22.懊悩(3)

私が興奮を静めようとしばらく風呂場でゆっくりしてから上がると、食卓には既に何品かのおかずが並んでいました。その中に茄子の田楽と、プチトマトを使ったグリーンサラダがあったので、私はぎょっとしました。
妻は私の表情が変わったのにも気が付かない風で、私のジョッキにビールを注ぐと自分の席につき、「いただきます」と手を合わせます。
私は妻の様子を上目使いでうかがいます。妻は平然とした表情でグリーンサラダに箸をつけ口元に運びます。
赤いプチトマトが赤い妻の唇の間に吸い込まれていきます。それがまるで、おちょぼ口のような妻のアヌスが果実を飲み込んで行く様子を思わせ、私の股間はまたも熱を持って来ます。
次に妻の箸が茄子の田楽に移行します。茄子は食べやすいように縦にいくつかに切られていますが、元の大きさはかなりのものであったことが予想出来ます。妻の女陰が立派な茄子をしっかり食い絞めている様子を想像した私の股間はますます熱っぽさを増していきます。
妻が私の視線を感じたのか顔を上げ、怪訝そうな表情を見せて小首を傾げます。内心の動揺を悟られまいとした私は慌てて顔を伏せます。すると視線の先にグリーンサラダの中の真っ赤なプチトマトが目に入りました。私は箸でそれをつまみ上げると口の中に入れました。
新鮮な食感と甘酸っぱい果汁が口の中に広がります。私はふと、このプチトマトは役員会で妻が肛門の中に飲み込んだものだろうかと想像しました。
田楽として料理されている茄子もそうです。妻が秘部で食い絞めながら絶頂を極めたそのものでしょうか。
そんなことを考えると通常は食欲がなくなるところでしょうが、不思議と私は思ったような抵抗もなく、食事を続けました。
普通はそのような行為に使った食材は捨てるでしょう。私もまさか妻が自分の尻の中に入れたものを私に食べさせているとまでは思いませんでした。しかし男たちの前で異物挿入を演じたその日に同じ種類の食材で料理を作り、食卓に並べる妻の心境はいったいどうなっているのだろうと私は訝しく思いました。
私は再び妻の方を見ました。私と視線が合うと妻はなぜか視線を泳がせ、一瞬右上方に逸らせた後に顔を伏せました。
ふと嫌な予感がした私は妻が一瞬逸らせた視線の方、食器棚の上に目を向けました。瞬間あまりの驚きに私の表情は凍りつきます。私は妻に動揺を悟られまいと顔を伏せました。
なんと食器棚の上にはワイヤレスのCCDカメラが設置されていたのです。カメラに映し出されたわが家の食事風景は光ファイバーを通じて犬山たちのPCの画面に送られているに違いありません。
妻はオンラインの役員会で野菜を使った異物挿入を演じた後、それを今晩の食卓に出して夫に食べさせろと命じられたのでしょう。妻の陰部や尻の中に収められた野菜を何も知らずに食べている私の姿を、今現在連中は笑いものにしていることでしょう。
私は男たちに対してこれまでにないほどの怒りを感じました。しかし、ここで私がその怒りを妻にぶつけたところで証拠は何もありません。私の妄想だと片付けられればおしまいなのです。
いや、昼間のオンライン役員会に侵入したということを話せば、妻は観念するかも知れませんが、男たちを追求する手段がなくなります。
とにかく今は男たちに怪しまれないよう耐え難きを耐え、平然と食事を続けるしかありません。
しかし、いくら男たちに命令されたとは言え、自分だけでなく夫を辱めるようなことを行うとは──妻の神経は一体どうなっているのでしょう。
長尾との不倫を公表されるということを妻はそんなに恐れているのでしょうか。それとも、妻の心の中に夫である私を辱めることについて、もともと抵抗感がなかったのでしょうか。
食器棚に置かれたワイヤレスCCDカメラについてはその後、私は絶対に目を向けないようにしましたが、私はふと頭の中にある想像が浮かび、慄然としました。
食器棚の上のカメラは慌てて設置したせいか比較的無造作に置かれていましたが、カメラはこれ一台という保証はないのです。
例えば先程私と妻が痴態を演じた浴室。そこにはカメラはなかったでしょうか。私は気が付きませんでしたが、ひょっとして私と妻の行為の一部始終は役員たちのPCに実況中継されていたかもしれないのです。
寝室にもカメラが置かれていても不思議はありません。私達の夫婦生活を監視するばかりでなく、妻は週末の役員会の前は私とのセックスは禁じられているようですから、妻がその言いつけを守っているか確認する目的もあるでしょう。
「窃視症」ということばがあるように、覗きという行為はそれ自体が麻薬的な魅力を持ち、一度はまるとなかなかやめられないと言います。オンライン役員会で自宅にいる妻を遠隔操作でいたぶることによる愉悦を知った男たちの要求がエスカレートしていったのでしょうか。
そこまで考えた私は、妻が不安そうにこちらを見ているのに気づきました。
「どうしたのですか? あなた」
「いや、何でもない」
「お食事が進みませんか? あなたの好みじゃなかったかしら」
好みじゃない訳じゃないが、おまえの尻の中に入っていたかもしれないと思うと食欲が出ない、という言葉を私は飲み込み、「そんなことはない」と答えます。
「会社で何かあったんですか?」
「仕事は順調だ」
「それなら……」
「たいしたことじゃない」
私はわざと微笑を浮かべました。
「風呂場での絵梨子の様子を思い出していたんだ」
「嫌だ……」
妻は頬を薄赤く染めて顔を伏せます。
(何が「嫌だ」だ。このカマトトめ)
「絵梨子にあんなテクニックがあるとは思わなかったぞ。『壷洗い』まで知っているとはな。すぐにでも堀ノ内で稼げるんじゃないか」
「堀ノ内、って何ですか?」
「知らないのか? 川崎の有名なソープ街だ」
「知りません……あなた、どうしてそんなことに詳しいの」
妻は怒ったような表情を見せます。
「詳しい訳じゃない。常識として知っているだけだ。絵梨子こそソープ嬢が使うような技をどこで身につけた? 少なくとも俺は教えた覚えはないぞ」
私は極力怪しまれないように、冗談を言うように言います。妻は一瞬慌てたような顔になりましたが、すぐに落ち着きを取り戻します。
「さ、さあ……知りませんわ。たぶん、映画かドラマで見たのを覚えていたのかも」
TVドラマでそこまでの描写をする訳がありません。映画としたらポルノですが、私の知っている範囲では妻がそのような映画を見たことはありません。
「そうか。俺の知らないところで絵梨子はエッチな映画やビデオを見て研究していたという訳か。絵梨子もなかなか隅に置けないな」
「エッチなビデオなんて見ていませんわ。あなたと一緒にしないで」
妻はそう言って頬を膨らませます。
「悪い悪い、さっきの絵梨子があまりに素晴らしかったので、ついからかいたくなったんだ」
私はそれ以上追求すると墓穴を掘ると感じ、その話題は切り上げました。

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