第94話 崩壊への序曲(2)

「そんなに嫌そうな顔をするんじゃないよ。しっかり口をお開け、シノブ1号」
いきなり美樹に名前を呼ばれたしのぶは、おどおどした顔付きになり、言われるがまま口を開ける。
「すぐに飲み込むんじゃないよ」
美樹はグラスの中のとろりとした液体を半分ほどしのぶの口の中に流し入れる。
「そのままにしておくんだよ」
続いて美樹は裕子の口の中に残の液体を流し入れる。誰が出したとも分からぬ精液を嚥下させられるおぞましさに、裕子は肌が粟立つような嫌悪感を覚えるが、逆らう気力は既に失われている。
「舌の上に溜めるようにして、口を開いて見せてご覧」
しのぶと裕子は美樹の指示に大きく口を開けて口腔内を見せる。赤い舌の上に白濁した液体が溜まっている様子が何とも生々しい。
「それじゃあ、2人一緒にごっくんと喉を鳴らして飲み込むのよ」
(この声……どこかで)
裕子は指示をする美樹の声に聞き覚えを感じながら、言われるがまま口中のものを飲み込む。
しのぶも目を閉じておぞましさに耐えながら、唾液と交じり合ったそれを飲み込む。しのぶが飲み込んだ瞬間、美樹と香織は目配せをして笑い合う。
「もう一度口を開けて大きく舌を突き出しなさい。ちゃんと飲み込めたかどうか確認するわ」
2人の美熟女は美樹の指示に従い、犬のように口を開けて舌を突き出す。しのぶと裕子の舌にはところどころ白い残滓が付着しているが、おおむね飲み込めたことを認めた美樹と香織は満足げに微笑する。
「どう、美味しかった?」
美樹はくすくす笑いながらしのぶの肩に手をかける。
「お、美味しかったですわ……」
「そう、それは良かったわ」
美樹と香織は再び顔を見合わせて笑い合う。
「お前はどうなの、美味しかったの?」
「お、美味しかったです」
裕子も美樹に乳房をやわやわ揉み上げられながらそう答える。勝ち気な裕子にも弄虐者に対する卑屈な態度がしっかりと身体に染み込んでしまっているのだ。しのぶと裕子の答えを聞いた香織と美樹は耐えられなくなったように笑い転げる。
そんな成り行きをじっと眺めていた貴美子の胸の中に、再び不安の黒雲が広がって行く。
(一人が母さんだとしたらもう一人は……あの女は確か「シノブ1号」と呼んだ。母さんの友人で、里佳子のボーイフレンドの健一君の母親でもある加藤さんの名前は確かしのぶといわなかったかしら……)
そんな動揺を察したかのように香織が貴美子の方を向いて、ニヤリと魔女のような笑みを浮かべた。貴美子の裸身に戦慄が走る。
「それじゃあ、いよいよ感動のご対面といきましょうか。赤沢さん、脇坂さん、シノブ1号とユウコ1号のマスクを外して」
赤沢と脇坂は「わかった」と頷くと2人の美熟女のマスクに手をかける。しのぶと裕子は軽く抗いの姿勢を見せるが強く拒むことはなく、マスクはあっけなく剥がされていく。
「ああ……」
「いや……」
しのぶと裕子の素顔が露わになる。2人の顔はマスクの下ですっかり汗に濡れ、いつもよりは濃いめに施された化粧も殆どはげ落ち、すっぴんの状態に近い。2人共整った顔立ちをしてはいるが、やはり37歳と42歳の年齢は隠しようがない。
周囲のギャラリーからどよめきの声が起こる。しのぶについては彩香という源氏名でここ数カ月「かおり」でホステスとして働いていることで、以前の専業主婦であったころと比べると格段に顔が売れてきている。
裕子はもともと前自治会副会長、現東中PTA会長とコミュニティの有名人であり、またその日本人ばなれした顔立ちとモデルを思わせるプロポーションで颯爽とジョギングする姿に密かに憧れている男たちも多かった。
2人は以前もこの東公園の自治会館前で素顔を晒してオナニーを演じたこともあったが、それは黒田、沢木、そして脇坂グループなどほんの一部の前で行っただけである。朝帰りの際に偶然目撃した美樹のような例はあったが、今朝のように不特定多数の前でここまで破廉恥な行為を演じたのは初めてのことである。
黒い全頭マスクを被せられ、顔が見えないという安心感が2人を大胆にさせたという側面はあったが、こうして事後にマスクを外されれば同じことである。素顔を晒される段階で強い抵抗を示さなかったのは、2人が味わった露出と被虐の快感がそれほど深いものだったのか。それとも2人の精神に抜き難い奴隷根性が既に刷り込まれていたのか。
いずれにしてもしのぶと裕子は自らの消極的な意志もあって、人間と真の奴隷の境界を越えたのだ。
「どう、大勢の前で素っ裸のまま気をやった感想は?」
「奴隷としては最高の気分じゃないの」
美樹と香織はケラケラ笑いながらしのぶと裕子の裸身を小突き回している。
貴美子は目の前に展開されている信じ難い現実に――いや、貴美子の心理の深層では十分予想していたものかも知れないが――すっかり打ちのめされていた。
(お母さん――どうして――)
貴美子の裸身が恐怖と困惑にブルブルと震え出す。立つこともままならない貴美子を朽木が、背後からさも楽しげに支えている。
「ついでだからその新入りの牝馬の顔も晒してやって」
「い、嫌っ」
香織の声に愕然とした貴美子はさすがに激しく身悶える。
「こらっ、おとなしくしなっ」
朽木が羽交い締めにしようとするが、連日の調教の疲れがあるとはいえ、空手有段者の貴美子を力で押さえることは出来ず、たちまち跳ね飛ばされてしまう。
「暴れるとためにならないわよ、ユウコ2号。こちらを見るのね」
美樹の声の方に視線を向けた貴美子は、恐ろしいばかりに顔を引きつらせる。
同時にしのぶと裕子の喉からつんざくような悲鳴が迸り出た。
「け、健一っ」
「里佳子、どうしてっ」
誠一に小突かれ、よろめきながらやって来たのは健一と里佳子だった。中学3年の美少年と美少女は哀れにも素裸を後ろ手に縛り上げられている。
「母さんっ」
「ママっ」
香織は呆然と立ち尽くしている貴美子にツカツカと近寄ると、一気にマスクを取り去った。
「き、貴美子……」
衝撃のあまりふらふらと倒れそうになる裕子を、脇坂がしっかりと受け止める。
「さっきお前が飲んだザーメンは誰のものだかもうわかったでしょ、しのぶ」
香織は残酷な笑みを浮かべてしのぶに話しかける。しのぶは恐ろしいまでに見開いた目を香りに向ける。
「しのぶの可愛い息子が、素っ裸の母親が大股開きでマンズリに耽るのを眺めながら勢いよく噴き出したものだよ。しかも男の手で扱かれながらね」
美樹に目で促された誠一が、しのぶの前に進み出る。
「はじめまして、お母さん」

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