第83話 調教会議(2)

「どうしてあの二つの家族にこだわるんですか。確かに美女と美少年が揃っていますが、これまで相当の時間と手間がかかっています。これだけの手間をかけるのなら、SMクラブや出張ソープといった風俗ビジネスの人集めで同じことをやればもっと簡単に儲かるでしょう」
「それは俺も聞きたかったな」
黒田も相槌を打つ。
「あーあ、あなたたち、ビジネスのことが何も分かってないわね。それでコンビニのオーナーや証券マンがよく勤まるわねえ」
香織は大袈裟に嘆息する。
「たとえば、裕子としのぶをソープで働かせたとして、どれくらい稼げると思う?」
「それは……」
沢木が首を傾げる。
「確かに2人とも綺麗な奥様ではありますが、それほどたくさんは無理でしょうね」
「うん……若くもないし、ソープの仕事が出来る訳でもない。いわゆる高級店は無理やし、中級店も難しい。素人っぽさを生かして熟女専門の大衆店、それも癒し系でを売り物にすればかなり客はつくと思うが……」
「要するに、高付加価値路線は難しい、数をこなして稼ぐしかない、ってことね」
香織は満足そうに頷く。
「それじゃ、不特定多数の客を相手にするのじゃなく、日頃から裕子やしのぶを良く知っている男が彼女たちからソープ嬢としてのサービスを受けるとしたら?」
香織以外の5人がはっとしたような顔付きになる。
「PTAの役員仲間、担任の教師、塾の先生、友達の父親、良く買い物に行く店の主人、そういった男たちならどう?」
「それは……人によってはかなりの金を払うでしょうね。2人にどれだけ執心しているかにもよるでしょうが、多少技術が稚拙だったとしても、ソープの高級店で使う以上の金を出すものもあるでしょう」
沢木が答えると黒田たち他の4人も頷く。
「そこよ」
香織が満足げに笑みを浮かべる。
「加藤家と小椋家の男女、彼らが大きな価値をもつのはこのニュータウンの中、それも彼らが知られているコミュニティの中だからよ。しのぶや裕子がかなりの美形だといっても広い世間には目が醒めるような美人で若いソープ嬢がいたりする。それより、自分が知らない知らないどんな美人よりも、『隣の綺麗な奥さん』を抱きたいと思う男はたくさんいるわ」
「それであの家族にこだわっているわけですか。なるほど、よく分かりました」
沢木は感心したように頷く。
「本当に分かっているのかしら……」
香織は苦笑する。
「それなら、私がどうしてしのぶや裕子に水着でジョギングさせたり、バニーガール姿で駅前でティッシュを配らせたり、貴美子を有名な露出狂の淫乱娘に仕立てようとしているのかわかる?」
沢木達はぐっと黙り込む。
「いくら交際範囲の広い家族でも、しのぶや裕子、貴美子を直接知っている人はそんなに多くはないわ。彼女たちに露出調教を施すことによって、彼女たちが知られているコミュニティの大きさを広げているのよ」
「というと?」
沢木が尋ねる。
「裕子のことを東中のPTA会長としてすでに認識している人がいる。それに例えば朝の破廉恥なジョギング姿の情報が加わる。するとそこで『破廉恥なジョギングをしているPTA会長』という属性が生じる」
「逆に裕子のことを破廉恥なジョギングをしている女としてまず認識している人がいる。あとで彼は実はその女が東中のPTA会長だということを知る。そこで同様の属性が生じ、彼の頭の中に刷り込まれる。つまりそうやってコミュニティの中で裕子の痴態を晒すことで、『裕子を知っている人』をどんどん増やしていっているのよ」
「なるほど、知っている、ということが価値になるんですか」
沢木は今度こそ感心したように頷く。
「しかし、それを突き詰めて行くといつかマンネリになるんじゃないの? 商品価値が下がらないかしら」
黙って聞いていた美樹が口を挟む。
「ある程度のマンネリはかまわないのよ。風俗にも馴染みの女の子っているでしょう。裕子やしのぶ、貴美子たちをニュータウンの男たちにとっての馴染みの女の子にしてしまいたいわけ」
美樹が戸惑ったような表情を香織に向ける。
「人は常に新しい刺激を求めている、なんて嘘よ。それは全体の中のごくわずかな割合に過ぎないわ。多くの人達はマンネリを求めている。それも、偉大なるマンネリを求めている」
「偉大なるマンネリ?」
「水戸黄門がどうしてあんなに根強い人気が有るのか分かる? それは前半ではただの越後の縮緬問屋のご隠居が、いざと言う時は印籠を取り出して天下の副将軍に変身するからでしょう? 水戸黄門のパロディとして作られ、大変な視聴率を記録した学園ドラマも同じ。普段はジャージ姿の冴えない女教師が、生徒の危機には無敵の女に変身する。そこにあるのは一言でいうなら『落差』」
「落差?」
「普段の生活と娼婦としての生活が落差があればあるほどいいの。普段は貞淑で近所でも評判のよい主婦、大学の講師も務めるPTAの女会長、空手道場に通う慶応大学の美人女子大生、成績優秀で中学で一、二を争う美少女、これらの女達が夜は一転して、淫らな娼婦に変身する」
「確かにそんなふうに整理されるとその通りね」
美樹と誠一が感心したように頷きあう。
「それに加えて彼らの関係、互いに信頼しあい、家族としての愛情で結び付いていた一家。その絆が一転して男と女の情欲の絆に変化する。二つの家族を組み合わせることで背徳感は一層増していく」
5人の男女は香織の「調教理論」にじっと聞き入っている。
「家族の関係で最も弱い部分は何か分かるかしら?」
香織は美樹の目を見て問いかける。
「さあ……」
美樹は首をひねる。
「独身のあなたにはピンと来ないかも知れないわね。それはなんと言っても夫婦よ。夫婦は家族の中の唯一の他人。だからこそ大袈裟な結婚式を挙げて、人前で恥ずかしげもなく愛を誓い合う。それは何より夫婦の絆が脆いものだという証拠なの」
「加藤しのぶと小椋道夫に疑似的な夫婦生活を送らせはじめてもう何日になるかしら。本人たちは私に強制されてやむをえずそうしているつもりでも、段々身体が馴染んで、自然につるみ合うようになっているころよ。ましてそれぞれの家族が2人の姿を見るとどう感じるかしら」
香織はそういうと美味しそうに珈琲をすする。5人の男女はしばらく言葉を忘れたように香織の姿を眺めている。
呆然と香織の話を聞いていた黒田が、ふと気が付いたように口を開く。
「そういえば、しのぶ夫人と裕子夫人はどうしたんや。今週は店でも姿を見んようやが……」
「一昨日まで、吉原のソープの講習を受けさせていたのよ」

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