276.被虐の兄妹(3)

 暗い舞台に突然スポットライトの丸い光が放たれ、若い女の姿が浮かび上がる。
 若草色のスーツにベレー帽をまとい、驚いて目を見開いた女は山崎探偵の妹、久美子である。
 山崎は、美女を誘拐しては人身売買の闇市場に売り捌いているという噂がある森田組の調査をしていたころ突然消息を絶った。
 山崎の助手でもある久美子は兄の仕事を引き継ぐことが、行方知れずとなった兄を見つける手段でもあると考え、森田組と関係が深いと言われるズベ公集団、葉桜団の悦子と接触した。そして悦子の情報によって、ついに美女たちが幽閉されていると思われる場所が森田組を支援する実業家、田代一平の屋敷であることを突き止めた。
 しかしながら、悦子の手引きで田代屋敷に侵入を果たした久美子の前に待ち受けていたのは、十人近い森田組のやくざたちだったのである。
 罠に落ちたことを覚った久美子は咄嗟に身構え、辺りを素早く見回す。
「逃げようとしても無駄だ、お嬢さんはすっかり囲まれているぜ」
 やくざたちのリーダー格と思われる男――吉沢が一歩前に出る。
「怪我をしたくなけりゃおとなしくするんだ」
 吉沢はそう言うと久美子に近寄り、右手を掴むと後ろにねじり上げようとする。
「何をするのよっ」
 激しい嫌悪感を覚えた久美子は反射的に身体を捻ると、吉沢の腹に向かって蹴りを放つ。
「ぐっ」
 鳩尾にまともに蹴りを食らった吉沢は、腹を押さえて膝をつく。
「このアマっ」
 吉沢の後ろに控えていたチンピラ二人――竹田と堀川が両側から久美子に飛びかかる。久美子は身体を独楽のように回転させながら竹田の顎に蹴りを放ち、堀川の首筋を手刀で撃つ。
 三人の男があっという間に倒されたのを見たやくざたちの間に動揺が走る。
「気をつけろ、この女、空手を使うぜっ」
 川田の警告に、男たちは浮き足立つ。
 かつて京子と対峙した男たちは、空手使いの恐ろしさを骨身にしみるほど知っている。久美子は京子のような有段者かどうかは定かではないが、その身のこなしと三人の男たちを倒した実力から見ると素人ではないことだけは確かである。
「清次、いけっ」
 川田は傍らの清次に声をかけるが、京子に散々叩きのめされたことがある清次はまったく足が動かない。清次の仲間の三郎や五郎も同様である。
 男たちが怯んでいるうちに血路を開いて逃げよう、久美子がそう考えたとき舞台の右手から二人の女が素っ裸の男を引き立ててくる。
 男の身体は痣だらけで、口には堅く猿轡が噛まされている。女の一人――銀子が男の髪を掴んでぐっと顔を引き上げると、久美子の喉から悲鳴が迸る。
「に、兄さんっ」
 無残な兄――山崎の姿を目にして棒立ちになった久美子を見てニヤリと笑った銀子は次に、男たちの顔を見回すと苦笑する。
「こんなことだろうと思ったよ。大の男がそろいも揃ってだらしがないね」
 銀子がそう言うともう一人の女――朱美がポケットから折り畳みのナイフを取り出し、パチンと音を立てて開く。
「まあ、だらしがないのはこの男も同じだけどね」
 朱美はそう言ってニヤリと笑うと、山崎の股間にナイフの刃先を当てる。
「おとなしくしないとお兄さんの大事なものをバッサリ切り落とすよ。お兄さんがお婿に行けない身体になってもいいのかい」
 朱美がそう言うと銀子がさもおかしげにケラケラと笑う。
「くっ……」
 口惜しげに顔をしかめる久美子の表情を、銀子と朱美は楽しげに眺めている。
「さあ、どうやって料理しようかねえ。男たちが随分痛い目にあったみたいだけど」
 銀子はそう言って男たちの顔を見渡す。
 銀子と視線が合った吉沢は久美子に蹴られた腹を押さえながら立ち上がると「このアマ、男を足蹴にしやがって」と怒声をあげてつかみかかろうとする。
「およしよ、吉沢さん」
 銀子が制止の声を上げる。
「何で止めるんだ」
 吉沢が目を三角にして抗議する。
「女相手にタイマンの勝負に負けた上、抵抗の出来ない女に殴る蹴るの折檻を加えるのは、男の沽券にかかわるんじゃないかい」
 銀子にそう指摘されて吉沢はぐっと黙り込む。
「それに、見ればなかなかハクい女じゃないか。顔に傷でも付けちゃもったいないよ。こんなじゃじゃ馬娘にはそれなりのお仕置きを加えないとね」
「何か考えがあるみてえだな」
 後ろから川田が一歩進み出る。銀子は川田に近づき耳元に何事か囁きかける。
「なるほど、面白えじゃねえか。そういうことならこの場はおめえたちに任せるぜ」
 銀子の話を聞いた川田はニヤリと笑う。
 銀子は久美子に向き直り、「お兄さんを助けて欲しいかい」と尋ねる。
 久美子がこくりと頷くと、銀子は「それならこの場でストリップを演じるんだ」と命じる。
「な、何ですって」
 驚愕に目を見開く久美子に銀子は「聞こえなかったかい、ストリップだよ」と繰り返す。
「じゃじゃ馬のお嬢さんはストリップを知らないのかい」
 朱美がニヤリと笑うと手に持ったナイフをパチンと閉じて銀子に放り投げる。
「こんな風にやるんだよ。ねえ……」
 朱美は両手を腰の辺りに当ててなよなよと身体をくねらせながら、ジーパンのベルトを外し、ゆっくりと下ろし始める。
「ねえ……見て……ねえ……」
 朱美はそんな甘ったるい声を上げながらジーパンを下ろしていく。レースの縁取りをあしらった玄人っぽいパンティに包まれた尻が露出し始めたので、男たちは喝采の声を上げる。
「よっ、朱美ちゃん」
「待ってました」
 朱美は双臀の半ばまでジーパンを下ろすと、男たちを焦らすようにすっと戻す。次にTシャツに包まれた乳房を両手で持ち上げるようにしながらもどかしげに腰部をくねらせる。そして男たちの興奮が少し収まったのを見た朱美は再びジーンズに手をかけ、一気に足元まで下ろすのだ。
「だいたい要領は分かっただろう、ここらで選手交代だよ」
 朱美に声をかけられた久美子は、呆然と立ち竦んでいる。
「朱美がやったように男を挑発するように服を脱いでいくんだ。素っ裸になるまでやるんだよ。いいね」
 銀子が冷たい声で久美子に命じる。逡巡している久美子に苛立ったように、朱美は銀子から戻されたナイフを再び開き、山崎の肉棒の根元に当てる。
「愚図愚図するんじゃないよっ。あたしは気が短いんだ」
 朱美はそう怒鳴るように言うと、山崎のその部分にあてがったナイフをすっと横に引く。山崎の内腿に赤い血が一筋流れ落ちたのを見た久美子は「やめてっ」と金切り声を上げる。
「どうなんだい、やるのかい、やらないのかい」
 朱美に迫られた久美子は「や、やるわ」と震え声で頷く。それを聞いた男たちからどっと歓声が湧き上がるのだった。

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