180.静子夫人の絶望(4)

「そ、そんなっ」
森田の恐ろしい言葉に美紀夫人は顔色を変える。
「モデルになった文夫のヌードや、反り立ったチンチンのクローズアップ写真を何枚か付けてやればかなりの売れ行きになるはずだって鬼源が言うんだ。まあ、たまにはこんなものも目先が変わって面白えから、やってみようと思うんだが」
「そりゃあ傑作だわ」
銀子と朱美は同時に哄笑する。
「文夫のような美少年のおチンチンなら、確かに奥様のような、ご主人とのセックスに不満がある有閑夫人達が先を争って買いに走るかもしれないわね。どう思う?」
静子夫人は目の前に突き出された、文夫のものをかたどって作られたというそれから恐ろしげに顔を背ける。
「何をいまさら照れているんだよ。文夫のものから作ったって聞いてそんなに動揺するのはおかしいじゃないか。ひょっとして奥様も文夫に惚れているのかい?」
「ばっ、馬鹿なことは言わないでください」
銀子にからかわれて静子夫人は顔を紅潮させる。
「おや、赤くなったね。図星かい?」
銀子はさらに静子夫人を問い詰めるが、夫人はひたすら首を振っているだけである。
「それなら言われた通り、新入り二人におしゃぶりの仕方を教えてやるんだよ。いいね」
銀子はそう言って再びその張り型を静子夫人の頬に押し付けるようにする。歯を食いしばってその淫らな玩具から顔を背けている静子夫人に、銀子が畳み掛けるように言う。
「あくまで拒否するのならこっちにも考えがあるよ。新入り二人については次のショーでは顔見せ程度の軽い出し物を考えていたんだが、奥さんが素直に二人を調教しないのなら予定を変更して美紀夫人は小夜子と、絹代夫人は美沙江とそれぞれ母娘でレズのコンビを組ませることになるけど、それでもいいのかい?」
「そっ、それはっ……」
静子夫人は銀子の恐ろしい宣告に顔を引きつらせる。かつて夫人も、義理の娘である桂子とコンビを組まされ、かつて遠山家で女中として使ってきた千代と顧問弁護士の伊沢の前で淫らなショーを演じさせられたことがある。
血のつながりのない継娘との行為でさえ、背筋がそそけ立つような汚辱感を味わった静子夫人である。この地獄屋敷に拉致されて間もないと思われる美紀や絹代が、血を分けた娘である小夜子や美沙江とそのような行為を強制されるようなことがあれば、二人とも気が狂ってしまうかもしれない。
「どうなの? やってくれるんだね」
進退極まった静子夫人は美しい柳眉をしかめながらこくりと頷くと花びらのような唇をそっと開き、銀子が押し付けてくる人工の亀頭の先端に軽く口づけをする。
「やる気になったみたいだよ」
銀子と朱美は顔を見合わせて笑い合う。田代と森田も、久々に目にする静子夫人の舌技に興味津々と言った顔付きで見入っている。
最初は優しく、やがてチュッ、チュッと音を立てて激しくその張り型に口吻を注ぎ込む静子夫人の姿を、美紀と絹代は呆然と眺めている。
「そんな風に黙っておしゃぶりしていたら、新入りたちの参考にならないじゃないか。どんな風にやるのか口で説明するんだよ」
「は、はい……」
銀子の言葉に静子夫人は頷き、黒目がちの潤んだ瞳を美紀と絹代に向ける。
「美紀様、絹代様……静子がおしゃぶりをするのをよくご覧になって」
そう言うと静子夫人は軽く開いた唇を改めて亀頭の先端に押し付ける。
「最初はこんな風に、殿方の鈴口に軽く口づけをするのです。そして徐々に激しく……」
静子夫人は次第に大きく口を開きながら、音を立てて口吻を始める。
チュッ、チュッという露骨な音が倉庫の中に響き始める。裸身を艶っぽくくねらせ、本物そっくりに作られたそれに濃厚な愛撫を注ぎ込んでいる静子夫人から、むっとするような色気が立ちのぼってくるような錯覚に、田代と森田は思わず身体を熱くするのだ。
膨らんだ雁首全体を唇で愛撫していた静子夫人は、次に犬のように大きく舌を突き出して、張り型の先端を嘗め回し始める。
「ご覧いただいています? 美紀様、絹代様。ここは汚れが溜まりがちな場所ですから、舌の先を使って丁寧にお掃除をして差し上げるのです。それも奴隷にとって大事な勤めの一つなのですわ」
そう言いながら雁首の根元を丁寧に掃除するような静子夫人の舌先の動きに、美紀夫人と絹代夫人は呆然とした表情を向けている。
そんな破廉恥な姿態を、年上の友人たちの前で晒している静子夫人の身体の中に、被虐の炎が静かに燃え始める。美紀と絹代の前で人妻としての、いや、人間としての矜持を保ちたいという静子夫人のささやかな願いは、手が届かない夜空の星のように感じられ、逆にもっと淫らな、もっと浅ましい姿を晒したいという暗い欲望が静子夫人を支配し始めているのだ。
舌先でのそんな行為を終えた静子夫人はいよいよ本格的に手管を見せ始める。大きく口を開いて張り型を呑み込み、口から喉の奥までを性器にしたように激しく愛撫する静子夫人の迫力に美紀夫人も絹代夫人も圧倒されたような思いになる。
あの知性と教養に満ちた遠山財閥の令夫人が、娼婦もたじろぐような性の技を披露しようとは――二人の人妻は眼の前で行われていることが現実のものとはとても思えないのだ。
その筒具に激しい愛撫を注ぎ込んでいた静子夫人はいったん口を離し、その部分の熱を冷ますように乳房を軽く押し当てたり、舌先でチロチロと鈴口のあたりをくすぐったりする。
「射精してしまえばそこでおしまいですわ。殿方の快感を出来るだけ長引かせるように、このように時々じらしてあげるのも、娼婦としての重要な技ですわ」
静子夫人はそう言うと本物そっくりの張り型の下部の、睾丸を模した部分まで舌を這わせ始める。
「ここはこんな風に丁寧に嘗めて……そして時々口に含んで舌の上で転がして……」
そうやって文夫のそれから作られたという淫靡な玩具と戯れる静子夫人の姿を見せつけられていた美紀夫人は、衆人の前で息子が汚されているという錯覚に耐え兼ねて、思わず「も、もうおやめになって!」という声を上げる。
静子夫人は驚いて張り型から口を離す。美紀夫人は興奮した口調で「し、静子様っ。いったいどういうおつもりなのっ。そ、そんな淫らな行為をこれみよがしになさるなんてっ」と言う。
「し、静子様がおやりになっていることは、文夫を辱めているのと同じですわっ」
美紀が顔を赤くしながらさらに抗議すると、静子夫人は「すみません……」と顔を伏せる。
「美紀様……静子様は何も……」
文夫を辱めようとしたのではないと絹代は美紀をたしなめようとしたが、興奮した美紀は「絹代様は黙っていてっ。ああ、もうこんなことは耐えられませんっ」と悲鳴のような声を上げる。
「耐えられなきゃ、どうしようって言うのさ」
銀子が冷たい口調でそう言ったので、美紀夫人は一瞬たじろいで口を閉ざしたが、勇気を振り絞って再び口を開く。
「わ、私、抗議致しますわっ。文夫や小夜子をこれ以上辱めることは許しませんっ。その代わり、私はどんな目にあわされようと不満は申しませんっ」
銀子を必死で睨み返しながら美紀夫人がそんなことを口走ったので、銀子と朱美は顔を見合わせてぷっと吹き出す。

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