「お前、慶応の学生だって?」
A工業高校の野球部部室で野球部顧問の飯島はソファにふんぞり返り、貴美子の履歴書とソファの前に立たされた膝上20センチのミニスカート姿の貴美子の太腿を交互に眺めている。
貴美子の上半身も短いタンクトップに、すべてボタンを外したジャケットを羽織った、臍まで見えそうな扇情的な姿である。
日頃はジーンズなどのパンツ姿で、ミニスカートなどはいたことがない貴美子がこのような姿をしているのは、もちろん龍によって強制されたからである。そんな姿を初対面の飯島の前で晒さなければならない辛さと羞恥に、貴美子は消え入りたいような思いで耐えているのだ。
「は……はい」
「何年生だ」
「1年生です……」
「学生証を見せて見ろ」
貴美子はバッグの中から学生証を取り出し、飯島に手渡す。
顔写真入りの学生証を確認した飯島は驚きに目を瞠るとともに嗜虐的な笑みを浮かべる。飯島自身はいわゆる「大東亜帝国」に属する大学出身であり、慶応などのエリート校の学生やその出身者には激しいコンプレックスを抱いているのだ。
「そのお偉い慶応の学生が、どうしてこんな三流高校の野球部のマネージャーなんぞになりたいんだ」
「ハ、ハイ……たまたまこちらの練習風景を見て、部員の皆さんが熱心に練習をしている姿に感激して……」
「ふん……」
飯島は鼻を鳴らす。A工業高校はかつては野球の名門で鳴らしたことはあったが最近はまったく沈滞しており、部員の士気も極限まで下がっている。練習態度が不真面目なことは飯島の目にも余るような状態である。そんなものを見て感激することなどありえない。
昨日久々に訪れた「かおり」で龍と香織から、小椋貴美子をA工業高校の臨時職員兼野球部マネージャーとして雇うことを依頼されたとき、香織の意味ありげな態度から何か裏があるなと飯島は感じたが、当面は深く追求するつもりはなかった。
この知性美を感じさせる新鮮な女子大生が、自分からこんな不良高校の野球部のマネージャーになりたいなどといってきたのだ。これはゆっくり楽しめるに違いない。
「どうしてもなりたいのか」
飯島は念を押すように貴美子に尋ねる。
「ハイ」
うつむいて小声で答える貴美子。
「声が小さいっ」
飯島はいきなりビックリするような大声を出す。貴美子はどきっとして顔を上げ、条件反射のように「ハイッ!」と大声を上げる。
「そんなになりたいのならいいだろう。学外の人間、それも現役の大学生をマネージャーにするのは異例だが、どうせうちの学校は共学にもかかわらずほとんど女っ気がないから、もともとマネージャーのなり手がない」
飯島はもったいぶって答える。
「形としては学校が、用務員補助の臨時職員として雇うことになる。時給は既定で550円だ」
「わかりました……」
慶応の学生である自分が、ハンバーガーショップの高校生のアルバイトよりも安い時給で、用務員の補助として勤務する──その気になればもっとプライドが保て、条件の良いバイトはいくらでもあるはずなのに。
(ああ……どうしてこんなことに)
元々勝気な貴美子は、口惜しさにぐっと唇をかみ締める。龍に決定的な弱みを握られてさえいなければ、こんな屈辱を受けることはなかっただろうに。
(結局母とは相談できなかった……)
龍の真珠入りの逸物で一晩中犯され、そうろうとした足取りで家に戻った貴美子はその日は学校を休み、疲労とショックで一日中泥のように眠った。
次の日、幾分冷静さを取り戻した貴美子は、龍に強姦されたことを警察に届けようかと真剣に考えたのだが、その際に撮られたビデオや写真が流出することを考えると踏ん切りがつかない。母の裕子に相談したくてもその日も朝早くから家を出ており、深夜になっても帰らない。祈るような思いで何度も母の携帯に電話やメールをするのだが、まったく応答はなかった。
もちろん裕子の携帯は夫の道夫の携帯と同様、香織の手によって押さえられていた。貴美子の窮状を訴える悲痛なメールも、香織、黒田、沢木らの酒の肴になるだけだった。
「ただし、なるからには中途半端は許さん。マネージャー業務を完璧にこなすんだ、わかったな」
飯島は胸を反らすと、もったいぶった口調でいう。
「ハ……ハイ」
「本当はなぜなりたいんだ、え?」
「なぜって……」
飯島の質問に貴美子は怪訝な表情をする。
「先ほど申し上げたとおりですわ……部員の皆さんの野球への情熱にうたれて」
「嘘をつけっ」
飯島は大声で決め付ける。びくっと身体を震わせる貴美子。
「男子高校生の身体を漁るつもりだろう、この色狂い女が」
「馬、馬鹿なことを言わないで下さい。どうしてそんな──」
険しい表情で否定する貴美子の頬に、飯島の平手打ちが一閃する。
「あっ」
痛みよりもいきなり頬を打たれた驚きに、唖然とする貴美子。
「いい加減なことをいうと許さんぞ。自慢じゃあないがここの部員の練習を見て野球への情熱が感じられるなんて思うやつは千人のうち一人もおらん」
「そんな……私は……」
「慶応の女子大生も、最近は随分派手な格好をするようになったもんだな」
飯島はいきなり貴美子の胸に手を伸ばすと、柔らかい乳房をぐいと鷲しづかみにする。
「な、何をするんですっ」
「こんないい身体をしおって……それにその扇情的な服装はなんだ。男をたぶらかす目的以外何ものでもないじゃないかっ」
「ち、違います……やめてください」
貴美子は口惜しげに答えるが、龍に強制された露出度の高い服装を見につけていることは事実なので、反論する言葉に力がない。
「そんなに自分の身体を見せつけたいのなら、望みをかなえてやろう。勤務中はこれがお前の制服だ」
飯島はビニールの袋の中から衣装を取り出すと、貴美子に投げつける。それを拾い上げて広げた貴美子は、驚きに目を丸くする。
「これは……」
それは極端なローライズで、かがんだら尻の割れ目までが露わになるジーンズのホットパンツ、臍まで完全に露出するTシャツ、そしてご丁寧に2、3枚の真っ赤なTバックのパンティまで添えられていた。
「勤務中身に着けることが出来るのはそれと運動靴だけだ。ブラジャーの着用は許さん」
「そんな……こんなもの……着れません」
第74話 奴隷マネージャー(1)

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