280.被虐の兄妹(7)

「許して、兄さんっ」
 久美子の頬を涙が伝い落ちる。山崎の肉棒が極限までそそり立ったのを確認した銀子は久美子に「ストップ」と声をかける。
「それ以上続けたら探偵さんの拳銃が暴発しちゃうわ。そんなことになったらもう一度弾を込めるのが大変よ」
 銀子はそう言って笑うと久美子に「手を使うのはやめて、今度は唇と舌でお兄さんを愛してあげなさい」と命じる。
「そんな……」
 久美子はひきつった表情を銀子に向ける。
「私たち、本当の兄と妹なんです」
 久美子が哀願するように言うと朱美が「そんなこと分かっているわよ」とピシャリと言い放つ。
「血の繋がった兄と妹にさせるから面白いんじゃない。そうでなきゃこのへっぽこ探偵さんを楽しませているだけよ」
 朱美の言葉に居並ぶやくざ立ちがゲラゲラと笑い出す。
「さ、早くしなさい。やらないとまたお兄さんのものをさっきよりもずっと酷い方法で責め上げるわよ。お兄さんが結婚できない身体になっても良いというの」
 銀子はそう言うと久美子の頭を掴み、山崎の肉棒に押し付けようとする。
 久美子はぐっと唇を閉ざし抗いの意思を示していたが、朱美も一緒になって押さえ込まれ、久美子はついにその唇を兄のものに触れさせる。
「うっ……」
 久美子の全身に背徳の痺れが走る。久美子の力が抜けたのに気づいた銀子と朱美は調子に乗って久美子の身体を押さえたり、髪を引っ張ったりし続ける。
「も、もうやめてっ」
 久美子は悲鳴を上げると「嘗めるわ、嘗めればいいんでしょうっ」と自棄になったように言い放ち、大きく口を開いて兄の肉棒の先端を咥え込む。
「うっ、うぐっ……」
 鉄のように硬化した山崎の肉棒が久美子の喉奥を突く。久美子は嘔吐しそうな苦しみを堪えながら、兄の肉塊を頬張っている。
「あ、ああ……く、久美子っ……」
 頭上から聞こえているはずの山崎の喘ぎ声が、頭の中で響く。それは本当に兄が発している声なのか、それとも兄と妹が倒錯的な性行為を強いられるという極限状態における幻覚なのか、久美子自身にも分からなくなってきている。
 いや、むしろ自分はもはや狂気に陥っているのではないか。久美子はぼんやりとそんなことを考える。
 妹が兄に口唇による愛撫を注ぎ込むことなど、現実に起こるはずがない。いかに脅迫、強要されようが、それは人間として超えてはならない一線なのだ。
 しかしなぜか久美子は、強いられたその淫らな行為を止めることが出来なくなっている。自分が舞台の上にいること、また川田が書いた脚本に沿って演技をしていること、それらすべてがどうでも良くなってきているのだ。
(淫らな女にしたいのなら、思い通りになってあげようじゃないの)
 久美子はいつしかそんな開き直ったような気持ちになってくる。そそり立った兄の男の象徴――男性経験のない久美子にとって普段なら正視するのもおぞましいそれが不思議なほど愛おしくさえ感じる。そしてその兄の肉塊に絡みつく自らの唇と舌、口腔、そして喉の入り口までが別の生き物になったような錯覚に囚われているのだ。
「ああ……お兄さん、す、素敵だわ」
 久美子が突然そんな言葉を口にしたので、銀子と朱美は驚いて顔を見合わせる。
「堅くて、太くて、なんて逞しいの、ああ、た、たまらない」
 兄の肉棒を愛撫しながらそんな淫らな台詞を発する――ショーの観客を喜ばせるために銀子と朱美自身が久美子に教え込んだことなのだが、実際に舞台の上で口にするまでには久美子は相当抵抗し、逡巡すると思っていたのである。
 しかし今や久美子はまるで自分の意思でそうしているかのように、淫らな言葉を吐きながら兄の肉棒をしゃぶり抜いているのだ。その表情からは先ほどまでの堅さはすっかり消え、吊り上がった眉は下がり、理知的な瞳は淫情に煙るようだった。
「ああ…美味しいわ……お兄さんの……」
 チ×ポ、と久美子ははっきりと男性器の卑俗な名称を口にする。人が変わったような久美子の痴態に煽られるかのように、山崎は「ああっ、久美子っ」とまるで恋人を呼ぶように久美子の名を口にするのだ。
 山崎が限界に達していることを察した銀子が久美子を止めようとしたその瞬間、久美子はさっと口を離し、挑発するような視線を山崎に向ける。そして微妙な笑みさえ浮かべながら、山崎の熱を冷ますかのように自らの柔らかい乳房をそっと兄の肉棒に押し付け、「駄目よ、お兄さん、まだ出しちゃ」と言うのだった。
 はっと我に返った山崎は苦しげに顔をしかめる。山崎の熱が少し冷めたところで久美子はそっと舌先を伸ばし、再び兄の鈴口の辺りをくすぐる。妹のそんな技巧で再び淫情をかき立てられながら、山崎は必死で理性を取り戻そうとするかのように「や、やめろ、やめるんだ、久美子っ」と声をかける。
「駄目よ、やめないわ」
 久美子は山崎と視線を合わせながらはっきりと言い放つ。
「もっと大きく、堅くしなきゃ駄目。だってお兄さん、これで久美子の処女を奪ってくれるんでしょう」
 そう言いながら久美子は山崎の亀頭のあたりを丁寧に嘗め上げるのだった。
 まるで妖婦に変貌したような久美子の姿に圧倒されていた銀子がはっと我に返り、次の指示を出そうとしたとき、久美子はそれを制するように立ち上がり、山崎の前に仁王立ちになる。
「ね、お兄さん、見てっ」
 久美子がそう言って伸びやかな二肢を扇のように開き始めたので、観客席からもどよめきの声が起こる。
「見て、よく見て」
「く、久美子、やめろ、気でも狂ったのか」
 淫女と化したような久美子の姿に山崎は恐怖さえ感じ、制止の言葉を口走るが、久美子は口元に冷たい笑みさえ浮かべながら「何を格好つけているのよ、お兄さん」と言う。
「そんなにおチンチンを堅くして、もうやりたくて仕方がないんでしょう」
 久美子はそう言うと翳りを失った股間に当て、花扉をぐっとくつろげる。
「ね、見て、お兄さん、見てッ」
「く、久美子……」
「毛を剃られているから、よく見えるでしょう、久美子の――」
 おマンコ、と口にしたとき、久美子の裸身がブルッ、ブルッと痙攣を示す。
 卑猥な言葉を口にしたことにより軽いエクスタシーに達した久美子を、銀子と朱美は唖然として見つめている。
「くっ……」
 久美子は歯を食いしばって快楽に耐えると、山崎の身体に自らの裸身をぶつけるようにする。
「お兄さん、お願いっ」
 久美子はそうほざくように言うと、山崎の身体を抱きしめながら自らの唇を山崎の唇に触れさせる。
 兄と妹が唇を重ねる――その決定的な瞬間を目撃した観客たちはいっせいに身体を乗り出す。
「いいぞ、ご両人」
 久美子はやくざたちのそんなからかいの声を遠くに聞きながら、ゆっくりと山崎の裸身に自らの肉体を重ねていくのだった。

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