223.奴隷のお披露目(23)

「お京とお美津の姉妹といい、この武家娘に稚児といい、このあたりじゃあちょっと見れらない上玉揃いだ。葉桜屋はここのところつきまくっているじゃねえか」
 鬼源のいかにも芝居がかった台詞回しに観客の間から失笑が漏れるが、ほとんどの客は小夜子と文夫の輝くような裸身に眼を奪われている。
「鬼源さんも大忙しって訳ね」
 お春はそう言うと床の上に置かれた徳利を取り上げ、鬼源が持つ茶碗に酒を注ぐ。鬼源は上機嫌でそれを受けると、ぐいと飲み干す。
 どうも本物の酒が入っていたようで、鬼源の赤銅色の肌がさらに紅く染まる。
「しかし、おめえたちの方はどうなんだ。これだけ次々と上玉が入ってくりゃあ……」
「あたしたちみたいな陰間の出番はないっていいたいんでしょう。悔しいけれどその通りよ」
 お春はそう言って、お夏と顔を見合わせて頷き合う。
「でもね、だからと言ってお役ご免になった訳じゃないのよ。今はお京とお美津が早く店に出られるように調教する仕事を任されていて、これが結構大変なのよ」
「そうなのよ」
 お夏も口を尖らせる。
「特にお京の調教は苦労したわ。男勝りのはねっ返りで、ちっとも言うことを聞かないんだから」
「あら、お夏。あんた、お京みたいな気の強い娘が好みだって言っていなかった?」
「好みは好みだけど、仕込むのにはもっと素直な娘の方が楽で良いわよ。お美津のようにね」
 そんなことを言い合っているお春とお夏に鬼源は「陰間が女の調教役って言うのはどういう訳だ。森田親分も随分変わったことをしなさるぜ」と首をひねる。
「いくら鬼源さんでも、、陰間を馬鹿にするような台詞は聞き捨てならないわ」
 お夏がそう言って気色ばむ。
「別に馬鹿にしているわけじゃねえが」
「陰間だって、客を悦ばすってことじゃ女郎と同じよ。いえ、陰間の場合は生まれ持った色気じゃあどうしても女に勝てないから、その代わりに色々な手管を使うのよ。それは、女郎にも十分役に立つはずだわ」
「成る程な。それも道理だ」
 鬼源は感心したように頷く。
「それに親分ったら、お京は身体は女でも心は半分男、あたしたちは身体は男でも心は半分女、似たもの同士だからうまく行くだろうっていうのよ」
 お春がそう答えると鬼源は「へえ、あのお京とお前たちが似たもの同士ねえ。そんな風には見えねえが」と苦笑いする。
「どういう意味よ」
「大した意味じゃねえ。ところでその大忙しのお前たちが俺のところに顔を出したのはいったいどういう風の吹き回しだ」
「鬼源さんが二人も調教しなきゃいけないんで大変だろうから、ちょっと手伝ってやれって言われて来ているのよ」
「二人一緒に調教するくれえ、別に大変でも何でもねえが」
「でも、鬼源さんも、女はともかく男を仕込むのはあまり経験がないでしょう。だから……」
 お夏がチラチラと文之助の裸身を見ながらそう口ごもると、鬼源は納得したようにははんと頷く。
「お前たち、このお稚児が気になってしょうがねえんだろう。さっきから文之助の方ばかり見やがって」
「そ、そんなことはないわよ」
「誤魔化しても無駄だぜ。するってえと親分に言われてここにきたってのも眉唾だな。お京とお美津の調教をほっぽっておいていいのかい」
「ほっぼっている訳じゃないわよ。今はちょっと休憩をさせているだけよ」
「そうそう、あまりぶっ続けで調教しても効果がないからね」
 お春がそう付け加える。
「それに、休憩って言ってもただ休ませている訳じゃないのよ.お京とお美津を縄で縛り上げて、股ぐらをあたしたちが腕によりをかけて調合したお薬を染みこませた股縄で締め上げているのよ。二人とも今頃痒いところもかけない苦しさに、脂汗を垂らしながら耐えていると思うわ」
 お春はそう言うとお夏とともに黄色い歯をむき出しにして笑い合う。鬼源はそんな二人の醜悪な姿に顔をしかめながらも、「まあ、それほど言うのならちょっとやってみな。俺はこの姉の方を受け持つからな」と言う。
「待ってました」
 二人は喜色満面といった顔つきになると、素っ裸で柱に立ち縛りにされている文之助に近寄る。
 男とも女ともつかぬ、妖怪めいた人間が近づいてきたので、文之助は恐怖に駆られ、思わず顔を強ばらせる。
「そんなに嫌そうな顔をしないでよ。ねえ、可愛いお坊ちゃん」
「そうよ。お坊ちゃんがこれまで味わったことがないような気持ちの良いことを教えてあげるんだから」
 お春とお夏は嬉々とした表情でそう言うと文之助の下半身にとりつく。そしてお春はぶらりと垂れ下がった文之助の肉塊を持ち上げ、お夏は文之助の背後に回り、引き締まった双臀をぐいと断ち割るのだった。
「あっ、な、何をするのだっ。や、やめろっ」
 文之助はお春とお夏の不意の攻撃に狼狽の声を上げるが、二人の男娼たちはかまわず、いまだあどけなささえ残る前髪の少年に淫らな責めを開始する。
 お春が文之助の肉棒をゆっくりと摩り上げ始めると、お夏は文之助の隠微な菊蕾の周辺を緩やかにもみ上げ始める。予想もしなかった淫らな責めに文之助はたまらず悲鳴のような声を上げる。
「や、やめろっ。やめぬかっ。な、なんと言うことをするのだっ」
 弟に対して言語を絶する汚辱の責めが加えられ始めたのを見たお小夜は恐ろしいほど眉をつり上げる。
「な、何をするのですっ。げ、下郎の分際で武士に対してなんと言うことをっ。やめなさいっ。やめるのですっ」
 思わずそんな言葉を口にしたお小夜に、鬼源はギラリと眼を光らせて詰め寄る。
「下郎とは誰のことだ。ええ、お嬢さん」
 そう言って鬼源がお小夜を睨みつける。凄みのある鬼源の顔にひるみながらも、お小夜は必死でにらみ返す。
「ふ、文之助は武士の子です。み、淫らな真似をするのは許しませんっ」
「許すも許さねえも、おめえたちは仇を討つためにこの一週間、葉桜屋で女郎と陰間として働くことを誓ったんじゃねえのかい」
「そ、それは……」
「おめえたちが約束を破るのなら、こっちだって同じだぜ。津村って浪人が一週間後に店にやってくるのは確実だが、そうなってもおめえたちには金輪際会わせねえ。そうなりゃおめえたちは仇が討てないばかりか、恥のかき損ってことになるぜ。ええ、それでもいいのかい?」
「そ、それは……」
 痛いところを突かれたお小夜はぐっと言葉に詰まる。
「仇を討つためなら自分たちはどうなってもかまわないと勇ましい啖呵を切ったのは嘘だったのかい、ええ、村瀬のお姫様よ」
「う、嘘ではありません……」
 お小夜は苦しげな表情で答える。

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