288.無残千原流(4)

「そんな……そんな恥ずかしいこと、い、言えませんわ」
「駄目よ。言えないとおば様はずっとこのまま、殿方の前で恥ずかしいところを、ま、丸出しにしておかなければならないのよ。おば様はその方が良いというの?」
 美沙江はそう言うと観客席の方を向いて、
「ねえ、皆さま、遠慮せずにもっと傍にお寄りになって。おば様のこの恥ずかしい姿をご覧になってくださいな」
 と声をかける。
 やくざたちは我がちに舞台下に殺到し、珠江の羞恥の極限ともいうべき姿をかぶりつくように見ている。
「ああ……そ、そんなっ」
 男たちの視線が自分のその部分に集中していることを知覚した珠江夫人の身体は、激し羞恥と、同時に妖しい露出の快感にカッと熱くなるのだ。
「ねえ、おば様。おっしゃって」
 美沙江は珠江の腰部のあちこちに接吻を注ぎ込みながら催促する。
 そんな美沙江の、小悪魔のような姿を目の当たりにさせられている絹代夫人の胸の中に、激しい悲嘆と絶望がこみ上げてくる。
 掌中の玉とも言うべき美沙江の、京人形を思わせる清純さが汚泥にまみれ、変質していく様を見せつけられる苦しみ――それは母親である絹代夫人にとって身を灼かれるように辛いことだった。
 いや、美沙江だけでない。絹代夫人にとっては年下の親友でもあり、千原流華道にとってもっとも信頼すべき人物――折原珠江もまた悪魔の手で捕らえられ、数々の屈辱的な責めを受けて従順な女奴隷として変貌を遂げたのである。その美沙江と珠江が、女同士が肉を貪り合う倒錯の行為を衆目の前で強いられている――それは絹代夫人にとってまさに悪夢とでも言うべき事態だった。
 そしてその悪夢は、今まさに絹代夫人自身も呑み込もうとしているのである。絹代夫人は褌一丁の裸を晒している羞恥と、自らを待ち受ける運命に対する恐れに全身を小刻みに震わせるのだった。
「ねえ、おば様。早く、おっしゃって」
 美沙江の催促に根負けしたように、珠江夫人が「そ、そこは珠江のおマンコですわっ」と声を震わせる。
 かぶりつきの男たちからどっと哄笑が湧き起こる。千代夫人や岩崎の妾達と、珠江と美沙江のやりとりに愉しげに見入っていた大塚順子がけたたましい笑い声を上げる。
「皆さん、お聞きになった。医学博士夫人があんないやらしい言葉を口にするなんて。びっくりだわ」
 珠江は、順子の残酷な言葉が身体に突き刺さるのを感じている。そんな痛みに耐えている珠江夫人を、美沙江は一瞬いたましげに見るが、すぐに気持ちを奮い立たせるように表情を引き締める。
「よ、よく言えたわ。おば様」
 美沙江はそう言うと、珠江の双臀の狭間に秘められた可憐な菊の蕾を指先でつつく。珠江夫人は「うっ」と小さな悲鳴を上げて、形の良い尻をブルッと震わせる。
「こ、ここは何て言うの。教えて。おば様」
「そ、そこは……」
 ためらう珠江夫人の菊蕾に、美沙江の白魚のような指が挿入される。
「あっ」
 再び珠江夫人の悲鳴。双臀をブルブル震わせる珠江夫人の肛孔を、美沙江はゆっくり抉っていく。
「ね、おっしゃって。おば様。ここは何て言うの」
「そ、そこは……」
「そんなに恥ずかしがらないで、思い切っておっしゃって。珠江の……お尻の穴と」
 美沙江がそんな大胆な言葉を発したので、広間を埋め尽くした客たちはどっと歓声を上げる。
「千原流華道の家元令嬢が……あんな下品な……」
 大塚順子は可笑しくて仕方がないといった風に、千代や葉子、和枝達とともに笑いこけている。
「ためらわずにおっしゃって、おば様」
 美沙江が片手で珠江の尻をピシャリと叩く。
「そ、そこは……珠江のお尻の穴ですわ」
 珠江夫人がついにそんな屈辱の言葉を吐いたのを聞いた順子達は再び声を上げて笑い出す。
「よ、よく言えたわ。おば様。ご褒美を上げるわ」
 美沙江は順子達の嘲笑に反撥するように、はっきりとした声音でそう言うと珠江夫人の菊孔から指を抜き、代わりに夫人の双臀にぐっと顔を押し付ける。
「あっ、おっ、お嬢様っ。な、何をっ」
 狼狽える珠江夫人に構わず美沙江はぐっと舌を伸ばし、夫人の菊孔をなめ回す。
「そっ、そんなところっ。だ、駄目っ。駄目っ。お嬢様っ」
 珠江夫人はけたたましい声を上げながら腰部をくねらせ、美沙江から逃れようとする。しかし美沙江は華奢な身体の何処にあるのかというほどの力を発揮し、珠江夫人の尻をぐっと押さえ込みながら舌先の責めを続けているのだ。
「好きよ、好きよ、おば様」
 美沙江はそんな台詞を吐きながら、珠江夫人の微妙な肉穴をなめ回す。そして、舌を丸めると、夫人の菊孔にぐっと押し込むのだ。
「ああっ、だ、駄目っ。お嬢様っ」
 美沙江の濡れた舌先で隠微な肉穴を貫かれた珠江夫人は、瘧にかかったように豊かな双臀を震わせながら絶叫する。夫人の秘苑からは粘っこい樹液がどっと溢れ出し、白い内腿を伝っていく。
「おば様、感じてくれているのね。嬉しいわ」
 美沙江はそんな事を言いながら、珠江夫人の秘苑を指先で弄ぶ。美沙江の指に珠江の熟した淫肉がからみつき、熱い樹液がとめどなく流れ落ちる。
「ああ、お、お嬢様っ」
 快楽の二つの源泉を責め立てられている珠江夫人は込み上げる倒錯の快感に熱っぽく喘ぐ。美沙江はそんな珠江夫人を嵩にかかったように追い込んでいく。
「お、お嬢様っ、珠江にも、珠江にもお嬢様を愛させてっ」
 美沙江は、まるで珠江夫人のその言葉を待っていたかのように身体の向きを変え、夫人の身体の下に逆向けに潜り込むように仰向けの姿勢を取る。珠江夫人と美沙江は、いわゆるシックスナインの形になると、互いの秘奥を舌先で愛撫し始める。
「まあ、いいところのお嬢様と奥様が何て格好をしているのかしら。はしたない」
 千原流華道の家元令嬢と、後援会会長が濃厚なレズビアンプレイを開始したのを知った千代がけたたましい声で笑い出すと、葉子や和枝も「本当、まるで犬のさかりだわ」とか、「まったく、恥という言葉を知らないのかしら」と口々に揶揄の言葉を浴びせる。
「日頃つんと澄ましてお花のお稽古なんかしていても、一皮剥けば牝犬も同然ってことよ」
 大塚順子が勝ち誇ったように大声で笑うと、岩崎が苦々しい表情で振り返り「おい、そこの女たち、うるさいぞ。静かにせんか」と怒声を上げる。すると女たちは忽ち首をすくめるのだ。
 珠江夫人と美沙江は、そんなやりとりもまったく耳に入らないかのように、女同士の愛欲の世界に没入している。お互いの羞恥の箇所にしっかりと顔を埋め、舌と唇による濃厚な愛撫を注ぎ合っている二人の美女――舞台にかぶりついている岩崎や時造他のやくざたちは、からかいの言葉をかけるのも忘れ、痴呆のような顔つきになって二人の絡み合いにすっかり眼を奪われているのだ。

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