「これだけ盛り沢山の演目だ。岩崎親分はきっと気に入ると思うが……」
森田はまだ不安なのか、顔をしかめている。
「これでも心配なのか、親分」
「いえ、親分が大のお気に入りの静子が出演できないってのが何とも――」
「静子も出演させますよ」
川田があっさり答えたので、森田は「何だって?」と驚く。
「もちろん孕んだばかりなので本番はもちろん、女の道具を使った珍芸はさせる訳には行きませんが、小夜子や珠江夫人と一緒に素っ裸で日本舞踊をさせたり、ストリップや立ち小便をさせたりするくらいなら問題ありません」
「なるほど。それもそうだ」
森田は感心したように頷く。
「岩崎親分はお気に入りの静子があまりきつい責めにあうのは見たがらないから、それくらいがちょうどいいかも知れないな」
「いっそ、静子夫人を桂子と一緒にショーの進行係に使おうと思っているんでさあ」
鬼源が言葉を続ける。
「桂子も、最初の美津子や美沙江との卵割り競争が終わったら出番がありませんから、奴隷たちの責め役をやらせます。他の女たちにとってみりゃあ、自分たちがこの地獄屋敷の奴隷に落ちるきっかけを作った静子や桂子にこってり責められるんだから、複雑な気分でしょう」
川田はそう言うとニヤリと笑う。
「そいつは面白いアイデアだが、千代夫人は承知かい?」
「あいつもこのところ、妊娠した静子夫人の部屋に入り浸っていたんですが、岩崎親分が大の静子のお気に入りだってことはわかってるんで、歓迎会終了までは遠慮するって言ってます」
田代の問いに川田が答える。
「そいつは助かるが……」
森田がまだ不審そうな顔を川田に向けている。
「なに、最近千代のやつ、ずっと静子夫人のところに籠りっきりでしょう。なんだか最近、頭がおかしくなって来ているんじゃねえかと心配なんでさあ。まるで自分が静子夫人の腹ん中の子供の父親になったような気分になっているようで」
「千代夫人が静子夫人に対して異常になるのは前からのことじゃないか」
田代が苦笑する。
「それが、だんだん酷くなっているようで。山内先生もたまには千代を静子夫人から離した方がいいんじゃないかって言うし。しばらく伊沢先生と一緒に、遠山家の後始末をやらせることにします」
「山内先生は産婦人科で、頭の方は専門じゃねえだろう」
森田が首をひねる。
「しかしまあ、それで岩崎親分の機嫌が良くなるなら結構なことだ。親分はどうも千代夫人が苦手のようだしな」
「千代が得意な人間がどこかにいるんですかね」
川田の言葉に四人が声を揃えて笑う。
「実は、岩崎親分を良い気分にさせる趣向がもう一つあるんでさ」
鬼源がそう言うと森田が「そりゃあ何だ?」と身を乗り出す。
「静子夫人の例で分かる通り、親分のお好みは気品のある人妻でしょう? そのお好みにどんぴしゃの女が二人も入荷したじゃねえですか」
「なるほど、美紀夫人と絹代夫人のことか」
田代は思わず手を叩く。
「あの二人を岩崎親分の前に並べて、お色気踊りでも踊らせたら、親分の機嫌は上々になること間違いありやせんぜ」
「そいつは良い考えだが、ショーに間に合うかな。時間があまりないぞ」
「それは……大丈夫だと思いますぜ」
鬼源は川田と顔を見合わせてニヤリと笑う。
「昨夜だけでも随分調教が進んだようですし、足らない部分は社長と親分に手伝ってもらおうかと思いまして」
「なんだ、俺と社長も調教要員に動員されるってことか」
森田が苦笑すると、鬼源が「社長と親分にとっちゃあ楽しい仕事でしょう。役得もありますし」と笑う。
要するに鬼源はショーまでの二日間、美紀と絹代については森田と田代が自由にして良いと言っているのだ。
「そうだな……どうします? 社長」
「私はかまわないよ。こんな嬉しい申し出を断っちゃあ罰があたるというもんだ」
田代はそう言うとふっ、ふっと奇妙な声を上げて笑う。
「そう言えばあれから、昨夜はお二人のご婦人はどうしたんだ?」
「美紀夫人は、小夜子と文夫の前で津村さんにこってりと可愛がられたようで。途中で差し入れをした義子が聞いた話じゃあ、あの気の強い奥様が娘と息子の見ている前で五回も気をやったそうですぜ」
森田の問いに川田が答える。
「そりゃあなかなか頼もしい」
田代が感心したように言う。
「絹代夫人は?」
「大塚先生に命令された珠江に、例の人間花器ってやつの調教を一晩中させられたそうでさ。これも差し入れに行ったマリの話しなんですが、あの奥様はなかなか筋が良くて、一晩で花器の基本をほぼ身につけたそうで」
「大塚先生は絹代夫人まで人間花器ってやつにするつもりなのか?」
森田はさすがにやや呆れたような顔になる。
「珠江と美沙江、それに絹代夫人の三人を人間花器として並べて、湖月流華道の発表会をするのが大塚先生の夢らしいんで」
「そのあたりの感覚がどうにも俺には理解できないな」
森田はしきりに首をひねる。
「私には分かる気がするな。奇麗な女をまるでもののように扱うっていうのは、なんともぞくぞくする快感があるもんだ」
「そんなもんですかね」
森田はまだ納得できないという顔付きをしている。
「それで結局、絹代夫人は美沙江との対面は出来ていないんです」
川田がそう言うと森田は「珠江夫人が時間稼ぎをしたのかな」と首を傾げる。
「そう言えば、山崎の妹のじゃじゃ馬はあれからどうした?」
「久美子ですか? 森田組と葉桜団をペテンにかけようとした罰として、辛子責めと糸通しの仕置きにかけました」
田代の問いに川田が答える。
「ほう、なかなか厳しい仕置きだな」
「なに、こんなのは序の口でさあ。その後姫輪責めと山芋責めにかけようとしたんですが、あそこが辛子にかぶれたのか妙に腫れてきたんでそこで中止にしたんです。今日はその続きをやりますぜ」
「ショーの準備もあるのに、そりゃあ忙しいこった」
田代はさも楽しそうに笑う。
「それはそれ、これはこれ。けじめはちゃんと付けなきゃなりやせん」
鬼源はまじめ腐った顔付きで言う。
「そう言えば親分、久美子の処女のことですが、本当に例の趣向でやるつもりですか?」
「ああ」
川田の問いに森田は重々しくうなずく。
122.窮地に立つ久美子(2)

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