167.敗北の兄妹(7)

「そ、そんなこと……絶対に出来ませんわっ」
「最初は誰でもそう言うのよ。だけど、血の繋がったもの同士でつるみ合うのって、背徳的って言うのかしら――独特の快感があるみたいですぐにみんな病み付きになるわ」
マリがそう言ってくっ、くっと笑い出す。
「現にそこの美紀奥様なんか昨夜、実の息子の文夫にオマンコなめられて、大きな声を張り上げながら派手に気をやったのよ」
それまでじっと何かを耐えるように下を向いていた美紀夫人がそんなマリの言葉に堰が切れたようにわっと泣き出す。
「そや、その上、義理の息子に当たる津村はんとは平気で腰を振り合うし、義理の娘の美津子とはオマンコすり付け合いながら鼻を鳴らしてキスするまでするし、上品な見かけによらず、セックスにかけたら見境なしのたいした淫乱奥様や」
追い打ちをかけるように義子がそう言うと、美紀の泣き声は一段と高くなる。
「うるさいね、ぎゃあぎゃあわめくんじゃないよっ!」
急に銀子が声を荒げて叱咤する。美紀の悲鳴のような泣き声は収まるが、久美子と絹代を加えた三人のすすり泣きの声は地下の倉庫の中に響き続ける。
そんな三人の美女の泣き声に、まるで美しい音楽を聴くかのように楽しげに耳を傾けていた田代が、同じくニヤニヤ笑いながら銀子たちと絹代や美紀とのやりとりを眺めていた森田に話しかける。
「そろそろ調教を始めた方がいいんじゃないか、親分。岩崎親分の到着まであまり時間がないだろう」
「そうですね」
森田は頷くと、銀子に目で合図する。銀子もまたニヤリと笑って頷くと、改めて久美子たち三人の女に向き直る。
「明後日の岩崎親分の歓迎会は、森田組と葉桜団が総力を挙げて取り組むことになっているんだ。あんたたち三人も例外じゃないよ。京子や小夜子たちのようにレズビアンや、男役者を相手にした白黒ショーを演じてもらうには時間が足らないが、三人が出来る限りのことをやってお客様の機嫌をとってもらわなきゃならないんだから、そのつもりで頑張るんだよ、いいね」
銀子がそう決めつけるように言うが、三人の女達はすべての希望が失われた悲しみに、ただすすり泣くばかりである。
「逆にあんたたちがお客様の機嫌を損ねると小夜子や文夫、珠江夫人や美沙江にその分のとばっちりがいくんだよ。わかっているね」
そう付け加えた銀子が、シクシクと泣き続けている三人の女に苛立ったよう「聞いているのかい、わかったら返事をしなっ!」と大声を張り上げる。
「わ、わかりました……」
久美子がびくんと肩先を震わせてそう返事をすると、美紀夫人と絹代夫人も小さな声で「わかりました」と答える。
そんな銀子の調教振りを満足そうに眺めていた田代は、ふと気づいたように森田に話しかける。
「そう言えば、せっかく捕まえた金髪の別嬪さんをショーに出さないのかい?」
「それはあっしも考えていたんですが……」
森田が、山崎の隣で顔を俯けてすすり泣いているダミヤを見ながら首をひねる。
「あれだけの美人だし、身体付きも静子夫人に引けをとらねえ。その上、金髪の外人女とくれば舞台映えすることは請け合いじゃないか」
「それは確かにそうなんですが、何しろあと二日ですからね。調教するにも人手が足りねえや」
「ジョーやブラウンと組ませてみたらどうだ。白人と黒人、これが本当の白黒ショーだ」
田代の提案に鬼源は苦笑する。
「社長は簡単に言いますが、白人女ってのは黒人と絡まされるくらいなら死んだ方がましって手合いが殆どなんで。それに、さっき浣腸されたせいか今はおとなしくしていますが、フランス女ってのは特に気位が高いし、あれは相当のじゃじゃ馬女ですぜ」
「そうか、それじゃあ仕方がないな。戦争中に南方で苦労した岩崎親分が喜びそうな趣向だと思ったが」
田代のその言葉に森田は何やら考え込んでいたが、やがて「駄目元で、捨太郎を使ってみますか」と言う。
「捨太郎を? 奴は珠江夫人と組ませるんじゃねえのか?」
「昼のショーじゃそうなってますが、夜の部の出番がないんで。今、この屋敷で他に奴の相手が出来るのは静子夫人と京子くらいのもんですが、静子夫人はあの通り腹ボテですし、京子は昼の部では文夫と組むことになってます」
森田はそこまで言うと心持ち声を潜める。
「それに奴はここんところ、欲求不満気味なんでさあ。静子夫人の代わりに珠江をあてがおうとしたんだが、大塚先生が何のかんの言って珠江を独占したがるもんで」
「あの女にも困ったもんだな」
田代は急に渋い顔をする。
「前衛華道だかなんだか知らないが、実演ショーやブルーフィルムにはそんなものは必要ない。だいたい女のあそこや尻の穴に花を飾ってどこが面白いんだ」
「あれ、社長はこの前、人間花器ってのはあれで中々面白いって言ってませんでしたっけ」
「そんなことは言ってないぞ」
「あっしの気のせいですかね」
森田は首を捻る。
「ま、それはいいや。とにかく捨太郎は今回の山崎との一戦での最大の殊勲者ですから、褒美として金髪の別嬪さんをしばらく預けてやるのもいいでしょう」
森田はそう言うと改めてダミヤの見事なまでの裸身に目をやる。
文字どおり白磁に輝くその肉体は、まるで大理石で作られたギリシャ神話の女神の姿を思わせる神々しさを感じさせる。キラキラと輝く美しい金髪が二筋、三筋うなじに絡み付く凄艶なまでの色気は見るものを奮い立たせずに入られない。静子夫人も小夜子も確かに日本人離れした美人だが、白人であるダミヤの裸身を見ていると近寄り難ささえ感じさせる。
それは実際の美しさもさることながら、日本人が欧米人に対して抱いているコンプレックスが原因のひとつではないかと田代は考える。明治維新の後、欧米諸国に追いつこうと必死で近代化の道をたどってきた日本が、日清・日露の両戦争で勝利したことに過剰な自信を抱き、彼らに無謀な挑戦を行った太平洋戦争――。
その戦いで無残なまでの敗北を喫した日本は、戦後しばらくの間、米国を中心とするいわゆる連合国の属国となり、彼らの精神的な奴隷の地位に転落した。
そんな日本人にとって白人女、特にその中でもプライドの高さで知られるフランス女は、憧憬とともに抜き難いコンプレックスの対象であった。
南方で従軍した岩崎だけでなく、田代も森田も戦争体験者であるし、葉桜団の女たちも幼いころガード下でたむろし、掏摸やかっぱらいが日常のギリギリの生活を強いられた戦争孤児であった。
そんな戦争体験を持つ人間にとって気位の高い白人女が、日本人のそれも旺盛な精力だけが取り柄といってよい捨太郎に犯されるのは絶好の見ものだろう。
抜かず三発どころか五発でも、六発でも可能な捨太郎は色事に関しては一種の超人である。ダミヤが捨太郎の巨根に背後から貫かれてヒイヒイ泣き声を上げる様子を想像するだけで、田代と森田の心は熱い嗜虐の快感に満たされて行くのだ。
「い、嫌っ!」
「そ、そんなっ」
突然そんな黄色い悲鳴が響いたので田代と森田ははっと我に返る。見ると義子、マリ、そして朱美の三人がそれぞれ絹代、久美子、美紀の足元にまとわり付くようにしながら、鈴縄を腰の回りに巻き付け、さらに股間を通して締め上げようとしているのだ。

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