舞台は変わり、背景には地下室の石造りの壁のような書き割りが置かれている。スポットライトに照らされた中央には山崎が相変わらず猿轡を噛まされた全裸のまま、両手を天井から垂らされた鎖で吊られ、両肢を大きく開かれてこれも床の鎖に繋がれている。
舞台後方には森田組のやくざたちが腕組みをしてずらりと並んでいる。
舞台左手に新たなスポットライトの輪が浮かび上がり、パンティ一枚の久美子が銀子と朱美、そして義子とマリといった葉桜団のズベ公たちによってによって引き立てられてくる。
「森田組に散々楯を突いた探偵さんにヤキを入れるんだ」
銀子がそう声をかけると、葉桜団の女たちはわっと歓声を上げる。
「まずは金蹴りの刑だよ。覚悟は良いね、探偵さん」
銀子は冷酷そうな視線を山崎に向けると久美子の方を振り返り「さっき言い聞かせたとおりお嬢さんも一緒にやるんだよ、いいね」と念を押す。
苦しげに顔を歪める久美子に朱美が
「言うとおりにしないとお兄さんの大事なものが切り落とされるんだよ。そうしたくなければ……」
と言うと、久美子は「わ、わかっていますわ。おっしゃるとおりにいたします」と答える。
「よし、それじゃ始めるよ。先鋒は義子だ」
銀子が声をかけると義子が「よっしゃ」と言って立ち上がる。
「手加減せえへんで。探偵さん」
義子は山崎の方へ小走りに駆け寄ると、その股間に向かって足を跳ね上げる。
「ぐうっ」
義子の爪先が山崎の急所に命中し、山崎は猿轡の下で「ぐうっ」と蛙が潰されたような声を上げる。
「なんや爪先にぐにゃっとした感触があったわ。ああ、気持ちわる」
義子が両手を拡げてそう戯けると、壁際に並んだやくざたちからどっと笑い声が湧き上がる。
「次はマリだよ」
「よしっ」
マリはすたすたと山崎に近寄り、その裸身に密着するような姿勢を取る。いったいどうするつもりかとズベ公仲間が見守る中、マリはニヤリと笑うといきなり山崎の股間に膝蹴りを喰らわせる。
「ぐっ」
激しい痛みに山崎は白目を剥く。そんな山崎を眺めながらマリは「きゃははは」とけたたましい笑い声を上げ、山崎の股間に何度も何度も膝蹴りを繰り返す。
「マリ、そろそろやめな。玉が潰れてしまうよ」
たしなめる銀子にマリは「あら、潰すつもりでやっているのよ」と答える。
「馬鹿だね。本当に潰してどうするんだい。選手交代だよ」
「ええっ、もう?」
「監督の命令は絶対だ。さっさと後に譲りな」
「はあい」
マリが不承不承と言った格好で後ろに下がると、銀子は久美子の肩をどんと叩く。
「さ、次はお嬢さんの番だよ」
久美子の表情が引きつるのを楽しげに見ながら「義子とマリが蹴るのを見ていただろう。あんな風に手加減しないでやるんだよ」と付け加える。
義子とマリはニヤニヤ笑いながら山崎の両側に立ち、久美子が逡巡する様子を眺めている。
「わ、わかりました」
久美子は悲痛な顔を山崎に向け、小走りで近づくと伸びやかな足を振り上げる。
「ぐっ」
山崎の苦痛の呻きが響く。その様子を見守っていた義子が「あかん、あかん。今のは的に命中してへんで」と声を上げる。
「そうそう、誤魔化しちゃ駄目だよ。お嬢さん」
マリもそう決めつけるように言う。
「何だい、あんなに言ったのに誤魔化したのかい」
朱美が目を吊り上げるとマリが「というより、このお嬢さん、直前で目をつむっちゃったんだよ。それでキンタマじゃなくて腿の内側を蹴ることになったんだ」と言う。
「そら的を外すのも無理ないわ」
義子がわざと呆れたような声を出す。
朱美が近寄って山崎の大きく開かれた肢を確かめる。確かに内腿の辺りが赤く腫れており、久美子の蹴りがその部分に炸裂したのは事実のようである。
「ふん、誤魔化そうが目をつむろうが、外したのは事実だよ。この落とし前は別に付けてもらうからね」
朱美はそう言うと久美子のいきなり両肩を掴み、山崎の身体に押し付けるようにする。
「あっ」
兄の裸身に自らの裸身を押し付けられた久美子は思わず狼狽の声を上げて身体を離そうとするが、義子とマリが面白がって朱美に加勢する。
「このまま、マリがやったみたいにお兄さんのキンタマを膝蹴りするんだよ」
「そ、そんな……」
「何がそんな、だ。的を外したお嬢さんが悪いんだろう」
朱美がそう言うと義子も「お兄さんの大事なチンチンが切り落とされてもかまわないのかい」と嘲るように言う。
「わ、わかりました。やります」
追い詰められた久美子は頷くと山崎に顔を向ける。
「許して、兄さん」
悲痛な声とともに久美子は片膝を山崎の股間に向かって振り上げる。
「ぐうっ」
兄の苦痛の呻きが猿轡から漏れるのを聞きながら、久美子は膝にはっきりと柔らかい感触を知覚する。
「もっと強くっ」
銀子の冷たい声。久美子は操り人形になったような気分で膝蹴りを放つ。
「うふうっ」
苦痛のあまり白目を剥く山崎。猿轡を嵌められた口元からだらしなく涎が垂れる。
「もう一度っ」
久美子は自棄になったように膝を蹴り上げる。ぐしゃっという何かが潰れるような感覚。悶絶する山崎。
久美子は精根尽きたようにふらふらと倒れ込む。
「あれれ、潰れちゃったかな」
マリが山崎の股間を覗き込む。
「妹に玉を潰されるなんて、悲劇と言うよりは喜劇だね」
「そう簡単には潰れんわ」
義子も山崎の股間を覗き込むと、いきなり睾丸を握る。
「ううっ……」
山崎は苦痛の呻き声を上げながら顔を上げる。義子は山崎の玉袋をぐいぐいと握り締めながら「大丈夫、ちゃんと二つあるわ」と笑う。
「お兄さん……ごめんなさい……ごめんなさい……」
久美子は床に座り込んだままシクシクと泣き続けるのだった。
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