デジタルビデオで撮影していた沢木はそんな滑稽なまでの裕子の演技に思わずプッと吹き出すが、やがて裕子の裸身が薄いピンク色に染まり、細かい汗が肌を覆っていくのを見て改めてカメラを構える。
「ああ……裕子……こんなに燃えちゃっているの……お願い、早く……」
もちろん裕子は夫の道夫に対してこのようなはしたない言葉を吐いたことはない。おまけにここのところ道夫とはずっとセックスレスの状態にあるのだ。
(こんな姿を道夫さんがみたら……どんな風に思うだろう)
裕子は脳乱する神経の中でそんなことをぼんやり考えていたが、やがて込み上げるマゾヒスティックな性感に引き攫われ、目は眩み、思考は散り散りになっていくのだ。
「そら、先輩奴隷の癖に何をぼんやりしているんや。おまえも負けずにいわんかい」
黒田は、誰に見られるかもしれない屋外であることも忘れたかのように、裕子の隣で切なげに裸身を悶えさせているしのぶの双臀をピシャリと叩く。
しのぶはしっとりと濡れたような目を薄く開くと、カスレ気味の声で強制された言葉をつぶやくのだ。
「あ……あなた。しのぶのオマンコにあなたのた、たくましいオチンチンを……お願い」
「何がお願いなんや、ええ、はっきりいうてみい」
香織に夫とのセックスを禁止されて以来、夫のそれを受け入れたことは絶えてないが、しのぶはデジタル写真上の拡大されたそれがまるで本物のように迫って来るような錯覚を感じるのだ。
「しのぶの中に……挿れて……ねえ」
脇坂や赤沢たちはそんなしのぶの恥ずかしい訴えを聞いてどっと笑いこける。裕子としのぶはもはやそんな観客の野次や歓声も気にならないかのように、切なげな声を吐きながら競い合うように悦楽の頂上へと向かって行くのだ。
「ゆ、裕子、イキますっ」
「ああっ、しのぶも、いくっ」
2人の美夫人は絶息するような声を上げ合うと、爛熟した肢体をほぼ同時にブルブル震わせ、かつて味わったことのないような妖しいまでの快楽の絶頂を極めるのだった。
東公園の自治会集会場、住民の目に触れる掲示板に貼り出されたそれぞれの夫の性器のクローズアップ写真の前で、素っ裸のまま大股開きで恥ずかしい絶頂を晒し合った裕子としのぶは、快感の余韻でふらつく足取りを黒田や脇坂たちに支えられながら沢木の車に乗せられ、香織のマンションへと帰って行った。
そこで裕子としのぶは興奮した脇坂や赤沢たちに口唇での奉仕を強いられた。出勤前であった4人の男たちは慌ただしく欲望を遂げると、名残惜しげに香織のマンションを立ち去るのだった。
沢木もさすがに連日会社をサボる訳にも行かず、渋々出勤して行く。
残された2人の美夫人は、香織のマンションで素っ裸のまま2時間ほど仮眠を取った後シャワーを浴び、化粧を直して、裕子は大学の講義へ、しのぶは久しぶりに家へと向かった。もちろん2人とも夕方までに「かおり」に出頭し、夜のショーに出演するための調教を受けることを誓わされたのは言うまでもない。
物語はいったん、裕子としのぶが屋外オナニーを強制されたその日の朝にさかのぼる。
東中の英語教師、小塚美樹は酔いでズキズキする頭を抱えながら自宅のマンションへ向かっていた。
今月何度目かの朝帰りである。
都心のまず名門と言って良いR学園女子大学に通い、卒業後すぐその付属中学に赴任した美樹が、最初の職場を事実上追い出される形で退職し、郊外のニュータウンの新設校である東中に移ってきたのは今から2年半前のことである。
美樹が前の職場にいられなくなったのは、同性愛者である彼女がこともあろうにいまだ14歳の教え子に性的な行為を強要したせいである。
前代未聞といって良いそのおぞましい事件は、被害者である女生徒のプライバシーと、何よりも名門校の体面を守るために秘密裏に処理された。その結果美樹は「家庭の事情による希望」という理由で、特に経歴に傷が付くこともなく、教師不足に悩んでいたAニュータウンの東中に移ることが出来たのである。
美樹はそれまで暮らしていた学園が運営する職員寮も当然追い出され、Aニュータウンの東公園近くの賃貸マンションに転居した。
しかし学生時代から一貫して華やかなR学園で過ごして来た美樹にとって、刺激の少ない新興住宅地、そしてそこの公立の共学校である東中はまったく肌に合わなかった。勤務をそこそこに切り上げた後はR学園時代に遊び場にしていた渋谷や表参道に向かうのだが、美樹がR学園付属中を辞めた理由を薄々知っているかつての友人たちは、なかなか付き合おうとはせず、美樹は痛切な疎外感を覚えることとなった。
さらに美樹を苦しめたのは東中での禁欲生活である。美樹は同性愛者であるだけでなく、相手が少女でないと駄目で、しかも加虐的な性癖をもつという三重の倒錯者であるのだ。
美樹が自分の欲望を思い切りぶつけたいと思うのは、R学園での相手がそうだったように、気が強く成績も良い美少女である。しかし美樹が再びそういった行為に及べば今度こそ社会的に抹殺されるだろう。
「不公平だわ……男女の間ならやりたい放題なのに……」
欲求不満に悩む美樹はぶつぶつと呟き、心の中の言葉が口をついて出たのに気づいてはっとする。本能的にキョロキョロとあたりを見回した美樹の目に、信じられない光景が飛び込んで来た。
(何かしら? あれ……)
美樹が借りているマンションのほど近くにある東公園の近くに差しかかった時、公園のフェンスの向こう、自治会の集会所の裏手に数名のトレーニングウェア姿の男たち、そして彼らに囲まれて白い肉体が蠢いているのが見えたのである。
(女の裸じゃない……!)
美樹は息を潜め、足音を立てないように公園に入り、集会所の壁にぴったりと背を付けて覗き込む。
(あれは……加藤健一の母親と、PTA会長の小椋夫人だわ……)
美樹はあまりの衝撃に息を呑む。加藤健一は美樹が担任しているクラスの生徒であり、保護者懇談でしのぶとも何度か会ったことがある。また、裕子の娘である里佳子は担任ではないが同じ学年で、当然美樹が英語の授業を受け持っていた。
現在中学3年である里佳子が入学して来たのは、美樹が東中に転任したのと同時期だが、はじめて里佳子を教室で見た瞬間、美樹はすっかり心を奪われたのである。
美貌、学業優秀、そして勝ち気な性格、里佳子はすべてにおいて美樹が理想とする相手だった。たちまち心の中に、なんとしても里佳子を口説き落として、自分のペットにしたいという狂おしいほどの欲望が湧いてくるのを美樹は必死で押し止どめた。
それ以来2年半、年を経て里佳子は成長するにつれてますますその美貌を増し、美樹は自分の欲望を殺すために極力里佳子を避けるようにした。
美少女好みのレズビアン(同性愛者でもロリコンという表現が存在するのなら、美樹はまさにそれだった)、そしてサディスティンという本性を隠している限りは、美樹は宝塚の男役を思わせる美貌の持ち主であり、生徒からもまずまず慕われていた。美樹がなぜ自分だけにそっけなくするのか、里佳子の方が不審げな顔をすることも再々だったのである。
「…………!」
何か聞き取れない言葉を発し、裕子としのぶが全身をブルブルと震わせた。同時に男たちが手にもったデジタルカメラやカメラ付携帯のシャッターを切る。フラッシュを浴びながら陶然とした表情を浮かべる2人の美夫人――。
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