169.敗北の兄妹(9)

「もう四十過ぎの大年増の身体だけれど……まだまだ魅力的だとは思わない? と、殿方の目でご覧になって、どう思われるかしら。ねえ、おっしゃって……」
 美紀は山崎の目をじっと見つめ、そんな言葉を吐きながら成熟した裸身をゆっくりとくねらせる。
「ねえ、ねえ、黙っていてはわからないわ。遠慮なく批評していただいて良いのよ。美紀のハ、ダ、カ……」
 そんな風に卑猥な言葉を吐かせられながら、淫らな演技を強いられている美紀夫人は、次第に頭の中に靄がかかったような気分に陥っていく。美紀夫人の思いがけない妖艶な演技に、田代も森田もすっかり引き込まれているのだ。
「小夜子もいざとなれば開き直ったような大胆さを見せて驚かされることがあるが、あれは母親譲りだったということだな」
「まったくで」
 田代が腕を組みながら感心したようにそんなことを言うと、森田もまた同意するように大きく頷く。
「お次は絹代夫人だよ」
 銀子の声に義子が頷くと、朱美を真似るように絹代の耳元で何事か囁きかける。
「ああ……そんな……」
 絹代夫人もまた恥じらいに身を縮めるようにする。美紀夫人とは一味違った、いかにも京都の名家出身らしい清楚なその仕草に田代と森田は思わず身を乗り出すようにする。
「しっかりやらないと、次に出演する美沙江にとばっちりがいくんやで。わかってるのか」
「わ、わかりました……」
 義子の怒声に絹代は悲愴な表情でこくりと頷くと、山崎の方を見て口を開く。
「ね、ねえ、山崎さん。き、絹代の裸も見てくださらない?」
 そう口にした絹代はあまりの羞恥に、美紀と同様白磁の裸身がぽおっと薄紅色にに染まる。桜が一気に開花したようなその鮮烈な色気に田代と森田は同時にごくりと唾を飲む。
「おっぱいも、お尻も……まだまだ魅力的でしょう? 絹代はこれまで、夫以外の殿方に身体を許したことがないのです。山崎さんは、絹代のしょ、生涯で二番目の男性になってみたいとは思わない?」
 絹代はそう言いながらぎこちなく腰を前後させるが、すぐに「あっ!」と声を上げて身体の動きを止める。
「どうしたんや、そこでやめてしもたらどうにもならんやないか」
 義子は苛々したように、夫人の尻をピシャピシャと叩く。
「だって、だって、す、鈴が、ああ……」
 絹代夫人は美紀と違って、その淫らな縄をかけられるのは初めての経験である。女の最も羞かしい箇所を鈴縄でキリキリ締め上げられるだけで身も凍るほどの辛さなのに、身体を前後に動かすたびに秘奥と菊蕾に沈められた二つの鈴が、敏感な粘膜を淫らに苛む感触はいったいなんと表現したら良いだろう。
 自分で自分を犯しているようなその妖しい感覚を追い払おうとするかのように、夫人は嫌々をするように力無く首を振るばかりであった。
「何を甘えたことを言うてるんや。自分で腰を振れば鈴があそことお尻の穴を自然に出たり入ったりするのが、その縄の値打ちやないか」
 義子はそう言って笑いながら、「さあ、わかったらさっさとケツを振るんや」と言って絹代の尻を再びピシャリと平手打ちする。
「あ、ああッ……」
 義子に急き立てられた絹代は仕方なく再び身体を揺らし始める。たちまち鈴がその効力を発揮し始めるが、絹代はそのおぞましい感触を娘の美沙江や、その美沙江を自らの身を盾にして守ろうとしていた珠江夫人を救うことが出来なかった自分自身に課す罰のように必死で受け止める。
(美沙江……お母様を許して)
(ああ……ごめんなさい……珠江さん)
 すると二つの鈴に蹂躙されている隠微な箇所は、次第に不思議なまでに熱を帯びてくるのだ。絹代はそんな自らの反応に対する苛立ちをぶつけるかのように、まるで山崎を挑発するかのように言い含められた言葉を放つ。
「ねえ、ねえ……山崎さん……黙っていないでおっしゃって。絹代を抱きたいの? 抱きたくないの。ねえ、男ならはっきりおっしゃって」
 そう問われても堅く猿轡を噛まされている山崎には答えようもない。しかしそんな絹代の哀切な姿を見ている山崎は卑劣な誘拐者に対する怒り、無力な自分自身を意識することによる屈辱感と言った感情とともになぜか不思議な熱が身体の芯をゆっくりと焦がして行くのを感じているのだ。
「残念ながら奥さんが人生で二番目に経験する男は岩崎時造さんと決まっているんだよ。山崎探偵は三番目にとっておきな」
 銀子がそうからかうように言うと、男たちやズベ公はどっと笑い声を上げる。
 さも辛そうに眉をひそめる絹代を楽しげに見ながら、銀子は山崎の肉棒を片手で支えるように持っていたが、「おや、名探偵。チンチンが元気になって来たみたいじゃないか。絹代夫人の裸踊りを見て興奮したのかい?」とからかう。
「探偵さんはどうも、美紀夫人よりは絹代夫人に魅力を感じたみたいだよ」
 銀子がそう言うと再びどっと笑い声が上がる。美紀夫人の整った美貌にほんの一瞬ではあるが、険しい表情が浮かんだのを銀子は目ざとく見つけ、ニヤリとほくそ笑む。
「最後は久美子だ。マリ、いいね」
「合点承知」
 マリはおどけて返事をすると久美子の耳元にひそひそと吹き込む。久美子は整った顔を悲痛に歪ませ、「そ、そんな……あんまりです」と哀願の声を上げる。
「柔道選手のお嬢さんが、今さら何を泣き言を言っているんだい。昨日はあんなに堂々と、お兄さんのザーメンをチュウチュウ音を立てながら旨そうに吸い上げたじゃないか」
 マリがそう決めつけるが、久美子はただ「そんな、そんなこと……とても言えません」と首を振るばかりである。
「言えなきゃ言えないでこちらも覚悟があるよ」
 銀子はそう言い放つとポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、音を立てて開く。
「これでへっぽこ探偵のチンチンを切り落とすまでのことさ。久美子にスターとしての覚悟がないのならショーは不成立さ。そうなりゃこんな粗チンにはもう用はないからね」
 銀子はそう言うとナイフの刃を山崎の肉棒の根元に当てる。恐怖のあまり美紀と絹代の腰の動きがぴたりと止まり、久美子の「ま、待って!」という絶叫が部屋の中に響き渡る。
「踊りを勝手に止めて良いなんて誰か言ったかい」
 マリが怒声を上げて美紀夫人の尻をひっぱたくと、義子もまた「さぼっていないで続けるんや!」と絹代夫人の尻を平手打ちする。
「あ、ああ……」
「うーん……」
 二人の美夫人は眼前で繰り広げられている光景から逃避するかのように薄く目を閉じ、淫らな踊りを再開する。
「ば、馬鹿な真似はやめなさいっ、やめるのよっ!」
 それまで死んだようにぐったりと首を垂らしていたダミヤが、恐ろしい展開に目を覚ましたかのうように、ナイフを山崎の急所に当てている銀子に向かって叫び始める。
「おやおや、浣腸責めが堪えておとなしくしてるかと思っていたのに、これじゃあ調教の邪魔ね」
 銀子が苦々しげな表情でダミヤを見ると、次に男たちの方を向き直り、「川田さん、静かにさせてやってよ」と言う。
「わかった」
 頷いた川田は吉沢とともに前に出ると、革製の洋式の猿轡をダミヤに取り付けていく。

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