京子がシスターボーイ二人の嬲りものになっているちょうど同じ頃、折原珠江は川田と吉沢によって、森田組のチンピラやくざたちの溜まり場である六畳の部屋に連れ込まれていた。
部屋の中央には天井の梁から垂らされたロープに縄尻をつながれた珠江夫人が素っ裸のままで立たされており、その腰のあたりにチンピラたちの兄貴格でもある竹田がまとわりついている。
大塚順子、和枝、葉子、そしてチンピラたち数人が珠江を取り囲むように座り込み、朝酒を酌み交わしている。狭い部屋は酒と女の体臭でむっとするような空気に満ちている。
「あっ、ああっ、もう許してっ」
珠江が耐えかねたように裸身を震わせると、竹田が「もう少しだから静かにしねえかっ」と怒声を上げ、珠江の尻をぴしゃりと叩く。
「おとなしく剃らせるのよ、折原夫人」
順子は珠江の懊悩を眺めながらさも楽しげに声をかける。
「あなたから剃り取ったものの半分は、愛しいご主人に送ってあげるわ。もちろんお尻の方の縮れ毛も一緒にね」
順子がそう言うと、和枝と葉子がどっと笑いこける。
「さぞかしびっくりするでしょうね」
「どれがどこの毛か分かるかしら」
珠江夫人は女たちのそんな恐ろしい言葉を気が遠くなるような思いで聞いている。
もう自分は終わりだ──仮にここから解放されても、医学博士である夫の顔に泥を塗った私はもう、あわせる顔がない。
いや、先ほどこの場で、順子たちや川田、吉沢、そしてチンピラたちが見守る中で立小便まで演じた自分は、女としては死んだも同然ではないのか。
(大塚さん、御安心なさって、今日から私、森田組の奴隷として、ここで永久に暮しますわ。そして――大塚さんの湖月流生花が発展する事を、心より祈りますわ)
順子に対して誓った言葉、あれは自分の本心から出たものかもしれない。もはや自分は、性の奴隷として一生をこの屋敷で暮らすしかないのではないか──。
「静子夫人を何としても妊娠させろ、ってのが遠山夫人の言いつけだ」
川田は珠江の狂態を楽しげに眺めながら、隣の吉沢に話しかける。
「山内先生に人工授精を受ければ、さすがの静子夫人も妊娠するだろうが、そうなるとあまり無茶をさせるわけにはいかない。このままじゃショーのスターが小夜子や桂子など、どうしても若手中心となってしまう」
「森田組のショーには捨太郎やジョー、ブラウン、そして文夫などの男役者と美女たちの絡み以外にいわゆる白白ショー、つまり美女と美女によるレズビアンプレイが欠かせない。白黒ショーの場合は女が経験不足でも、男役者がリードすればなんとかなるが、タチ役とネコ役に別れるレズビアンの場合は、どちらかが経験豊富でないと成り立たねえ」
「だから京子と美津子を組ませるんじゃないのか」
吉沢は川田に聞き返す。
「いや、コンビを組ませた上で事前にかなりの訓練を積ませねえと、客の前で演じるのは無理だ。静子と京子のコンビだってそうだっただろう」
「そう言えばそうだな」
吉沢が頷く。
川田の言うには森田組の白白ショーで客の前に出せるのは静子対京子、静子対小夜子、それに静子対桂子。いずれも静子夫人絡みのものばかりであり、静子夫人の妊娠によりこれら3組の上演は難しくなり、急遽別の組み合わせを仕上げる必要があるというのだ。
鬼源は京子対美津子の近親相姦プレイ、京子対小夜子の姉対姉のプレイも期待は出来るものの、どちらも相手に対して相当の抵抗があるため、完成の域に達するには時間がかかりそうだ。
「それに、京子も小夜子も相手が静子夫人でない場合は、どうも精彩に欠けるようだ」
「あの二人は本気で静子夫人に惚れているからな」
川田と吉沢が顔を見合わせて笑いあう。
「しかし今さらだが、静子夫人の存在は大きいということだ」
京子も小夜子も、静子夫人に対してレズビアンの恋人に対するような感情を抱いているため、その分プレイが情熱的になる。また、二人ともまだ若く、年長のベテランの静子夫人にリードされてこそその新鮮さが引き立つという面があるようだ。要するに千代の希望通り静子夫人を人工授精させるのは良いが、それが原因でショーへの露出頻度が少なくなるばかりでなく、コンビを組む若い娘たちにも影響するのである。
「それで森田親分と鬼源は、これからのショーのプログラムを珠江夫人中心に組もうと決めたんだ」
森田と鬼源はそうすれば京子、小夜子、美津子といった若いスターたちも再び輝きだすと考えたのだ。そのためにはいまだ奴隷としての経験が浅い珠江夫人を、短期間で静子夫人に匹敵するくらいのスターに育てる必要がある。珠江夫人をチンピラ部屋に放り込むのも、精力が有り余っている若いやくざたちによって昼夜を問わず犯させることで、実演スターとして一気に開花させようという意図からである。
「鬼源は、これからの同性愛ショーについても珠江と美沙江のコンビを中心に据えようって言うんだ」
「なるほど─二人はどう見ても、姫君と腰元、って感じだからな」
川田の言葉に吉沢は口元に淫靡な笑みを浮かべる。
美沙江と珠江は元々千原流華道の後継者とその後援会長という親密な関係にあり、二人が誘拐されてから珠江が美沙江に対して発揮する自己犠牲の精神は、珠江が潜在的に美沙江に対して同性愛めいた感情を抱いているせいとも考えられる。
そんな恐ろしい会話が川田と吉沢の間で交わされていることも知らず、珠江夫人に対する屈辱の剃毛責めはようやく終わりを告げようとしている。羞恥の丘をすっかり剃りあげられ、幼女のような趣を見せている珠江夫人に、順子たちのからかいが飛ぶ。
「まあ、可愛いわ、折原夫人」
「そこだけ見たら赤ちゃんみたいよ」
珠江は野卑な女たちのそんな嘲りのこもった声を、屈辱をこらえるように肩先を震わせながら、じっと顔を伏せて聞いている。
「では約束どおり、奥様の身体から剃りとったものは私が有難く頂くわ。半分、ご主人に送っておいてあげるわ」
順子が追い討ちをかけるようにそう言うと、珠江は弾かれたように顔を上げる。
「ほ、本当に主人にそんなものを送るのですか」
「そうよ、冗談だと思った?」
順子は珠江夫人の悲痛な表情をさも楽しげに眺める。
「ここの女奴隷たちで外の世界に恋人や夫がいるものは、みんなそんな風にしているのよ。遠山夫人や村瀬宝石店の令嬢、そして京子さんっていう女探偵は、そこの毛だけじゃなく、浣腸をされてお尻から流し出したものまで送られたのよ」
珠江夫人の顔は驚愕に歪む。
「いずれ折原夫人のご主人にもそうしてあげるわ。ご主人はお医者様なのでしょう? 奥様の検便や検尿を依頼するにはちょうど良いじゃない」
順子はそう言うと和枝や葉子と顔を見合わせ、ケラケラと笑いあう。
「せっかく綺麗に剃っていただいたのだから、お礼のキッスをして差し上げたら」
「何をキッスくらいで照れているのよ。折原夫人はこれから三日三晩、このチンピラ部屋で男たちに抱かれなければならないのよ」
順子に畳み掛けるように決め付けられ、珠江はひきつったような表情になる。
竹田が「へへっ」と笑いながら珠江に顔を近づける。反射的に顔を逸らそうとする珠江に、川田の罵声が飛ぶ。
「どうして避けやがる。もっと女らしい色気を発揮しろとさっき教えられたばかりだろう。そんな愛想のないことじゃ、美沙江の代わりは無理だな」
「や、やめてっ。お嬢様には手を出さないでっ」
珠江は悲痛な表情でそう叫ぶと、涙に濡れた目を竹田に向ける。
「た、竹田さん──そ、剃っていただき有難うございました。珠江のお礼の気持ちに、き、キッスをさせてください」
珠江が死んだ気になってそんなせりふを口にすると、順子たちからいっせいに冷やかしの声が上がる。珠江は硬く目を閉じたまま竹田の接吻を受け入れていくのだ。
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