「ひ、浩樹が2年だった去年のことです。長尾先生がPTAの厚生部の学校側の担当で、役員会で親しく話しているうちに若くてハンサムな先生に惹かれ、いつの間にか男と女の関係になってしまいました」
「なんだと?」
私は激しい衝撃に頭を殴られたような気がしました。
「私はいつもあなたに対して申し訳ないという思いがあり、関係を断ち切ろうと思っていましたが、長尾先生から誘われると断り切れず、ずるずると今年の3月まで関係が続きました」
「もう一年近くも前のことじゃないか。それまで絵梨子はずっと俺を裏切り続けていたというのか」
「……申し訳ありません。あなたを裏切るつもりはありませんでした」
「ふざけるな! これが裏切りでなくて一体なんだというんだ!」
私は思わず大声を上げます。
「ちょ、ちょっと東山さん、落ち着いて。私は奥さんじゃないのよ。記憶を掘り起こし易いようにこうして演技をしているの」
私の妻になりきってカメラの前で自慰行為にふけるという倒錯的な快感に浸っていた里美は私の声で我に返りました。
そうでした。つい興奮して訳が分からなくなってしまいました。
それにしても里美の演技は真に迫っています。里美は妻よりもはるかに若く、髪形も妻とは全然違っています。しかし切なげに顔をどことなくのけ反らせた雰囲気はベッドの中で喘ぐ妻を思わせ、私をひどく落ち着かない気持ちにさせるのです。
「じゃあ、続けるわよ。いい?」
「ああ……」
再び里美は胡瓜を股間に当て、バイブレーターのように小刻みに震わせます。そうやって自慰行為にふけることが、里美が妻を演じる一種の儀式のようです。
「ああ……気持ち良い」
里美は再び緩やかな身悶えを始めます。
「何でも聞いてください。ああ、絵梨子、包み隠さずお話し致しますわ」
里美のそんな言葉に煽られるように、私は高ぶる気持ちを懸命に抑えながら、口を開きます。
「長尾とはいつ、どこで逢っていたんだ」
「主に厚生部の部会があった日です。部会の後はたいてい懇親会でお酒になるのですが、長尾先生と私はいつも一次会で抜けて、ラブホテルに行っていました」
長尾という若い教師と妻が仲良く腕を組ながら、夜の街を歩く姿を想像した私の頭は再びかっと熱くなります。
「2人で一緒に抜けて、周りから怪しまれなかったのか」
「時間差を置きましたから……まず長尾先生が先に出て、私が後から出ました」
「それにしても、2人がいつも懇親会を抜け出ていてはおかしいと思う人もいるだろう」
里美は私のその質問には答えず、ああ……と小さな溜息を吐いて軽く身悶えします。それは今日の役員会で実際に妻に対してそのような問いが投げかけられなかったという意味だと思い、私は質問を変えることにしました。
「長尾に何回抱かれたんだ」
あの下劣な男たちのことですから、質問は妻と長尾のセックスのことに集中したに違いありません。皮肉なことに私が最も知りたいのもその点でした。
「……半年あまりの間にほぼ月2回のペースでしたから……12、3回だと思います」
「嘘をつけ。逢う度に一度では済まないだろう。何回そいつとヤったんだ、正直に言ってみろ」
里美は一瞬口ごもる様子を見せます。それは実際に妻がこの質問を受けた時に見せたものなのか、それとも里美が私に、妻が言ったことを告げるのをためらっているのかはわかりません。それが私の心をますます不安にしていきます。
「……長尾先生は一晩のデートで必ず3回は私の中に出しました」
「なんだと」
私は里美の答えに驚きます。
「そんなにやったのか」
「まだ29歳と若いですし……彼は特に精力が強いようですから、それくらいは平気でした」
「彼だと? お前は長尾のことを『彼』と呼んでいたのか」
里美は無言で頷きます。私はそれが妻が長尾とセックスをしたことを知ったのと同じくらいショックでした。
私は気持ちを鎮めるために深呼吸をしました。私はようやく気持ちを落ち着かせると質問を再開しました。
「さっき『3回は中に出した』と言っていたな?」
「はい……」
「避妊はしていなかったのか?」
「ピルを飲んでいましたから……」
私は耳に入ってくる言葉が信じられません。妻が私に黙って避妊薬を飲んでまで浮気相手と中出しセックスをしていたなんて。
私は妻とのセックスの時は必ずコンドームを着用するよう求められていました。私もそれは当然のことと思っていたのですが、ピルを飲んでいたのならその必要はなかったはずです。
(浮気相手には中出しで、亭主はスキン着用か)
私は妻に対する怒りが込み上げてくるのを感じます。それにしても里美はいったい本当のことを話しているのでしょうか。
「長尾とは一体どんなセックスをしたんだ」
「それは……」
里美が少し首を傾げます。これもまた妻が何を言ったのか思い出そうとしているのか、実際こういったためらいの仕草を見せたのかわからず、私の心の中の不安はますます大きくなっていきます。
「……言えません」
「どうして言えないんだ」
私は苛々して再び大きな声をあげます。
「だって……」
「言えないことをしていたということか」
「許してください……」
里美が妖しく裸身をくねらせます。私はまたも我を忘れて里美に詰め寄ります。
「それなら俺から聞いてやる。口でもしてやったのか」
里美はかすかに頷きました。私はまたしても大きな衝撃を受けます。
「やつが出したものを全部飲んだのか」
里美はまた無言で頷きました。私は怒りと嫉妬、そして興奮で口の中がカラカラになって来ました。私は妻にフェラチオはされたことがありますが、ほんの真似事のようなもので、自分のものを飲ませたことなどありませんでした。
「……まさか、尻の穴も奴に捧げたんじゃないだろうな」
私は妻のボリュームのあるお尻が大好きで、いつかは肛門性交をと思っていたのですが、妻が痛いのは絶対に嫌と拒絶するため、果たすことが出来ませんでした。私は胸をドキドキさせながら、里美の返事を待ちます。
「……いいえ」
里美はやっと首を左右に振りました。私はほっと胸をなでおろすとともに、どこか物足りなく思っている自分がいることに愕然としました。
いつのまにか私のペニスは固く勃起し、ズボンの前は無様なまでに膨らんでいます。
もし今、カメラの前で淫らな行為にふけりながら、悦びを訴える喘ぎ声とともに長尾との行為を語る女が妻自身であったなら、私はとても快感を覚えるどころではなかったでしょう。
しかしながら里美が妻を演じることで、私の妻に裏切られたという悲しさや衝撃がオブラートに包まれたようになり、妻を寝取られてしまったというマゾヒスティックな快感が増幅されたのかもしれません。
「ああ……あなた……淫らな絵梨子を許して……」
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