第一部のショーが終了した後、岡田は関口や石田とともにホームバーに戻り、酒を飲んでいた。
バーの中央には美紀夫人と絹代夫人が、褌一丁のみを許された裸の姿で、まるでオブジェのように並んで立たされている。
二人の前には小さな立て札が置かれ、そこには墨で黒々と「お触り自由」と記されている。
熊沢組や南原組、また岩崎一家の身内たちの何人かも思い思いにカウンターやボックス席に陣取り、二人の美しい人妻の裸を酒の肴にしながら楽しげに笑い声を上げているのだ。
その時ホームバーの扉が開き、町子が入ってくる。
町子はフロアに立たされている美紀夫人と絹代夫人にちらと目をやった後、カウンターの岡田を見つけると、つかつかと歩み寄り隣に座る。
「他の女客たちと一緒だったんじゃないのか」
岡田が町子のグラスにビールを注ぎ込みながら尋ねる。
「そうなんだけど、ホモの余興が始まったので出て来ちゃった」
「ホモの余興?」
「そこに立たされている宝石店社長夫人の息子と、探偵の男よ」
町子のそんな声が耳に入ったのか、美紀夫人の肩がブルッと震える。
「要するに文夫って男の子に、山崎とかいう探偵を尺八させるのよ」
町子がそう言うと、岡田の隣の関口がぶっと水割りを噴き出す。石田が慌ててハンカチを関口に手渡す。
「面白そうじゃねえか」
岡田が楽しげに笑う。
「最後まで見てりゃ良かったのに」
「勘弁してよ。あたしの趣味じゃないわ」
町子が溜息を吐くようにそう言うとビールを一口飲む。
「これでも商売の参考になるかと思って我慢してみていたのよ。でも、いつまでたっても射精させないんだもの」
「へえ。そりゃまたどうしてだ」
「山崎って探偵は、何でも夜のショーに出演して妹と絡むんでしょう。その時に立たなくなったら困るからじゃないの」
「なるほど。男は女と違ってそう何度も出来ないからな」
「俺は続けて三度は平気ですがね」
石田がそう口を挟むと関口が苦笑して「抜かず三発のお前と一緒にするな。普通の男は違うんだ」と言う。
「だから射精寸前の寸止め責めがずっと続くわけ。あれは男にとっちゃたまらないわね」
町子はそう言うと再びビールを口に含む。
「おまけに文夫って子の尺八が上手いのよ。プロのあたしも感心したわ」
「白黒ショーの役者の演技だけじゃなく、ホモの技巧まで仕込まれているって訳か。そりゃなかなか大変だな」
岡田はそう言って苦笑いする。
「月影荘のショーの参考にはならないか」
「レズならともかく、ホモじゃねえ。あまりに間口を拡げ過ぎってものよ」
「町子はレズ専門だものな。直江とは昔、いい仲だったって聞いたぜ」
「別に専門って訳じゃないわ。もしそうならあんたとは寝ないわよ」
町子はそう言うと、ふと思いついたように岡田に尋ねる。
「ところで、夜のショーはどうなっているの」
「そうだな、予定ではまず、村瀬文夫と野島美津子の青春白黒ショー」
岡田がそう言うと、バーの中央に立たされた美紀夫人の表情が再び悲痛に歪む。
「青春白黒ショーっていうのが傑作ね」
「実際、セーラー服と詰め襟で登場するそうだ」
「それはショーの演出としても受けそうだわ」
町子は感心したように頷く。
「月影荘でも、雪路と雅子にセーラー服を着せて、レズビアンショーをやらせてみようかしら」
「セーラー服か」
岡田は思わず噴き出す。
「あの二人ならまだ十分似合うとは思うが、どうせならさっきのように時代劇仕立ての方が良くないか」
「男装の美剣士と盲目のお姫様か。なかなかいけそうじゃない。その時はあんたや三郎、内田さんも斬られ役で出てもらわないと」
「考えとくよ」
岡田はそう言って笑うと、「その次は折原珠江と千原美沙江のレズビアンショー」と続ける。
今度は絹代夫人の顔に哀しげな陰が差す。
「珠江夫人か」
町子の目が興味深げに輝く。
「さっきの、何て言ったかしら。大男の実演役者」
「捨太郎か」
「そうそう、捨太郎との絡みは見物だったわ。何度もいかされたあげく、最後は失神させられちゃったけど、迫力満点で、とてもお上品な医学博士夫人だとは思えなかったわ」
「きちんと演じきらないと、美沙江が捨太郎と絡まされると脅されていたって話だ」
岡田のその言葉を聞いた絹代夫人の顔がさっと青ざめる。そんな夫人の表情の変化を、町子は楽しげに眺めながら続ける。
「それにしても、あの捨太郎って男は化け物ね。美沙江なんてお嬢さんが相手をさせられちゃ、たちまち壊されてしまうわ。珠江夫人が必死になるのも無理もないわ」
「ところが、静子夫人ってのはその捨太郎と五時間にわたって渡り合い、相討ちにまで持ち込んだって話だぜ」
「相討ち?」
町子は訝しげに眉を上げる。
「どういうことなの?」
「最後は静子夫人も失神したが、捨太郎もグロッキーにさせたって話だ」
「へえ」
町子は驚きの声を上げる。
「あの化け物相手に五時間もわたり合うってのは大したもんだわ。ぜひこの目で見たかったわ」
「それが元遠山財閥夫人っていうのが二重の驚きだ」
「確かにそうね。静子夫人ももちろんだけど、珠江夫人もポルノスターの素質十分ってところね」
絹代夫人の表情がますます哀しげに陰っていく。
町子は自分と岡田の会話、そして他の客たちが言い交わすショーの感想の一つ一つが、裸の晒し者になっている二人の美夫人に対する責めになっていることに、ゾクゾクするほどの嗜虐性の快感を知覚するようになっているのだ。
「その次の出し物は何なの」
「えーと」
岡田はプログラムをめくると「新入り奴隷四人による糸通しショーとなっているな」と答える。
「すると、こちらの奥様二人も出演するってわけね」
町子は美紀夫人と絹代夫人に皮肉っぽい視線を投げる。
264.晒しもの(1)

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