17.告白(1)

「ちょ、ちょっと、どうするのよ」
里美のメッセージが画面に踊ります。
「こんなの一人で見させようって言うの?」
「何とか手掛かりを掴んでくれ、お願いだ」
「手掛かりったって……あっ、待って、東山さん、待ってよ」
私は会議室からログオフしました。
重要な商談の客を待たせてはいけないということももちろんありましたが、私の心を大きく占めていたのは、早くこの場を逃げ出したいという欲求でした。
妻が役員の男たちから弄ばれていたのももちろんショックでしたが、それよりも大きな衝撃だったのは妻が息子の担任教師と不倫関係にあったということです。とても信じられないことですが、妻はそのことを否定していませんでした。
私は混乱した頭のまま商談に臨みました。私の会社の事業は主として絶版になった本を電子出版の形で復刻し、コンテンツをさまざまなポータルサイトに提供するものです。過去に一世を風靡した作家の作品も現在の書店の限られた棚では手に入れることは困難です。これを作者と直接取引することにより印税率を上げるとともに販売価格を下げるというのがポイントです。
その日のミーティングはある大手プロバイダとの価格交渉でしたが、私は妻のことが気になって、商談中は上の空でした。そのためその日のうちにクロージングさせるはずだったのが、いくつか課題が残ってしまいました。
(こんなことではいけない……)
1時間ほどして商談が終わり、部屋に戻った私はそう反省するのですが、やはり役員会の続きが気になります。再びPTAの会議システムにログインしましたが、そこにはもう妻の姿も、4人の男たちの姿もありませんでした。
「東山さん」
いきなり画面下にメッセージが現れました。
「里美か。あれからどうなった」
「どうなったもこうなったも……何が聞きたいの?」
「何がって、絵梨子の様子だよ」
「……」
「どうした? 教えてくれよ」
「ちょっと私には言いにくいわ」
「なぜだ?」
「なぜって……わかるでしょう。とにかくここから出て、ライブチャットに切り替えましょう。いちいちキーボードを叩くのは疲れるわ」
「わかった」
私は里美に言われるままシステムからログオフすると、ライブチャットに切り替えます。やがて画面に里美の顔が現れました。
里美は怒ったような表情をしています。しかし私はそんな里美を気遣う余裕もありません。
「さあ、教えてくれ、里美」
「奥さんが男たちの前でやったこと? それとも話したこと? どちらを知りたいの」
私は少し考えて答えました。
「両方だ」
「そう言うだろうと思ったわ」
里美は溜息を吐くように言うと、立ち上がってカットソーとジーパンを脱ぎ捨てました。里美の白いコットンの清純そうな下着が露わになります。
「何をするんだ」
「奥さんがやったことを再現してあげるのよ」
里美はブラとパンティも脱ぎ捨て、素っ裸になります。
「そこまでしなくて良い。服を着てくれ」
「そうはいかないわ」
里美はそう言うと一瞬PCの前を離れ、すぐに戻ります。両手に胡瓜とプチトマトの箱を抱えていました。
「あんなのを一人で見せられて、凄く後味が悪かったのよ。鬱な気分を東山さんにも分けて持ってもらうわ」
里美は一体何を考えているのでしょう。
これまで私は里美とずっとライブチャットで話をしていたとはいっても、彼女に対してセクシャルな要求をしたことはありませんでした。それが急に頼みもしないのに素っ裸になり、異物挿入の真似事までするというのです。私はすっかり混乱しました。
「奥さんが何をして何を言ったか、全部覚えている訳じゃないけど、出来るだけ忠実に再現して上げるわ」
「……勘弁してくれ」
「勘弁して欲しいのはこっちよ。あんなものを見せつけられて、聞かされて。私、人間不信と結婚恐怖症になってしまうわ。東山さん、責任を取ってもらうわよ」
里美はそう言うと椅子に座り、いきなり肢をM字型に広げると、片手に持った胡瓜を股間に当てました。
「茄子がなかったから、胡瓜で代用するわ。もっとも茄子はちょっと自信がないけれど……」
さすがに里美にそんな格好をされると、私の股間の一物も興奮のしるしを現し始めます。
「男たちは奥さんにこんなポーズを取らせると……」
里美は胡瓜で股間を撫で上げるようにします。
「茄子でクリトリスを刺激するように強要したの。奥さんは最初のうちはためらっていたけれど、やがて男たちに言われるがまま、野菜の先端で敏感な花蕾をこすり上げ始めたわ。ほら、ちょうどこんな風に……」
里美は胡瓜で自分のクリトリスを微妙に愛撫し始めます。次第に里美の口からあっ、ああっという悩ましい喘ぎ声が漏れ始めます。
「お、奥さんのスイッチがすっかり入ったのをは見計らって……男たちは奥さんと、な、長尾という教師の関係についてたずね始めたのよ……あっ……」
里美は次第に情感が迫ってきたのか、細いうなじを見せて色っぽく喘ぎます。
「奴らは何を聞いたんだ、いや、絵梨子は何を答えたんだ?」
「良く覚えていないわ……いえ、東山さんに尋ねられたら思い出すかも……私のことを奥さんだと思って聞いてみて……」
何でそんなことを、と言いそうになりましたが、一番衝撃的な場面から逃げ出し、里美に押し付けたことが私には負い目になっていました。
それに、確かに妻と男たちとの会話を一から再現しろというのは無理があります。里美は言うように問答形式にした方が、記憶が鮮明によみがえるかも知れません。私は覚悟を決めて里美にたずねます。
「絵梨子はいつから長尾と関係していたんだ?」
「ああ……」
里美は私の問いに答えず、ただ嫌々と首を振りながら熱い喘ぎ声を上げています。くねくねと裸身をうねらせる里美を見ていると、私は身体が徐々に熱くなってくるのを感じます。
「あなた……ごめんなさい……絵梨子を許して……」
里美と妻は顔も身体つきも特に似ているわけではありませんが、なぜかその仕草や、喘ぎ声が妻自身を見ているようです。私は次第に里美の演技に引き込まれ、まるで目の前に妻がいるような気分になってきました。
「答えろ、絵梨子。いつから長尾と関係していたんだ」
私は思わず会社にいることも忘れ、声を荒げます。里美は切なげに目を開けると、潤んだ瞳を私に向けました。

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