「確かに、遠山氏の依頼で静子夫人の調査を行っていました。何しろ僕の目の前でさらわれたのですからね。探偵としては大変な失態です。おまけに遠山氏の義理の娘の桂子が団長をしていた葉桜団という女愚連隊に潜入捜査をさせていた助手の京子、そしてその妹の美津子さんまで行方不明になってしまいました」
「なんですって?」
事の大きさにダミヤは驚きの声を上げる。
「その後、僕の遠縁にあたる四谷の村瀬宝石店の令嬢、小夜子さんの誘拐事件が起こり、静子夫人と桂子嬢、京子と美津子さんの失踪と関係があるとみた僕は、村瀬社長と相談して身代金の受け取り現場に網を張りました。事件に関わりのあるものを一網打尽にし、一挙に解決を図ろうとしたのです。だが、その賭けは失敗に終わったのです」
山崎は苦しそうに目を閉じた。
「どうなったのですか?」
「事前に察知され、取り逃がしてしまったのです。罠を張られたことに起こった誘拐者達は、卑劣な報復手段に出ました」
「………」
「小夜子さんのとんでもない写真を、彼女の友人、同窓生、村瀬宝石店の取引先などあらゆる方面にバラまいたのです。村瀬宝石店のイメージはズタズタになり、村瀬社長も仕事どころではなくなりました」
「とんでもない写真とは、どういったものですか?」
「ご覧になりますか」
山崎は皮肉な笑みを浮かべ、オフィスに戻ると茶色い封筒を手に持って来た。
「これです」
封筒から数枚の写真を撮りだしたダミヤは、あっと小さな声を上げ、みるみるうちに頬を赤く染めた。
それはある若く美しい日本女性――小夜子という娘だろう――がレンズの前で様々な痴態を繰り広げているものだった。
殆どの写真で小夜子は緊縛されているが、両手が自由になっているものもある。ある写真では両足を大きく割って男の膝の上に乗り、後ろから狭逸な秘所を剛直で深々と貫かれており、またある写真では男の上に逆体位で身体を乗せ、男のものを愛しげに口に含んでいた。
ダミヤが慌てて写真を封筒に戻すのを、山崎は醒めた表情で眺めていた。
「静子夫人の周辺で姿を消した人物は彼女だけではありません。小夜子さんの弟の文夫君も同時に誘拐されています。そして静子夫人が後援会の会員をしている華道の家元、千原美沙江さん、後援会長で静子夫人の友人の折原珠江さん……」
「そんなに……」
ダミヤは、何かとてつもなく邪悪な事件が起こっている気配を感じるのだ。
「山崎さん、警察は一体何をしているのですか? いえ、それよりも、貴方は一体何をしているのですか?」
ダミヤは憤然として山崎に詰め寄る。
「シズコも、キョウコさんも、そしてサヨコさんも貴方には縁のある人でしょう」
「ダミヤさん……」
山崎は苦しげな表情で顔をしかめる。
「私も何もしていなかったわけではない。必死で彼女たちの消息を追いました。村瀬宝石店や千原流も警察に届け出ました。しかし、どうやっても見つからないのです」
そう言うと山崎は頭を抱えるのだった。
山崎の事務所を出たダミヤは焦燥感で胸が灼かれるような思いになる。
(こうしてはいられない――)
山崎に見せられた小夜子という女性の無残な姿――静子もまた同じような目に遭っているかもしれない。いや、山崎は静子の同様な写真をもっていたのだが、ダミヤがショックを受けることを懸念してわざと見せなかったのかも知れないのだ。
ホテルに戻ったダミヤは、夫のジャン・バルーに電話をかけ、日本での滞在が伸びそうだと告げた。
(ヤマザキさんは葉桜団という不良少女グループは新宿を根城にしていると言った。とにかく新宿の繁華街を探っていれば何か分かるのでは)
あてのない調査を再開したダミヤは数日後、偶然に悦子という少女と知り合った。
悦子はいかにも不良少女といった身なりに似合わず感心にもフランス語を勉強中ということで、フランスの雑誌を持っていたダミヤに会話の練習をしようと、街で声をかけてきたのだった。
ダミヤが静子を探していることを知り、驚く悦子。悦子が静子の居場所の手がかりを握っていると感じたダミヤは渋る悦子を説得し、静子他の誘拐された女たちが東京の郊外にある屋敷に監禁されていること、そしてその屋敷に山崎の妹である久美子や、例の写真の小夜子の母親である美紀たちが潜入していることを聞き出すのだった。
再び山崎の事務所を訪れたダミヤは、山崎が美紀や絹代の依頼を受けて静子夫人たちの救出活動を再開したこと、そして囮となって誘拐犯の屋敷に潜入した妹の久美子からの連絡が途絶えたことを知る。
ダミヤは悦子から聞いた話を山崎に告げ、そして手詰まりに陥っていた山崎に対して思い切って協力を申し入れたのだった。
その後久美子から桂子を連れて脱出に成功したと連絡があった時、山崎も当然それが罠であるという可能性には気づいていた。しかし、そうと分かっていても危険を冒して飛び込んで行かないと静子夫人たちはもちろん、妹の久美子までも永遠に失う事になるかもしれない。
ためらう山崎の背中を押したのが実はダミヤであった。ダミヤは自分に心を開いてくれた悦子が内通者となってくれることを確信していた。悦子の助けがあれば久美子の脱出も可能だと考えたのである。
しかしながら久美子の救出は無残にも失敗した。確かにダミヤの思惑どおり悦子は葉桜団を裏切ったのだが、その行動は事前に誘拐犯たちから読まれていたのである。そして失敗に備えた、ダミヤが車を走らせ、待ち合わせ場所の廃工場の裏手で山崎と久美子を拾うという策も、捨太郎が邪魔したことにより打ち砕かれたのである。
「マリ、あれを出しな」
「あいよ」
マリがなにかの植物で編み上げてつくられた褌をポケットから取り出す。
「これがあんたの花嫁衣裳や。さ、股を開くんや」
「な、なにをなさるのですか?」
「何をなさるのですか、とおいでなすったで」
義子はマリと顔を見合わせるとさも楽しげにゲラゲラ笑い出す。
「ブツブツいうんじゃないよ。そのうちわかるさ」
マリと義子はダミヤの尻をパシリと叩くと、股間をきりきりと褌で締め上げていく。
「うっ……」
敏感な箇所をごわごわした股縄で締め上げられる不快感に、ダミヤは形の良い眉を苦しげにしかめる。
「さ、歩きな」
ダミヤは再び二人のズベ公に廊下を引き立てられる。
「しかし、この外人女の日本語、時々妙に丁寧になるのがおかしいわ」
「静子夫人に上品な言葉を教えられたからだろう。こういう言葉づかいの方がかえって面白いじゃない」
ダミヤが暴力嗜好者に対しても丁寧な言葉づかいをするのが、マリや義子にとっては嗜虐心が掻き立てられる気がしてぞくぞくとした興奮を感じる。
「あ、ああっ、痒い、痒いですわっ」
ダミヤが突然立ち止まり、切羽詰まったような声を出す。
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