299.姉妹と姉弟(4)

「さすがは京子さんね。もう十分のようね」
 文夫の身体が十分整ったのを確認した静子夫人は静かに微笑し、文夫と美津子に向かって「さあ、始めなさい」と告げる。
 その言葉を待ちかねていたように美津子は「文夫さんっ」と一声叫ぶと、新鮮な裸身を文夫の裸にぶつける。
「ああ、美っちゃん」
「文夫さん、愛しているわ、文夫さん」
 美津子は陶然とした表情でそう口走ると、文夫の身体のあちこちに接吻の雨を降らせる。清純な女学生そのものといった容姿の美津子が、情熱的に文夫に愛撫を注ぐのを見た観客はいっせいに喝采を送る。
「あの美津子って娘、可愛い顔をしているのに凄いわね」
 町子が感心したようにそう言うと、岡田もまた頷きながら「開き直ると女の方が強いんだろうな」と頷く。
「ここに連れて来られてきた頃は、虫も殺さないようなお嬢様だったそうよ」
 千代が口を挟む。
「へえ、そうなんですか」
「それはここにいる文夫のお母様が詳しいわ。ねえ、そうでしょう、奥様」
 千代が、和枝と葉子の間に挟まれて、素っ裸の身体を縮めている美紀夫人に目を向ける。
「なんとかおっしゃいよ、奥様」
「あなたの可愛い息子の交際相手のことを尋ねているのよ」
 和枝と葉子から交互に耳を引っ張られ、乳首を抓られた美紀夫人は耐えかねたように「と、とても良い娘さんでしたわ」と答える。
「でしたわ、っていうことは今はそうじゃないって言うことね」
 和枝が言葉尻を捉えて追求すると、美紀夫人は「い、いえ、そういう意味ではありません」と首を振る。
「ねえ、奥様、可愛い息子がああやって、人前で堂々とセックスしているのを見るのはどんな気持ち? 教えて欲しいわ」
 葉子がニヤニヤしながら美紀夫人に尋ねると、夫人は顔を真っ赤にして俯く。
「あら、そんな風にカマトトぶっても駄目よ。さっきは奥様だって、お尻から生やせた尻尾を振り回して大熱演だったじゃない」
「あんな恥ずかしい演技が平気で出来る奥様から産まれた息子さんだから、ああやって大勢の前でおチンポを立てることが出来るのかしら。ねえ、息子さんにどんな教育をなさってきだの?」
「息子さんだけじゃないわよ」
 葉子が嵩にかかって責め立てる。
「お嬢さんだって、舞台の上で弟のおチンポを堂々とおしゃぶりするなんて、私、驚いたわ。以前からお二人は、お家の中でもあんなことをなさっていたの」
「ち、違います」
 美紀夫人は小夜子と文夫を侮辱された怒りに、思わず反撥の声を上げる。
「そ、そんなことしてませんっ。二人は血を分けた姉弟なんです」
「血を分けた姉弟が聞いて呆れるわ。今じゃ二人並んで素っ裸で、卵割りや分銅吊りを演じる、ポルノショーのスターじゃないの」
 千代がそう言うと、三人の女たちはケラケラと声を上げて笑う。
「ご覧なさいよ、奥様」
 葉子は無理矢理美紀夫人の顔を舞台に向けさせる。舞台の上では文夫と美津子がぴったりと身体を重ね合わせている。
「み、美っちゃんっ」
「文夫さんっ」
 互いの名を呼びながらその部分を結合させて、腰を懸命に振り立てている文夫と美津子――あまりに生々しい息子の姿を目にした美紀夫人は、再び思わず顔を伏せようとするが、葉子に噛みをぐっと掴まれ、引き上げられる。
「ちゃんと見るのよ。息子の晴れ姿を」
「どこから見ても立派なポルノスターよ」
 葉子と和枝は美紀夫人に向かって吐き捨てるように言う。
「ああ……」
 絶望に喘ぐ美紀夫人に、和枝が急に猫なで声になって囁く。
「ねえ、奥様、あなたの息子さんを今夜、私に貸してくれないかしら」
「えっ」
 美紀夫人は耳を疑って和枝の方を向く。
「ど、どういう意味ですか」
「どういう意味なんて、あからさまに聞かれても困るわ」
 和枝がそう言うと、千代と葉子はケラケラ笑い出す。
「和枝さんは一目見たときからあなたの息子さんに首ったけなの。以前からあんな美少年とぜひ一夜をともにしたいって言っていたのよ」
「わ、私の息子に、身体を売れというのですか」
「あら、人聞きが悪いわね。誰も金で買おうなんて言ってないわよ」
 和枝がそう言うと葉子が「そもそもこの人は金を払おうなんて思っていないから」と混ぜっ返す。
「茶々を入れないでよ」
 和枝は葉子を軽く睨むと、再び美紀夫人の方を向き直る。
「要するに、一晩の恋人関係を結びたいの。分かるでしょう」
「そ、それを私に了解しろと言うのですか」
「本来なら別に了解を取る必要なんかないのよ。あなたの娘も息子も森田組の所有物、性の奴隷なんだから、森田親分がうんと言えばすむことよ。それに、森田親分はうちの岩崎の言うことならなんでも聞くわ」
 和枝にそう迫られた美紀夫人は苦しげに俯く。
「そう言えば今日、お客で来ている南原組ってやくざなんだけど、親分の南原さん以下、お稚児さん趣味の人が揃っているんだって」
「お稚児さん趣味って……」
「あら、奥様、お稚児さん趣味がなんだか分からないの?」
 和枝がそう言って意味ありげな微笑を浮かべると、美紀夫人の顔色がさっと変わる。
「まさか……」
「そう、そのまさかよ。組のシノギとして、ホモビデオの制作やホモショーの実演なんかもやっているみたいなの。世の中にはそう言った趣味の人は沢山いるようで、なかなか繁盛しているようだわ」
 和枝はクスクス笑い出す。
「その南原親分があなたの息子さんに興味津々みたいだって聞いたわ。たぶん、今夜あたり味見したいって言って来るんじゃないかしら」
「そんな……」
 美紀夫人は恐怖にガタガタ震え出す。
「奥様は可愛い息子さんを、ホモのやくざたちの餌食にしたいの」
「い、いえ……」
「それじゃあ、あたしに貸してよ、いいでしょう」
「……」
「どうなの、奥様」
 追い詰められた美紀夫人はコクリと頷く。
「まあ、許してくれるのね」
 和枝の顔がぱっと輝く。

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