271.檻の中(3)

「罰として美沙江はショーの終了後、浣腸のお仕置きを受けることになったのよ。母親の絹代と一緒にね」
「そうしたら傑作なのよ。珠江夫人がぜひ自分も浣腸して欲しいと志願してきたのよ」
「珠江様が……どうして……」
 静子夫人は驚いて尋ねる。
「さあ、本人は二人が辛い目にあうのが耐えられないから自分もその辛さを一緒に味わいたい問いのだけど、本当のところはどうかしら」
 銀子がそう言うと、朱美が「あの奥様、浣腸されるのが段々快感になってきたんじゃないかしら」と答え、二人はおかしげに顔を見合わせて笑い合う。
「経験者の奥様ならおわかりになるでしょう。ねえ、どうなの。浣腸されるって気持ちが良いの、病み付きになっちゃうほどなの」
 銀子がそう詰め寄ると静子夫人は慌てて顔を逸らし「ぞ、存じませんわ」と答える。
「存じませんってことはないでしょう。奥様自身が、この屋敷に来てから何度もされたことじゃない」
「奥様ったら初めのうちは嫌がっていたけれど、そのうちに浣腸される度にあの時のような切なそうな顔をするようになったわよ」
「し、知りませんわ。そんなこと」
 静子夫人はそう言って赤らめた顔を振るのだ。そんな夫人の様子を銀子と朱美はしばらくの間楽しげに眺めていたが、やがて再び顔を見合わせて頷き合う。
「奥様を虐めるのは楽しいけど、いつまでもこうしているとお客様が痺れを切らしてしまうわ」
 銀子がそう言うと朱美が
「約束通り、奥様のお願いを一つだけ聞いてあげるわ。何が良いのかしら」
 と尋ねる。
 静子夫人は二人のズベ公に顔を向けると「悦子さんはあれからどうしているのでしょうか」と尋ねる。
「悦子、ああ、あの裏切り者のことね」
 銀子は朱美の方を向き「どうしたっけ」と尋ねる。
「あいつのせいで危うくあたしたちは警察に一網打尽になるところだったんだ。お仕置きとしてあそこをたっぷり土手焼きにしてやったけど、そんなもんじゃまだ気分は収まらないね。今はショーの準備で忙しくてそれどころじゃないから物置部屋に放り込んでいるけど、落ち着いたら毎日ひとつずつ、死ぬほど辛い責めにかけてやるつもりだよ」
 朱美のそんな言葉を聞いた静子夫人の顔色がさっと変わる。
「悦子さんは元々は皆さまの仲間じゃないですか。そ、そんな酷いことはしないで」
「あたしたちだって別に好きでやっている訳じゃないよ。でも、示しを付けるためには仕方がないのさ」
「お、お願いです。悦子さんを許してあげて下さい」
「それが奥様のお願いなのかい」
 銀子が念を押すと静子夫人はためらわず「は、はいっ」と答える。
「奥様が言うとおり悦子はあたしたちの仲間だから、奥様や桂子を責めたこともあるじゃないか。それでも助けたいっていうのかい」
「悦子さんは悪い人じゃありませんわ」
 静子夫人がそう言うと、銀子は朱美と顔を見合わせクスリと笑い合う。
「まったく、奥様もお人好しね。でも、多分そう言うだろうと思っていたわ」
 銀子はそう言うと後ろを振り向いて「町子さん、お願いします」と声をかける。
 すると、町子が全裸に剥かれた四つん這いの悦子を追い立てるようにして現れる。
「え、悦子さん」
「奥様」
 驚いて声をかける静子夫人に悦子が駆け寄ろうとするが、朱美が町子から受け取った
鎖をぐいと引き、悦子はつんのめるように倒れる。
「あっ、悦子さん」
 静子夫人は鉄格子を握り締めながら悲痛な声を上げる。
「勝手な真似をするんじゃないよ」
 朱美は悦子を怒鳴りつけ、横腹を蹴り上げる。悦子は「うっ」と苦しげな声を上げて腹を押さえる。
「や、やめてっ、やめて下さいっ」
 静子夫人は必死で銀子と朱美に呼びかける。銀子はそれを無視するように、町子に「どうもお待たせしてすみません」と頭を下げる。
「いえ、あなたたちと静子夫人の会話、なかなか面白かったわ」
 町子はそう言うとニヤニヤ笑いながら静子夫人の顔を見ている。静子夫人はその冷たい視線に怯みながらも、銀子に向かって「悦子さんに乱暴しないで。お願いですっ」と哀願する。
「奥様は悦子を許してやれと言うけれど、こいつは二度もあたしたちを裏切っているからね。三度目があっちゃ、絶対に困るんだよ」
「それとも奥様が保証してくれるのかい、悦子がもう二度と裏切らないっていうことを」
 銀子と朱美にそう詰め寄られた静子夫人は思わず「ほ、保証しますわ」と答える。
「へえ、どうやって保証するんだい」
「そ、それは……」
 銀子にそう言われると静子夫人はぐっと言葉に詰まる。
「悦子さんを説得します。こ、この檻の中に入れて下さい」
「説得ねえ」
 銀子は嘲るような笑みを浮かべる。
「言葉で説得しても無駄なんじゃないかい」
「そうそう、奥様が身体を使って説得するのならともかく」
 銀子と朱美の言葉に、静子夫人はハッとした顔つきになる。
「そ、それはどういう……」
「わかっているでしょう、奥様が悦子とレズの関係を結んでくれればいいのよ」
 銀子の言葉に、静子夫人は悲痛な表情で唇を噛む。
「もともと悦子は、奥様にレズの愛情を抱いていたのよ」
 銀子にそう指摘された悦子は「ち、違うわっ」と叫ぶように言うが、その表情には明らかな狼狽が浮かんでいる。
「あら、別に隠さなくても良いじゃない。あたしだってそうだったんだから」
 銀子はさらりとそう言うと「もっともあたしはあっさり振られちゃったけどね」と付け加える。
「要するに悦子は奥様のことを愛しく思っていたんだけど、それは決して叶わぬ恋と諦めていた。もともとあたしたちと奥様は住む世界が違うからね。だから自分は身を捨ててまで奥様を逃がそうとしたのよ」
「だけど、悦子がその思いを叶えることが出来たら、奥様とずっとここで暮らしていたいと思い、奥様を逃がそうなんて気は二度と起こらないはずよ」
 銀子がそう言うと朱美が「ね、わかったでしょう。奥様が悦子と関係を結ぶことが、悦子を救うことになるのよ」と付け加える。
 銀子と朱美の言葉をじっと顔を伏せながら聞いていた静子夫人は「え、悦子さんとわたしは、この地下牢の中で良いお友達になれたのです」とすすり上げるように言う。
「それを、そんな醜い関係にさせるなんて……ひ、ひどい、酷すぎます」
「醜い関係ですって?」
 静子夫人のその言葉を聞いた銀子の表情が険しくなる。
「聞き捨てならないわね。レズビアンのどこが醜いの」
「正常な人間関係を無理矢理そんな倒錯的なものに変えようというのが醜いのです」
 静子夫人は顔を上げ、はっきりとした口調で告げる。

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