SM小説と言うには鬼六さん以前にももちろんあったのだが、一気にメジャーなものにしたのは鬼六さんで間違いないと思う。
なにせ「SMセレクト」の発行部数が10万部以上あったのだ。一時はSM雑誌は乱立状態で、その多くが鬼六作品を掲載しようと競争していた。鬼六さんは月産500枚の時もあったと言うから大変なものである。
誌面を埋めるために鬼六さん以外の作家も大量に出現したが、その多くは鬼六スタイル、もっといえば氏の代表作である『花と蛇』的な作品を産み出すだけだった。
しかも長編を書ける人は非常に少なかったので、一回完結の短編、その中で『花と蛇』のエッセンス的な描写――緊縛、剃毛、浣腸シーンを入れてはい一丁上がりというのがほとんどだった。
杉村春也氏がSM小説を書くようになったのは、上手い作家に触発されてではなく、上述のようなテンプレ作品を読んで「これなら俺にも書ける」と思ったのがきっかけらしい。
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