢木といった男たちは幾分付け入る余地がありそうだ。
まして盗撮の現場を裕子自身に見咎められたこともある脇坂となれば、脇が甘いことこの上ないだろう。
(見ていなさい。そのうち思い知らせてやるから)
裕子はそう心の中で誓うと、大胆にスーツとシャツブラウスを脱ぎ去り、ベージュ色のボディスーツ姿になる。
裕子は改めて香織から渡されたビキニを手にとって見る。それは衣類であることが信じられないくらい面積の小さい布と紐で作られており、裕子は改めて屈辱に胸が熱くなるのを感じる。
ふと顔を上げると、ほぼ水着を着け終わったしのぶがこちらに後ろを向けて、ブラの位置を調整しているのが見えた。パンティは三角形の布と紐で構成されているため、しのぶの形の良いヒップは完全に露出している。裕子はそのしのぶの後ろ姿を見て愕然とするとともに、羞恥で頬は真っ赤になる。
(あんな格好を……私もしなければならないの?)
衝撃に裕子の動悸は激しくなるが、ここでためらっても妙案が出て来る訳でもない。裕子は深呼吸して心を落ち着け、ボディスーツを脱ぎ捨てる。
思い切ってパンティも脱ぎ、全裸になった裕子は実に情けない気持ちで、豹柄のビキニを身につける。ジョギングやトレーニングで鍛えているとは言っても、42歳になる熟女の豊満な肉体にTバックのビキニはあまりにもアンバランスだった。わずかに垂れ気味の豊乳を、ブラの小さな布が申し訳程度に覆っている。
さらに刺激的なのは下半身である。裕子のパンティの三角の布からは、ふさふさとしたアンダーヘアが盛大にはみ出している。そのあまりに淫靡な風情に裕子は慌てて、はみ出した陰毛を小さな布の中に押し込める。
バックヤードは店員の更衣スペースをかねているのか、壁に大きめの姿見が取り付けられている。そこに映った自らの後ろ姿に、裕子はさらに衝撃を受ける。Tバックビキニの細紐はほぼ完全に裕子の臀裂に隠れ、迫力満点のヒップが丸出しになっているのだ。
(後ろから見れば裸同然じゃない……)
裕子は、香織が2人のために選んだビキニの柄に、果てしないまでの悪意を感じる。豹柄と縞模様のそれはあまりに扇情的で、まるでいかがわしいショーの踊り子がつけるようなものなのだ。
こんな格好で脇坂たち脂ぎった中年男とともに走らなければならない。また、いかに早朝とはいえ人通りが全くないということは考えられない。朝が早い老人、夜勤明けの勤め人、そして何より早朝ジョギング愛好者などが考えられる。彼らがトレーニングウェア姿の中年男に囲まれて半裸で走る自分やしのぶを見たらどう思うだろうか。
(良くていかがわしいビデオの撮影、下手をすると頭がおかしい女だと思われかねないわ……)
知り合いに見られたらどうしたら良いのか――裕子は当初感じていた屈辱や羞恥といったものから不安と恐怖の方が上回り、情けないことにガタガタと足が震え出すのだ。
「行きましょう、小椋さん」
裕子が着替え終わったのを確認したしのぶが促し、あっさりとバックヤードの外へ出る。裕子も慌ててしのぶの後について出る。
「ひゃあっ」
「すげえっ」
脇坂の仲間たちが、Tバックビキニだけを身に着けた美しい人妻2人が現れたのを見てどよめきに似た歓声をあげる。
裕子は思わず両手で胸元を覆うようにするが、男から一段下がったところに立つ香織から鋭い声が飛ぶ。
「隠すんじゃないわよ。昨日は2人とも皆の前にお尻の穴まで晒したんでしょう
裕子は香織のその言葉に、先程までの燃えるような反発心が急速にしぼんで行くのを感じる。
「2人とも、気をつけ!」
しのぶは反射的に香織に指示された通り、直立不動のポーズをとる。裕子は一瞬ためらったが、仕方なくすぐにしのぶと同じ姿勢をとる。
香織の言う通り、昨夜「かおり」の店内で、2人の美人妻の肉体の隅から隅まで鑑賞した脇坂たちだったが、朝日の下で見るしのぶと裕子のビキニ姿はその非日常性もあいまってたまらなく刺激的だった。
(ああ……見られている)
裕子はきわどいTバックビキニだけの半裸身に、男たちの熱い視線が突き刺さるように感じる。屈辱、羞恥、そんな感情に翻弄される中で裕子は、一昨夜「かおり」で聞こえた悪魔的な囁きが、再び頭の中に響くのを感じるのだ。
──もっと、もっと惨めになりたい。もっと笑いものになりたい──
我に返った裕子は幻聴を振り払うように嫌々と頭を左右に振る。香織はそんな裕子をさも楽しそうに眺めている。
「ジョギングの前に軽くストレッチをしましょう。2人ずつペアを組んで頂戴。しのぶは赤沢さん、裕子は脇坂さんと組むのよ」
やった、と歓声をあげたのは赤沢という名の小男である。チビ、メガネ、禿げという女に嫌われる三要素がそろった赤沢は脇坂の呑み友達の不動産屋であるが、痴漢の常習犯であり、何度か警察の説諭をくらっただけでなく、留置された経験まである。しかしながらのらりくらりと言い抜ける名人でもあり、なぜか送検まで至ったことはない。
脇坂もニヤニヤ笑みを浮かべて裕子に近づく。裕子は気力を奮い立たせて脇坂を睨みつけようとするのだが、一昨夜脇坂によって完膚なきまで犯し抜かれた記憶が蘇り、なぜか気弱に目をそらしてしまうのだ。
「へへ……奥さん、大丈夫かい? あれだけ犯られちゃあ、腰の蝶番が外れているんじゃないかと心配してたんだが、流石にいい身体をしているだけあって、一日寝りゃあ元に戻ったみたいだな」
裕子はかっと頬が熱くなり、顔を伏せる。
「おやおや、可愛いじゃねえか。真っ赤になっちまって。俺にすっかり惚れてしまったか」
脇坂の軽口に男たちはどっと哄笑する。
「脇坂さん、無駄口はそれくらいにしないと陽がのぼっちゃうわ。さあ、はじめて」
香織の声に脇坂と赤沢は裕子としのぶの手を取り、ストレッチを始める。他の男たちもブツブツ言いながら2人ずつ組んで4人にならう。
「一、二、一、二……裕子、何をしているの。もっと深く曲げなさい」
脇坂と裕子は向かい合って足を開き、互いの手を相手の肩先に置いて身体を深く曲げる。香織の掛け声に合わせて肩を上下させるたびに裕子の豊満な乳房がタプタプと揺すぶられ、それだけで脇坂の股間の肉塊は鉄のように堅くなる。
赤沢としのぶは手を組み互いの背中を合わせて、順番に自分の背に相手を自分の背に乗せる。背筋をぐっと伸ばされて、しのぶは赤沢の背の上で「ううっ」とくぐもった呻きを上げる。
「へへっ、たまんねえぜ。こんな体操ならいつまでもやっていたいや」
赤沢は調子に乗って「それ、それっ」と掛け声を上げながら身体を揺さぶり、しのぶの裸の尻肉が自分の背中の上で浮いたりへしゃげたりする感触を楽しんでいる。
ようやく淫靡なストレッチが終わり、裕子としのぶは再び直立不動の姿勢ではあ、はあと息をついている。早朝といえど季節は夏の終わりであり、気温も随分上がってきている。裕子としのぶの肌にはうっすらと汗が浮かんでおり、豹柄と縞模様のビキニは汗に濡れ、ぴったりと身体に張り付いているのだ。
第44話 人妻全裸快走(2)

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