293.美女菊くらべ(1)

 ともに絶頂を極めあった絹代夫人と美沙江は、ぐったりとした身体を直江と友子によって引きずられるように舞台を下がる。
 美沙江と女同士の交歓を演じた珠江夫人は舞台の上に正座する。舞台脇から義子が現れ、手に提げた三味線と撥を珠江夫人に渡す。珠江夫人は撥を手に持ち、三味線を抱えると観客に向かって一礼し、部屋に染み通るような爽やかな声で歌い出す。

 ♪ 梅は咲いたか 桜はまだかいな
   柳ゃなよなよ風次第
   山吹ゃ浮気で色ばっかり しょんがいな

 珠江夫人の美声に、客席を埋めたやくざたちは一様にうっとりとした表情になる。一節歌い終えた珠江夫人は靜子夫人に向かって目で合図する。靜子夫人はこくりと頷くと立ち上がり、珠江夫人の歌う端唄に合わせて踊り始める

 ♪ 浅蜊取れたか 蛤ゃまだかいな
   鮑くよくよ片思い
   さざえは悋気で角ばっかり しょんがいな

 素っ裸のまま踊る静子夫人の妖艶な姿に、やくざたちは目を見張る。静子夫人は自分が一糸纏わぬ裸ということをまったく気にしないかのように、堂々と踊り続ける。

 ♪ 梅にしようか 桜にしよかいな
   色も緑の松ヶ枝に 梅と桜を咲かせたい
   しょんがいな

 花柳流の名取である静子夫人の踊りが見事なのは当然だが、珠江夫人の三味線と端唄の腕前も、並みのものではない。ものを知らぬやくざたちも、真の上流階級の夫人たちが持つ教養の奥深さに触れて、思わず身をただすのだった。
 それにしても梅と桜とはよく言ったものだ。珠江夫人の清冽までの美貌は、まだ寒気の残る中で凛然と咲く白梅を思わせるし、静子夫人の艶麗な美貌は春の陽の下で絢爛と咲き誇る桜のようである。珠江夫人と静子夫人が妍を競う様は、まさに梅と桜の競演であった。
「お粗末様でした」
『梅は咲いたか』を歌い、踊り終えた珠江夫人と静子夫人は、その場で深々とお辞儀をする。やくざたちはハッと我に返ったような顔つきになると、盛大な拍手を浴びせる。
「いや、さっきの白白ショーも見物だったが、こういった品の良いものも良いな。他じゃ滅多に見られないぜ」
 岡田が感心したように頷く。
「まったくだわ。育ちの良いご婦人の教養というのは凄いわね。私たちとはちょっと別の人種って感じで、とてもかなわないわ」
 町子はそう言うと、苦々しげな表情を静子夫人達に向けている千代の方を見る。
「ふん、いくら踊りや小唄が巧くたって、今じゃ実演ショーのつなぎにしか役に立たないのよ」
 千代夫人はそう吐き捨てるように言うと、同意を求めるように和枝や葉子、そして順子の顔を順に見る。
「でも、あれだけ綺麗に踊れるのは凄いと思うわ。あたしなんか何にも出来ないから」
 和枝がそう言うと葉子も「あたしも、あんな風に粋に三味線くらい弾けるようになりたいわ」と同意する。
「なによ、あんたたちまで」
 千代は苦々しげに顔をしかめたとき、舞台の脇から片手に青竹、そしてもう一方の手に籠のようなものを提げた野島京子と村瀬小夜子、そしてその二人に挟まれるように、後ろ手縛りにされた三人の裸女が登場する。
 いずれ劣らぬ迫力のある三つの裸身――その持ち主は村瀬美紀、山崎久美子、そしてフランソワーズ・ダミヤの三名である。
 静子夫人は先程銀子から受け取った青竹を手にして立ち上がると、床をピシリと叩く。
「三人とも、客席にお尻を向けて並びなさい」
 静子夫人の命令に、左から美紀夫人、ダミヤ、そして久美子の順に、客席に尻を向けて並ぶ。三つの見事な尻が並ぶ壮観に、観客からどよめきのような声が上がる。
「京子さん、小夜子さん」
 静子夫人が京子と小夜子に向かって頷きかけると、二人は「ハイ」と言って、籠の中から縄の切れ端を取り出す。
 そして京子は久美子の右足、小夜子は美紀夫人の左足の足下にしゃがみ込むと、舞台の床に打ち込まれた杭に、縄の切れ端を使って縛り付けていく。
 京子と小夜子の作業が終わったのを確認した静子夫人は、青竹でダミヤの尻を軽く叩き、「思い切り足を広げなさい」と命ずる。
「えっ」
 親友である静子夫人の意外な言葉にダミヤは驚きの表情を見せるが、夫人は顔色を変えず「聞こえなかったの? 思い切り足を広げるのよ、ダミヤ」と繰り返す。
「ハ、ハイ……」
 ダミヤは、静子夫人の勢いに押されるように両脚を開く。すると小夜子が美紀夫人の右足首を軽く叩き、「お母様も足をお開きになって」と告げる。
「え……」
 美紀夫人もまた当惑の表情を浮かべるが、小夜子は水のような冷静さで「さ、早くなさって」と母親を促す。
「久美ちゃんも開くのよ。思い切り」
 京子が久美子に命じると、久美子は素直に「ハイ」と答え、言われるままに足を開いていく。
 三人の美女が客席に尻を向けたまま、舞台上で徐々に開股の姿勢を取る。客席の男たちは淫靡な予感に身体を熱くする。
「まだまだ足りないわ」
 大きく開かれたダミヤの左足と、美紀夫人の右足がいまだに30センチほど離れているのを見た静子夫人は、「もっと開くのよ、ダミヤ」とダミヤを叱咤し、逞しいまでに実った太腿をパシッと叩く。
「で、でも……これ以上」
「愚図愚図言わずに開きなさい。時間がもったいないわ」
 今度はダミヤに肉づきの良い尻に静子夫人の青竹が飛ぶ。ダミヤは唇を噛んで激しい羞恥と屈辱を堪えながら、伸びやかな肢を広げていく。
「お母様、それじゃまだダミヤさんの足に届かないわ。もっと、もっとお開きになって」「さ、小夜子……」
「何をもったいぶっていらっしゃるの。さ、早くお開きになって」
 小夜子はそう言うと掌で母親のむっちりとした尻をパシッと叩く。娘に尻を打たれる汚辱に、美紀夫人はすすり泣きながらゆっくりと足を開く。
「く、久美ちゃん。あなたがもっと開かなければ、他の二人に負担がかかるのよ。分かっているの」
 京子はそう言うと久美子の引き締まった尻をパシッと叩く。
「そもそも、あなたや、あなたの兄さんのヘマのせいで、お二人はとんでもない目に遭っているのよ。せ、責任を感じているのなら、思い切り足を開きなさい」
「わ、分かりました」
 久美子は義理の姉になったかも知れない京子から、自分のことならまだしも、兄を罵られる辛さに耐えながら、足を思い切って開くのだった。

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